

音楽クリエイターが知っておくべき“仕事が回る”ファイル管理の基本
音楽制作は、アイディアやセンスだけで完結する仕事ではありません。 現場では、膨大なデータを複数人で扱い、やり取りし、更新し続けることになるので、データ管理が曖昧なまま進行すると、トラブルが発生する可能性が高まってしまいます。 本記事では、音楽クリエイターが仕事をする上で最低限押さえておきたい、ファイル名/フォーマット/トラック名/書き出しルールなど、"現場で本当に困らない"データ管理の考え方をまとめておきましょう。
〜 目次 〜
データ管理は“自分のため”ではなく“他人のため”
まず大前提として重要なのは、データ管理は自分の分かりやすさではなく、他人が扱えるかどうかが基準になるという点です。
関わる相手はさまざま:
- クライアント(音楽に詳しくない場合も多い)
- レコーディング/ミックス・エンジニア
- 演奏ミュージシャン
- 映像編集者、MA、制作進行
それぞれ使用環境も、知識量も異なるので、誰が見ても迷わない状態を作ることが、プロのデータ管理と言えます。
フォルダ構成の基本ルール
まずは、プロジェクト全体のフォルダ構成から見ていきましょう。

フォルダ構成例
(あくまで一例で、自分と相手が分かりやすいネーミングにすると良い)
- 01_Demo(コンペなどに提出したデモ、アレンジ・チェック用に提出したファイルを格納)
- 02_Session(レコーディングに使うDAWのセッションデータ[場合によってはステム、パラデータなど]を格納)
- 03_Audio(主にレコーディング後の録音データを格納)
─ Edit(オーディオ・ファイルをエディットした場合はこちらに)
─ Mix(ミックス・チェック用/完了ファイルを格納)
─ Rec(各楽器、ボーカル等の録音ファイル[パラデータ]を格納)
- 04_Stem(ミックス後のステム・ファイルを格納)
- 05_Master(マスタリング済ファイル[instや-1なども]を格納)
- 06_Document(テキスト周りのファイルを格納)
ポイント
- 番号を振る(環境差による並び順トラブル防止)
- 役割ごとに明確に分ける
- 個人名/感情的な名前(「使えない」「没」など)は避ける
特に「Session」「Para」「Stem」は、外部共有を前提に整理しておくと安心です。また文字化け防止に、1バイト(半角英数字のみ)でファイル名を付けることも推奨されます。
ファイル名の考え方:情報は左から並べる
ファイル名は、開いた瞬間に状況が分かることが理想です。
推奨ファイル名ルール
ProjectName_Version_Date_内容.ext
具体例
ABC_Song_v03_20260128_Demo.wav
ABC_Song_v05_20260130_Inst.wav
ABC_Song_v07_20260202_Mix.wav
気をつけたいポイント
- “final”“本番”“完成“などの曖昧な表現は使わない
- バージョンは必ず数字管理
- 日付は YYYYMMDD 形式で統一
“final_v2”“本当の最終”などは、現場では事故の元になります。
DAWセッション名とトラック名のルール
セッション・ファイル名
セッションも音声ファイルと同様、プロジェクト名+バージョンで管理すると良いです。
ABC_Song_Session_v04.logicx
オート・セーブや、上書きセーブを続けるのではなく、修正ごと(クライアントに提出ごと)に手動で別ファイルとしてバージョンを上げたファイルで保存しておくと、あとで、“あのバージョンに戻したいです”というリクエストにも即対応できます。
トラック名の付け方
トラック名は、書き出し後も生き続ける情報になります。
NG例
- Audio 1
- Piano
- Vocal
推奨例
- Dr_Kick
- Dr_Snare
- Ba_Electric
- Gt_Ac_L
- Vo_Main
- Cho_Female_R
ルールのポイント
- 楽器名+役割
- 略語は業界共通のものを使う
- 日本語や絵文字は避ける
書き出されたファイル名にも反映されるため、最初に整えておくことが重要です。
DAWにファイルを読み込むと、頭の文字列しか表示されない場合があるので、ここでは、“SongName_Dr_Kick”などにしない方が良いです。
書き出し(Bounce / Export)時の基本ルール
共通で守りたい設定
- サンプル/ビット・レートを明記
- 曲頭は 必ず0:00(または1小節目)から
- フェード・アウトは原則つけない(指示がない限り)。フェード・アウトで終わる場合は、大抵マスタリング時にその設定を行うため
一般的な指定例
- 48kHz / 24bit以上(ハイレゾ配信用)
- 44.1kHz / 16bit(CD用)
不明な場合は、必ず事前確認しましょう。
ステム(パラ・データ)書き出しの考え方
ステムとは、ミックス・バランスを保ったグループ単位の音声ファイルのこと。
ステム作成時の注意点
- すべて同じスタート位置
- 同じ長さ
- 空トラックを含めない
- 命名規則を統一
例
ABC_Song_v06_STEM_Drums.wav
ABC_Song_v06_STEM_Bass.wav
ABC_Song_v06_STEM_Guitar.wav
ABC_Song_v06_STEM_Vocal.wav
エンジニアやマニピュレーターに渡したときの再構築を想定し、“開いたらすぐ作業できる状態”を目指すことが大事です。
共有時に必ず添える“ドキュメント”
音声データだけ送って終わりではなく、メモ書きでも良いので、以下の情報を共有すると親切です。
添付したい情報
- 曲の BPM(こちらは必須)
- キー
- 曲構成(例:A–B–サビ–C–サビ)
- 修正点・注意点
- 使用している特殊プラグイン
これらは README.txt や PDF にまとめ、Document フォルダに入れておくと親切。曲の構成については“マーカーmidi”を同梱しておくとさらに親切です。
データ管理は“信頼を積み上げる技術”
丁寧なデータ管理は、音に直接は現れない。
しかし、
- 修正がスムーズ
- トラブルが起きない
- 進行が早くなる
といった形で、確実に評価につながります。“音が良い人”は多いですが、“一緒に仕事がしやすい人”は、少ないです。
データ管理は、音楽クリエイターがプロとして生き続けるための重要なスキルのひとつで、一緒に仕事がしたい人の要因となる大事なスキルなので、ぜひ覚えておきましょう。

株式会社Core Creative代表。株式会社リットーミュージックで、キーボード・マガジン編集部、サウンド&レコーディング・マガジン編集部にて編集業務を歴任。2018年に音楽プロダクションへ転職。2021年、楽曲制作をメインに、多方面で業務を行う。2022年、事業拡大のため株式会社Core Creativeを設立。現在は東放学園音響専門学校の講師なども務め、さらなる事業拡大のため邁進中。






