

AI時代の音楽制作と音楽事務所の向き合い方
近年、音楽制作におけるAI生成ツールの進化が急速に進んでいます。特に Suno AI に代表される“歌声とアレンジまで完成された楽曲を数十秒で生成する“タイプのサービスは、従来の作曲/編曲プロセスとはまったく異なるワークフローで、音楽産業全体に大きな影響を与えているのです。こうしたツールは、単に「自動作曲ができる」だけではなく、歌詞から、メロディ、サウンド、ミックス処理までを一貫で完結させる点で、これまでの DTM や作曲支援ツールとは質的に異なる存在と言えます。本稿では、主要な AI音楽ツールの特徴を整理しつつ、音楽事務所・作曲家それぞれが取るべき向き合い方を考察していきましょう。
主要AI作曲ツールの現在地:Suno を軸とした“生成型AI音楽”の潮流
DTM 経験のない人でも作品を生み出せるのが大きな強みの AI作曲ツール。まずは、執筆時点(2025年12月)で、話題性が高いサービスをピックアップしていきます。日々、アップデートが行われているこれらのサービスを利用する際は、各サイトの最新情報をご確認ください。
Suno AI
- テキストだけで完結した楽曲を生成可能(歌詞、メロディ、アレンジ、歌声まで)
- 複数ジャンルに対応し、完成度の高いミックスまで自動化
- 歌声モデルが非常に自然で、ボーカルAIとしても優秀
Udio
- 日本語テキストから音源生成可能
- Suno よりも音質やジャンル再現性で優れるとの評価も
- セクション指定や編集が柔軟
Stable Audio
- 画像生成AI「Stable Diffusion」を作った Stability AI の音楽生成サービス
- 効果音やアンビエントなど、シネマティック用途に強み
- テキスト・プロンプトからの生成だけでなく、ユーザーがアップロードした音楽を元に新しい音楽を生成可能
AIVA
- 主に BGM の作曲に特化した生成AIツールで、音楽スタイルから独自の音楽を生成できる
- 天日や楽器、和音などの調整ができ、カスタマイズ性に優れている
- プランによっては著作権を所有することも可能
ほかにも、多数のサービスが、日々開発/発表されており、AI作曲ツールの増加は今後も続いて行くと思われます。
音楽事務所はAI音楽とどう向き合うべきか?
AI音楽の普及は、作曲家を抱える事務所にとって脅威である一方、多くの新しい可能性を含んでいると考えられますが、ここからは、事務所の立場からの「スタンス」を明確化していきましょう。
AIを“競合”ではなく“プロダクション資源”と捉える
まずAI作曲ツールは、人間の創作を代替するというよりも、制作の初期段階を高速化したり、デモを高品質に仕上げる補助ツールとして非常に優秀であると言えます。そういった点で音楽事務所は、AI作曲ツールとプロの作曲家をかけ合わせて、活用できる部分は、活用すべきだと考えますが、ツールだよりになるのは避けないといけません。実際、作曲家がAIで複数のアイデアを高速生成し、デモ制作の時間短縮することもできるし、ボーカリストが不在でも、高品質な歌入りデモを作成することも可能です。AIは“下地作りの高速化”に適しています。
著作権、クライアント・ガイドラインへの対応が必須
しかし一番の懸念点は、AI生成による音楽の著作権は誰に帰属するのか?という点。サービスによっては、著作権を作家側が持つことが可能なものもあるが、それが、これまで0から曲を生み出してきた作詞/作曲行為と、同列で良いのか?という点でも疑問が残ります。実際、作家事務所が取り組んでいる楽曲コンペにおいて、生成AI作曲のツールを使うことを禁止しているケースもあります。もし、これを許可してしまうと、一人で1,000曲でもデモ曲を作れてしまうので、妥当な対策ではないでしょうか。また事務所としても、AI作曲ツールの利用範囲を明文化したガイドラインを設ける必要があると思います。
- AIで生成した音源は“デモ用途”まで
- 商用利用する場合は必ず作曲家による再構築を行う
- AI生成ツールでの作曲を許可するクライアントの場合、利用ツールを申告する
このようなルール整備は、クライアントとのトラブル防止に直結すると考えます。
事務所としての価値は「才能のマネージメント」から「 AI時代の創作ナビゲーション」へ
AI作曲ツールの普及で、 “曲が作れること”自体の価値は相対的に下がる可能性があります。
そのため事務所としての価値、また AI の利用についての方向性としては、次の方向にシフトするのではないでしょうか?
