

音楽業界における楽曲制作の流れ
“曲”はどのように作られ、誰の手を経て世に出るのか? 音楽業界における楽曲制作は、“作曲家が曲を書く”というひと言では語り尽くせない、多くの人と工程が関わるプロセスで成り立っています。アーティスト、作家、ディレクター、エンジニア、ミュージシャンなど、専門性の異なる人々が役割を分担しながら、一つの楽曲=“完パケ”を目指して進行していくのです。本記事では、楽曲が作られてから完成音源として世に出るまでの、一般的な制作フローと人の関わりを時系列で解説していこう。

制作応援キャンペーン開催中!楽曲制作のスタート:コンペか指名か
メジャー・レーベルの案件における楽曲制作依頼は、大きく分けてコンペ形式と指名形式の2種類があります。
コンペでは、レーベルや事務所のディレクターから“アーティスト像”“楽曲の方向性”“参考曲”などが提示され、作家事務所へ展開。複数の作家が同時に楽曲を提出するのです。案件によっては100曲を超える数が集まり、その中から採用される1曲が選ばれます。一方、指名の場合は、特定の作家に直接オファーが入り、その作家が中心となって制作を進める形です。
いずれの場合も、やり取りの窓口となるのはクライアント側(レーベル、事務所)の担当ディレクターが多く、作家は基本的にディレクターを通じて直接、もしくはマネージメント事務所の担当からフィードバックを受け取ります。
ワンコーラス制作と方向性の確認
制作の初期段階では、いきなりフルサイズを作ることは少なく、ワンコーラス(Aメロ〜サビまで)のデモ制作からスタートするのが一般的です。
この段階では、
- メロディの方向性
- コード進行
- 楽曲全体の世界観
- 仮アレンジ
といった“曲の核”がチェックされます。ディレクターからの修正指示を受けながら、メロディや構成をブラッシュアップしていき、“この方向でフルを作ろう”という合意が取れた段階で、次の工程へ進む流れです。ちなみに、コンペの場合は、このワンコーラスで審査されることがほとんどで、採用された時点で、上記の“曲の核”が全部 OK の場合もあれば、部分的に修正を依頼されることもあります。
この時点でのやり取りは、メールやチャット・ツールが中心で、必要に応じてオンライン・ミーティングが行われます。
フルサイズ制作と歌詞の制作
ワンコーラスが OK になると、フルサイズの楽曲制作に入る。同時進行で行われるのが歌詞制作です。
作詞は、
- 作曲家自身が担当するケース
- 別の作詞家に依頼するケース
の両方があります。いずれの場合でも、楽曲の世界観やアーティスト像については、ディレクターを介して細かく共有されるので、それに沿って作詞家は制作を進めていくのですが、ワンコーラスの時点で歌詞を書き始める場合もあれば、フルサイズが完成してから書く場合もあり、そのあたりはケース・バイ・ケースでしょう。完成までは、引き続きメール・ベースでのやり取りが中心となります。
デモ音源完成後:生演奏への差し替え
フルサイズのデモ音源が OKに なると、次はサウンドのクオリティを引き上げる工程に入ります。ここで、打ち込みで制作されていた楽器パートを、生演奏に差し替える作業が行われることが多いです。この時点では歌手のキーが確定していることがほとんどなので、生に差し替えても問題ないのですが、たまに、ボーカル・レコーディング時にキーを変更したいとなる場合もあり、そのときは再録音になります・・・。
生演奏への差し替えは、基本的にはレコーディング予算がどのくらい確保されているか?によります。潤沢に予算が確保されていれば(昨今かなり少ないが)、
- ドラマー
- ベーシスト
- ギタリスト
- ピアニスト
- ストリングス奏者
などのミュージシャンを集め、スタジオでのレコーディングを行うことが可能です。一方、予算が限られている場合は、作家やミュージシャンが自宅で録音する宅録で対応することも珍しくありません。昨今は、後者の部分的に宅録でサウンドのクオリティを上げる方法が多くなっています。これらの選択も、ディレクターと相談しながら決められることがほとんどです。
ボーカル・レコーディング
オケのブラッシュアップが完了すると、次に行われるのが、ボーカル・レコーディングです。 ボーカル REC の進行役はケースによって異なり、
- レーベル・サイドの担当ディレクター
- 作家サイド(プロデューサー、アレンジャー)
のどちらかが立ち会って行われます。アーティストの特性や現場の体制によって柔軟に決められるのです。作家側は、このタイミングでアーティストと直接対面することが多いのですが、立ち会いなしのレーベル主体でレコーディングが行われることもあり、その場合はアーティストに会うことなく、楽曲は完成することになります(そういったケースも実際にあります)。
ミックス:音を一つにまとめる工程
ボーカル REC が完了すると、ミックス作業に入ります。ミックスとは、各楽器やボーカルの音量、定位、質感を調整し、一つの音楽としてまとめ上げる工程です。エンジニアが自宅でプリミックスの作業を行い、その後のミックス・チェックは、近年ではオンラインが主流で、データを共有し、各自の環境でチェックして、その後テキストで修正指示を出す形が多くなっています。ただし、重要作品の場合や予算が確保されている場合は、スタジオに関係者が集まってチェックすることもあるのです。実際、スタジオでのミックス・チェックは直接修正指示を出せる点、文字では伝えにくいニュアンスを伝えやすいので、早く、良い仕上がりになるケースが多い気がします。
ミックス・エンジニアの選定は、
- 作家サイドがリクエストできる場合
- レーベル・サイドが指定する場合
の両方があり、作品の規模や方針によって決定されるのが一般的です。
マスタリング:最終仕上げ
ミックスが完成すると、最後にマスタリングが行われます。こちらもミックスと同様、オンラインでのチェックが増えていますが、スタジオに集まりチェックするケースもあります。理由はミックス・チェックと同様であり、またマスタリング・エンジニアは、レーベル・サイドで決められることが多いのが特徴です。
完パケへ
マスタリングが完了して、z最終音源=完パケとなります。ここに至るまで、作家だけでなく、ディレクター、ミュージシャン、エンジニアなど、実に多くの人が関わっているのが分かってもらえたでしょうか。
メジャー音楽の制作現場では、個々の才能だけでなく、コミュニケーションと役割分担が楽曲の完成度を大きく左右するのです。楽曲は一人で作るものではなく、チームで育てていくもの。その結果として、私たちの元に一曲の音楽が届けられているのです。

株式会社Core Creative代表。株式会社リットーミュージックで、キーボード・マガジン編集部、サウンド&レコーディング・マガジン編集部にて編集業務を歴任。2018年に音楽プロダクションへ転職。2021年、楽曲制作をメインに、多方面で業務を行う。2022年、事業拡大のため株式会社Core Creativeを設立。現在は東放学園音響専門学校の講師なども務め、さらなる事業拡大のため邁進中。






