

音楽史と辿るピアノの歴史〜中世時代から現代の形になるまで
ピアノは、クラシック音楽の歴史の中で発展した楽器です。 最初に発明されたのは18世紀はじめごろ。クラシックの時代区分でいうと、バロック時代です。 ピアノが普及したこと、またポピュラー音楽が発展していったことで、今ではクラシックだけでなく幅広いジャンルで演奏されています。 日本では習い事ランキング上位に入るなど、学習人口が多いと言われているピアノ。学校やご家庭に置いてあることも多く、比較的触れる機会が多い楽器ですが、ピアノがどのようにして現在の形になったのか、知っていますか? この記事では、ピアノがどのように進化してきたのか、その歴史を追っていきたいと思います。
前提知識:ピアノの構造
ピアノの変遷を見ていく前に、前提知識としてピアノの音が出る仕組みについて簡単に見てみましょう。
現代のグランド・ピアノの場合、ピアノの鍵盤数は原則88鍵です。内部には200本以上にも及ぶ弦が張られており、鍵盤を押した時に連動して動く、 “ハンマー” と呼ばれる部品が弦を叩いて音を鳴らす仕組みになっています。
また、弦に接している、“ダンパー” と呼ばれるフェルト性の装置がありますが、鍵盤を押している間はダンパーが弦から離れることによって音が伸び、鍵盤を離すことでダンパーが弦に触れ、弦の振動を止める役割を担います。
オーケストラ楽器は管楽器・弦楽器・打楽器の3つに楽器がカテゴライズできるのですが、分類でいうと、ピアノは弦楽器、もしくは打楽器に分類することができるんです。
この仕組みをみると、ピアノが弦楽器や打楽器と言われる理由も理解できますね。
クラシック時代区分:
クラシックの舞台となったのは、ヨーロッパです。17世紀のはじめから20世紀はじめまでのヨーロッパで生まれた音楽をクラシック音楽と呼びますが、今回は少し遡り10世紀頃に使用されていた楽器からご紹介します。
- 中世:5世紀〜14世紀頃
- ルネサンス:15世〜16紀頃
- バロック:17〜18世紀はじめ頃
- 古典派:18世紀前半〜19世紀はじめ頃
- ロマン派:19世紀はじめ頃~20世紀はじめ頃
- 近代・現代:20世紀頃〜
ピアノの祖先たち
ハンマー・ダルシマー(10世紀頃〜)

ハンマー・ダルシマーは、“ピアノの祖先” にあたる楽器です。
10世紀頃に現在の中東で演奏されるようになり、その後ヨーロッパやアメリカ、アジアなど、様々な地域に広がっていきました。
10世紀はクラシック音楽の時代区分でいうと、“中世”にあたります。
中世は教会の力が強かった時代で、この時代では“グレゴリオ聖歌”と呼ばれる教会に捧げる声楽がメインでした。そのため、当時ハンマー・ダルシマーを使って演奏されていた音楽は、口承によって伝えられた地域の民謡が多かったと言われています。
「Scarborough Fair」
イングランドの民謡です。
音が出る仕組み
ハンマー・ダルシマーは台形の形をしたボディをもっています。金属の弦が貼られており、その弦をハンマーと呼ばれる撥(ばち)で叩いて音を鳴らします。”弦を叩く”、という構造がピアノの元となっています。
クラヴィコード(16〜18世紀)

16世紀〜18世紀頃に活躍した楽器です。時代区分でいうと、ルネサンス、バロック、古典あたりの時代になります。
バロック時代に活躍したバッハ(Johann Sebastian Bach)、古典派の作曲家であるモーツァルト(Wolfgang Amadeus Mozart)など、この時代の作曲家に親しまれてきました。
クラヴィコードの特徴は、音の強弱がつけられる、ヴィブラートをかけられる...などといった点です。そのため、幅広い表現をつけられたのですが、“音量が小さい”という弱点がありました。そのため、演奏会で演奏されるというよりも、家庭用や、練習用として使用されることが多かったようです。
作曲家のエピソードだと、J.Sバッハが自宅でクラヴィコードを愛用してしていたのは有名な話です。また、彼の次男であり、作曲家でもあった C.P.E.バッハ(Carl Philipp Emanuel Bach)は、“音量が小さいこと以外の点では、最も優れた楽器だ”という言葉を残しています。
「平均律クラヴィーア曲集」
クラヴィーアとは、当時の鍵盤楽器を総称したものです。
鍵盤楽器にはクラヴィコードやチェンバロ、オルガン、ピアノなどが含まれていたと考えられます。
音が出る仕組み
キー(鍵盤)を押すことで、キーの先についた “タンジェント” と呼ばれる金属の板が、弦を叩くことで音がでます。
チェンバロ(15〜18世紀)

