音楽史とたどるピアノの歴史〜ピアノの祖先から現代の形になるまで

日本では習い事ランキング上位に入るなど、学習人口が多いと言われているピアノ。学校や家庭などに置いてあることもあり、比較的身近な楽器ですが、その成り立ちや進化の過程をご存知でしょうか? 本記事では、ピアノが現在の形に至るまで、どのように変遷を辿ってきたのか、その歴史を紐解いていきます。

Nami
Nami
2026-03-116min read

前提知識:ピアノの構造

ピアノの変遷をたどる前に、音が鳴る仕組みについて簡単に確認しておきましょう。

現代のグランド・ピアノは、原則として88鍵の鍵盤を備えています。内部には200本以上の弦が張り巡られており、鍵盤を押すと連動して “ハンマー” という部品が弦を叩き、音が鳴らす仕組みです。

また、弦には“ダンパー” と呼ばれるフェルト製の装置が接しています。鍵盤を押している間は、このダンパーが弦から離れることによって音が響き続け、鍵盤から指を離すと再びダンパーが弦に触れて、振動(音)を止める役割を果たします。

一般的に楽器は、管楽器、弦楽器、打楽器の3つに分類されますが、この仕組みからピアノは弦楽器とも打楽器とも捉えることができます。構造を知ると、ピアノが両方の性質を併せ持っている理由がよくわかりますね。

クラシック時代区分:

ピアノは西洋音楽の歴史とともに歩んできた楽器です。初めてピアノが誕生したのは18世紀初頭。時代区分でいうと、バロック時代の終わり頃にあたります。ピアノの成り立ちを理解するために、まずは西洋音楽の時代区分をおさらいしてみましょう。

  • 中世:5世紀〜14世紀頃
  • ルネサンス:15世紀〜16世紀頃
  • バロック:17世紀〜18世紀初頭(ピアノが誕生) 
  • 古典派:18世紀半ば〜19世紀初頭
  • ロマン派:19世紀~20世紀初頭 
  • 近代・現代:20世紀以降

今回は、ピアノの祖先にあたる楽器まで遡り、現在の形に至るまでの歴史を紹介します。

ピアノの祖先たち

ハンマー・ダルシマー(10世紀頃〜)

ピアノの遠い祖先にあたるのが、ハンマー・ダルシマーという楽器です。その起源は10世紀頃の中東(ペルシャ付近)にあるとされ、その後ヨーロッパへ伝わり、さらにアメリカやアジアなど、世界各地に広がっていきました。

10世紀は、西洋音楽史では“中世”に分類されます。当時の主流はキリスト教会で歌われていた“グレゴリオ聖歌”などの声楽でした。そのため、ハンマー・ダルシマーは教会音楽というよりも、口承によって伝えられた各地の民謡を演奏する楽器として親しまれていました。

「スカボロー・フェア(Scarborough Fair)」

イングランドの民謡です。

音が出る仕組み

ハンマー・ダルシマーの構造には、現代のピアノに通ずる特徴があります。まず、共鳴箱となる台形のボディを持っている点。そして、ボディに張られた金属製の弦を、ハンマーと呼ばれる撥(ばち)で直接叩いて音を鳴らす点。鍵盤こそありませんが、”弦を叩いて鳴らす”という仕組みは、まさにピアノの動作原理そのものです。

クラヴィコード(16〜18世紀)

16世紀〜18世紀、つまりルネサンスからバロック、古典派の初期にかけて広く愛用された楽器です。
J.S.バッハ(Johann Sebastian Bach)やモーツァルト(Wolfgang Amadeus Mozart)といった偉大な作曲家たちに親しまれてきました。

クラヴィコードの特徴は、当時の鍵盤楽器としては珍しく、音の強弱がつけられたり、ヴィブラートをかけられる点で、表現力の高い楽器でした。しかし“音量が非常に小さい”という弱点もありました。そのため、広い会場での演奏には向かず、家庭での練習用や、プライベートな空間での作曲用として使用されることが多かったようです。

作曲家のエピソードとしては、J.Sバッハが自宅でクラヴィコードを愛用してしていたことは有名です。また、彼の次男であり、名ピアニストでもあった C.P.E.バッハ(Carl Philipp Emanuel Bach)は、“音量が小さいこと以外では、最も優れた楽器だ”という趣旨の言葉を残しています。

「平均律クラヴィーア曲集」

バッハの名曲「平均律クラヴィーア曲集」のタイトルにある“クラヴィーア”とは、当時のドイツ語で鍵盤楽器の総称を指します。これには、クラヴィコードだけでなく、チェンバロやオルガン、誕生したばかりのピアノなどが含まれていました。

音が出る仕組み

クラヴィコードの構造は非常にシンプルかつユニークです。鍵盤(キー)を押すと、その先端に取り付けられた “タンジェント” という小さな金属板が、下から弦を突き上げるように叩いて音を鳴らします。タンジェントが弦に触れている間だけ音が鳴り、鍵盤を離すと消音されます。弦を直接指先でコントロールしている感覚に近いため、ビブラートが可能になるのです。

チェンバロ(15〜18世紀)

15世紀から18世紀にかけて、ルネサンス、バロック、古典派の初期まで愛用された楽器です。英語では、ハープシコード、フランス語ではクラヴサンとも呼ばれます。クラヴィコードと活躍した時代は重なりますが、チェンバロはより大規模で、華やかな舞台で使われていました。

チェンバロの全盛期だったバロック時代は、絶対王政のもと貴族文化が花開いた時代です。そのため、音楽家たちは貴族に仕え、宮廷の宴や儀式のために曲を書き、演奏をしていたのです。
こうした背景から、チェンバロの見た目は華美な絵画や装飾が施されたものが多く、そのサウンドも明るくきらびやかなものでした。

