

現代の音楽シーンにおける MIDI活用術
MIDI(Musical Instrument Digital Interface)は1983年の誕生以来、40年以上にわたり音楽制作の中心的テクノロジーであり続けています。近年はコンピューターを中心にしたワークフローが主流となり、USB 、ネットワーク MIDI 、ワイヤレス MIDI など接続方式が多様化。ステージでは iConnectivity社に代表される高度なルーティング・デバイスが普及し、複数のシステムを統合する「ハブ」として活用されています。本記事では、作曲・アレンジ、レコーディング、ライブの観点から、現代の MIDI がどのように活用されているのかを紹介していきましょう。
楽曲制作(作曲・アレンジ)における MIDI
● DAW + MIDIキーボードの基本構成
作曲・アレンジの現場で最も一般的なのは、DAW(Logic、Cubase、Ableton等)と MIDIキーボードの組み合わせです。
接続例
- MIDIキーボード → USBケーブル → パソコン

USB - MIDI が主流となり、ドライバー不要の「USBクラス・コンプライアント」対応機が増加。別途 MIDIインターフェースを用意しなくても、簡単に導入できるようになりました。MIDIキーボードを演奏すれば、DAW内のプラグイン音源(シンセ、ドラム、ストリングス等)を鳴らすことができます。
● 外部ハードシンセとの組み合わせ
アナログ・モデリングやモジュラー・シンセの人気再燃により、外部ハード音源を DAW から制御するケースも増えています。この場合は、MIDIインターフェースを用意する必要があります。
接続例
- パソコン(DAW) → USBケーブル → MIDIインターフェイス/ MIDI OUT → ハード・シンセ MIDI IN

ハード・シンセのオーディオ・アウトから、オーディオ・インターフェースのオーディオ・インに入力し録音します。DAW側で音色管理(Program Change)を行うことも可能で、ハード音源を“プラグインのように”扱うことが可能です。
●iConnectivity などの MIDI複合機を使うケース
制作環境では、複数の MIDI機器をまとめて管理するために iConnectivity の MIDIインターフェースが活用される例もあります。
具体的な活用例
- 1台のインターフェースで複数のハード・シンセを接続したい
- DAW からの信号を複数の MIDI機器へ同時送信したい
- ネットワーク機能を使い、ワイヤレスで別のパソコンと連携したい
これにより、ケーブルの煩雑さを最小化しつつ、大規模な制作環境の一元管理が可能となります。
● ワイヤレスMIDI(Bluetooth MIDI)
軽量の MIDIキーボードや MPE デバイスに搭載されることが増えており、ケーブルレスのため、モバイル制作やノートPC での作曲に最適。レイテンシーはあるものの、入力用途では十分実用レベルとなっています。
機材例:
- KORG nanoKEY Studio(本体にワイヤレスMIDI機能を内蔵し、iPhone / iPad、Mac / Windows とのワイヤレス接続が可能)
- YAMAHA MD-BT01(楽器と iOSデバイスを接続可能)
- CME WIDI Master(MIDIデバイス同士をワイヤレス接続可能)
レコーディング現場における MIDI
● ドラムの MIDI録音
レコーディングの定番手法として、生ドラムの音にサンプルを重ねる方法があります。方法としては、ドラムのレコーディング時に Roland TM-6などのトリガー・モジュールを使い、MIDIデータを音と同時に収録。その後、ドラム音源(Superior Drummer、BFD など)で補完します。サウンドの太さやアタックを後で調整でき、編集の自由度が高まるため、よく使われる方法です。
● シンセの置き換え
アナログ・シンセなどの録音後に、タイミング、ピッチ、音色を修正したい場合、MIDI でも録っておくことで、後編集が圧倒的に楽になります。 オーディオを録音しつつ、MIDI も並行して記録するデュアル録音という手法です。
● オートメーションの MIDI CC化
フィルター(CC74)、モジュレーション(CC1)、エクスプレッション(CC11)など、演奏の細かな表現をつけるために MIDI CC が活用されます。 ハード・シンセのパラメーター編集を MIDI経由で行えば、ミックス段階で音色を再調整することも可能です。
ライブ・ステージでの MIDI活用
● DAW を活用した同期演奏
近年のステージでは、マニピュレーターが扱う DAW の同期とは別に、演奏用にDAW やライブパフォーマンス用のツール(Apple MainStageなど)を活用したシステムが取り入れられています。その際も、MIDI信号を相互に受け取り、バックトラック、クリック、キーボード音色切替、アルペジエーターなど、多くの工程を MIDI で制御することができるのです。
先に紹介した iConnectivity は複数の MIDIポートを分配することができ、パソコン1台からステージ上の複数デバイスを管理できるため、プロのライブ環境での採用が増えています。
● エフェクターやアンプの自動切り替え
ギター/ベースのマルチエフェクターは MIDI制御に対応していることが多く、DAW やフットスイッチ(Morningstar MC8等)を使って音色やエフェクトの切り替えを行うことができる。演奏者の負担を減らし、ステージの再現性・安定性が向上するのがメリットです。
接続例:
- Ableton Live → MIDIインターフェース → Fractal Axe-Fx(曲展開ごとに自動で音色切替可能)

●照明など、舞台装置に MIDI を活用
MIDI は照明などのステージ演出にも活用されています。具体的には、DAW からMIDI信号を DMX MIDIコンバーターを介し、照明卓へ。これにより、曲の展開に合わせて、音と照明を完璧に同期させることも可能となります。さらに、映像も同期させれば、音楽・照明・映像が統合され、ライブ全体の演出が高い精度で制御できるのです。
新規格「MIDI 2.0」と今後の展望
MIDI 2.0は解像度の向上(32bit)、双方向通信、プロファイル設定などにより、機器同士が自動で最適化されるので、音色の表現力の向上、DAW とハード・シンセの完全同期、USB-C /ネットワークMIDI との親和性向上、らイブでのデバイス即時設定が可能になるなど、MIDI は単なる“信号ケーブル”から、制作・演出全体を統合する「音楽のためのデジタル言語」へと進化し続けている。
おわりに
現代の音楽制作、レコーディング、ライブでは、MIDI があらゆる機器と工程をつなぐ中心となっています。 iConnectivity に代表される高度な MIDIルーティング・デバイス、Bluetooth を用いたワイヤレスMIDI、DAW を使った同期演奏システムなど、MIDI の活用範囲はかつてないほど広がりました。
複雑なシステムを統合しながらも、クリエイターは直感的に音楽表現に集中できる──その裏には MIDI の技術があるのです。

株式会社Core Creative代表。株式会社リットーミュージックで、キーボード・マガジン編集部、サウンド&レコーディング・マガジン編集部にて編集業務を歴任。2018年に音楽プロダクションへ転職。2021年、楽曲制作をメインに、多方面で業務を行う。2022年、事業拡大のため株式会社Core Creativeを設立。現在は東放学園音響専門学校の講師なども務め、さらなる事業拡大のため邁進中。