15〜18世紀ごろに活躍した楽器です。英語圏では、ハープシコードとも呼ばれています。ルネサンス、バロック、古典時代ごろに広く使用された楽器です。
チェンバロもクラヴィコードも、活躍した時代は被っていますが、クラヴィコードのほうが歴史が古いとされています。
チェンバロが多く使用されたバロック時代は、教会のための音楽がメインであったルネサンス時代とは変わり、絶対王政がなされ、貴族が強い時代でした。
そのため、音楽も貴族たちが楽しむ宮廷音楽の要素が強く、音楽家は貴族の使用人として仕え、曲を書き、演奏をしていたのです。
このような背景もあり、チェンバロの見た目は華美なものが多く、サウンドも明るく華やかです。
バッハ作曲のゴルトベルク変奏曲は、チェンバロやピアノで演奏される曲です。全曲の繰り返しを含めると、その演奏時間は1時間以上に及ぶこともあります。
音が出る仕組み
チェンバロは、鍵盤を押すと、連動してジャックと呼ばれる木片が上へ持ち上がります。このジャックにはプレクトラムと呼ばれる爪がついており、この爪が弦を弾くことで音が鳴るのです。
見た目はピアノと似ていますが、音を発生させる仕組みは、“弦を叩く”、ハンマー・ダルシマーやクラヴィコードのものとはやや異なります。
フォルテピアノ(18〜19世紀)

フォルテピアノとは、現代のピアノの前身となった楽器です。
バロック時代に活躍したチェンバロは、楽器の構造上弾く強さによって表現をつけることができませんでした。
これを受けて、イタリアの楽器作家であるバルトロメオ・クリストフォリ(Bartolomeo Cristofori di Francesco)によって18世紀はじめ頃に"フォルテピアノ”が制作されます。
弦の張り方などはチェンバロの構造を引き継ぎつつ、チェンバロのように弦を弾くのではなくハンマーで弦を叩く“ハンマーアクション”を採用することで、音の強弱を実現したのです。
フォルテピアノの正式名称は、「クラヴィチェンバロ・コル・ピアノ・エ・フォルテ(Clavicembalo col piano e forte)」で、これはイタリア語で“弱くも強くも弾けるチェンバロ”という意味です。ちなみに、ピアノのことを“ Pf ”と略すのは、この正式名称からきています。
音域は、5オクターブ〜5オクターブ半程度のものが主流で、ハンマーには鹿革が使用されています。音色は現代で使われているピアノと比較した場合、減衰が早く、音量も小さいです。
フォルテピアノが登場したのはバロック時代ですが、主流となったのは古典派の時代でした。
モダンピアノが登場するまで、フォルテピアノはハイドンやモーツァルト、ベートーヴェンなどの音楽家に使用されていました。
音が出る仕組み
鍵盤を弾くことで、連動してハンマーが動作し、弦を叩くことによって音が鳴ります。
チェンバロの構造と、ハンマーダルシマーの弦をたたくといった発音の仕組みが合わさったイメージです。これらは、現代のピアノにつながる発音の仕組みとなっています。
モダンピアノ(19世紀以降〜)

フォルテピアノから現代のピアノの姿になるまで、時代の変化と共に様々な改良が行われてきました。フォルテピアノよりも大きな音量で演奏できたり、より幅広い演奏に対応できたり。現在の形のピアノのことを、フォルテピアノを区別して“モダンピアノ”と呼びます。
18世紀は、人々の生活を変えた大きな出来事が2つあります。
一つは、絶対王政によって自由がなく、さらに重い税を課せられ苦しんでいた市民が反乱を起こし、王政を崩した“フランス革命”です。これをきっかけに、音楽は貴族のものではなく、市民が楽しめるようになりました。需要が高まると、音楽を楽しむためのホールが建設され、ホールで演奏しても聴こえるようにとより大きな音で演奏できるピアノが要求されました。
もう一つはイギリスの産業革命です。
これにより、鉄の加工技術を取り入れ、鉄製のフレームを導入したことで、強い張力で弦を張れるようになり、大きな音への需要を満たせるようになりになりました。
また、フォルテピアノは49鍵盤が主流だったため、より幅広い表現ができるよう音域を広げる試みが行われ、モダンピアノは88鍵盤が主流となっています。
ショパンの「ノクターン 第2番」
"Für Elise" Performed by Lang Lang
まとめ
モダン・ピアノの誕生後、家庭でも楽しめる省スペースなアップライトピアノが登場し、さらに時代が進むと電子ピアノも生まれました。
こうしてピアノは、コンサートホールだけでなく、私たちの身近な存在となっていったのです。
筆者は昔、ヨハン・パッヘルベル(Johann Pachelbel)の「カノン」を聴いたとき、「この楽器は何だろう?」と思ったことがあります。その演奏はチェンバロによるものでした。
カノンが作曲されたのは1690年頃(諸説あり)。まだフォルテピアノが誕生する前の時代です。現在ではピアノで演奏される機会も多い作品ですが、本来はチェンバロやオルガンなどで演奏されていたとされます。そのため、当時の鍵盤楽器を使った作品だったのですね。
ピアノの歴史は、クラシック音楽、そしてヨーロッパの歴史と密接に関わりながら発展してきました。
身近な楽器の歩みを紐解くことで、音楽をより深く理解するきっかけにもなるのではないでしょうか。

東京出身の音楽クリエイター。 幼少期から音楽に触れ、高校時代ではボーカルを始める。その後弾き語りやバンドなど音楽活動を続けるうちに、自然の流れで楽曲制作をするように。 多様な音楽スタイルを聴くのが好きで、ジャンルレスな音楽感覚が強み。 現在は、ボーカル、DTM講師の傍ら音楽制作を行なっている。 今後、音楽制作やボーカルの依頼を増やし、さらに活動の幅を広げることを目指している。