バッハ作曲の「ゴルトベルク変奏曲」は、チェンバロのために書かれた傑作の一つです。
全曲を繰り返し演奏すると、1時間を超える大曲で、現代でもチェンバロやピアノで盛んに演奏されています。

音が出る仕組み

チェンバロの見た目は現代のグランド・ピアノに似ていますが、音が出る仕組みは根本的に異なります。
まず、鍵盤を押すと、内部にある“ジャック”という木製の部品が上へ持ち上がります。ジャックにはプレクトラムと呼ばれる爪がついており、ギターのピックのように弦を弾(はじ)いて音を鳴らします。
“弦を叩く”のではなく、”弾く”構造のため、ピアノやクラヴィコードのように、タッチで音の強弱を付けることは困難なのです。

フォルテピアノ(18〜19世紀)

フォルテピアノとは、現代のピアノの直接的な前身となった楽器です。
バロック時代に全盛を誇ったチェンバロは、構造上タッチの強弱で音量を変化させることができませんでした。これを受けて、1700年ころ、イタリアの楽器製作家であるバルトロメオ・クリストフォリ(Bartolomeo Cristofori di Francesco)によって"フォルテピアノ”が製作されます。
チェンバロの構造を受け継ぎつつ、弦を弾(はじ)く代わりにハンマーで弦を叩くという“ハンマーアクション”を考案したのです。

フォルテピアノの正式名称は、イタリア語で“クラヴィチェンバロ・コル・ピアノ・エ・フォルテ(Clavicembalo col piano e forte=弱くも強くも弾けるチェンバロ)”といいます。“これが省略されて“ピアノフォルテ”、さらに現在の“ピアノ”と呼ばれるようになりました。ちなみに、楽譜でピアノを“ Pf ”と略記するのも、この名残です。

音域は、当時は5オクターブ〜5オクターブ半程度のものが主流でした。ハンマーには鹿革が使用されていることから、現代のピアノより音の減衰が早く、繊細で素朴な音色が特徴です。

フォルテピアノが登場したのはバロック時代ですが、楽器として進化を遂げ、主流となったのは古典派の時代です。
ハイドン、モーツァルト、そして若きベートーヴェンが名曲を次々に生み出したのは、このフォルテピアノによってでした。

音が出る仕組み

鍵盤を弾くと、連動してハンマーが跳ね上がり、弦を叩いて音を鳴らします。
チェンバロのような繊細な操作性と、ハンマー・ダルシマーのような叩いて鳴らす仕組みを融合させたもので、これが現代のピアノに至るまでの基本構造となりました。

モダンピアノ(19世紀以降〜)

18世紀に入ると、世界を揺るがす2つの大きな出来事が起こり、ピアノの姿を変えました。
1つは、フランス革命。それまで音楽は王侯貴族のためのものでしたが、この革命を経て、一般市民も音楽を楽しめるようになりました。そうして音楽の需要が高まると、大規模なコンサート・ホールが建設され、広い会場の隅々まで音を届けるために、より大きな音量と豊かな響きを持つピアノが求められるようになったのです。

もう1つの出来事はイギリスの産業革命です。鋳物技術の向上により、鉄製のフレームが完成。強い弦の張力に耐えられるようになり、木製フレームでは不可能だった大きな音量での演奏が可能になりました。

また、ハンマーの素材が革からフェルトに変わり、より多彩な音色とまろやかな響きを手に入れたのです。

こうして、フォルテピアノから様々な改良を重ねて進化した現在の形を、フォルテピアノを区別して“モダンピアノ”と呼びます。

ショパンの「ノクターン 第2番」

音が出る仕組み

基本的な仕組みは、フォルテピアノと同じですが、細部には違いがあります。
フレームの素材改良に加え、弦の張り方が、以前は平行に張っていたのが、低音の弦と高音の弦を斜めに交差させて張る交叉弦が主流になりました。限られたスペースで弦の長さを最大限に確保でき、より深く豊かな響きが得られるようになったのです。

また、素早い連打を可能にする“ダブル・エスケープメント”などの複雑な機構が追加され、演奏家の高度なテクニックに応えられるよう進化しました。


まとめ

モダンピアノの完成後、家庭でも気軽に楽しめる省スペースなアップライト・ピアノが登場し、さらに現代ではテクノロジーを駆使した電子ピアノも生まれました。
こうしてピアノは、コンサート・ホールだけでなく、私たちの日常に寄り添う身近な楽器になったのです。

筆者は昔、ヨハン・パッヘルベル(Johann Pachelbel)の「カノン」を聴いたとき、“いつも聴くピアノとは違うこの楽器は何だろう?“と不思議に思ったことがあります。その正体はチェンバロによる演奏でした。

「カノン」が作曲されたのは1690年頃(諸説あり)。まだフォルテピアノが誕生する前の時代です。現在ではピアノで演奏されることの多い曲ですが、本来はチェンバロやオルガンといった当時の鍵盤楽器のために書かれた作品だったのです。

ピアノの歴史は、西洋音楽の変遷、そしてヨーロッパの社会情勢と密接に関わりながら発展してきました。
その長い歩みを紐解くことで、いつもの演奏や楽曲をより深く理解するきっかけにもなるのではないでしょうか。

Nami
Written by
Nami

東京出身の音楽クリエイター。 幼少期から音楽に触れ、高校時代ではボーカルを始める。その後弾き語りやバンドなど音楽活動を続けるうちに、自然の流れで楽曲制作をするように。 多様な音楽スタイルを聴くのが好きで、ジャンルレスな音楽感覚が強み。 現在は、ボーカル、DTM講師の傍ら音楽制作を行なっている。 今後、音楽制作やボーカルの依頼を増やし、さらに活動の幅を広げることを目指している。

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