- 作曲家の作品の個性のブランディング
- AIツールを適切に使いこなすクリエイティブ性
- クライアントの要望を、AI作曲ツールを使って制作工程に落とし込むプロデュース
- AIを使った制作システムの整備
事務所が主導して“ AI時代の制作フロー”を構築することができれば、 生産性が上がり、組織の競争力を高める武器となる可能性があります。
作曲家は AI とどう共存し、価値を維持・拡張すべきか?
AI の登場で最も影響を受けるのは作曲家自身です。しかし、AIは作曲家の仕事を奪う存在ではなく、“創作力を増幅するツール”として活用すべきと考えます。
また、AI が苦手とする部分も数多くあり、それらは人間の力が必要です。例えば以下のようなことが挙げられます。
- 映像にシンクロした楽器や構成の構築
- 心情やテーマに合わせた繊細な構築
- 独創的なコード進行や変拍子
- 長尺で緻密な構成の楽曲
- 文化・歴史を踏まえたジャンル再構築
- オリジナリティのある音作り
これらは人間の専門性が物を言う部分であり、作曲家の価値が揺らぐことはないでしょう。
AI を“楽曲アイデア生成器”として積極的に使う
AI は次の用途で最も力を発揮します。
- メロディのバリエーション生成
- 歌詞原案の作成
- ジャンル別アレンジの試作
- ボーカル入りデモ制作
- クライアントへの提案数を増やす
作曲家が AI を使いこなすことで、提出スピードとクオリティは大幅に向上するでしょう。
これらを生かした上でAI時代に作曲家として生き残るために求められるのは次の三要素だと思います。
- “人間にしかできない創造”の深掘り
- 感情・世界観・物語性
- 独自の作風
- 楽器演奏やサウンド・デザインの個性
- AI との協業スキル
- プロンプト設計
- 生成結果の活用/補正
- AI に合わせた制作フローの構築
- 技術的理解とプロデュース能力
- クライアントの言語化されていない要望を翻訳し、AI を含む制作手法に落とす力
AI を使うことで、作曲家の領域は「プロデューサー的存在」へ拡張していくことになります。
AI音楽時代における“事務所 × 作曲家”の理想的な関係性
AI の普及により、事務所と作曲家双方の役割は再定義されていくでしょう。その理想形として次のようなモデルが考えられます。
事務所の役割
- AI時代の制作ワークフローの整備
- AI 利用ガイドラインの策定
- 作曲家の持つ独自性のブランド構築
- クライアントからの案件をAI時代仕様でコーディネート
- 作曲家への教育・ツール導入サポート
作曲家の役割
- AI を活かし制作速度・提案力を上げる
- 個性・専門性を深化させる
- AI ではできない領域の価値を追求する
- AI生成素材を再構築し、独自の作品へ仕上げる
このように事務所と作曲家が“AIを共通リソースとして扱う”ことで、 音楽事務所は従来以上のクリエイティブ集団へと進化できる。
結論:AI作曲は脅威ではなく“制作の民主化”― その中でプロはどう輝くか
Sunoを代表とするAI作曲ツールは、音楽制作の敷居を過去最大まで下げました。しかしそれによって、 「誰でも簡単に曲が作れる時代」におけるプロの価値 が、逆に明確になったのです。そして、” AI が作る量産型の音楽”と、人間が作る“意味と物語”を帯びた音楽の二つの差は、これから先、より重要になっていくと思います。
音楽事務所は、AI を拒絶するのではなく、 “ AI を使える作曲家集団”へと進化させることこそ生き残るための重要な要素にもなるでしょう。作曲家は AI によって奪われるのではなく、 AI を使いこなすことで創作の幅と速度を拡張できるので、そういった面で、AI を活用すべきだと思います。

株式会社Core Creative代表。株式会社リットーミュージックで、キーボード・マガジン編集部、サウンド&レコーディング・マガジン編集部にて編集業務を歴任。2018年に音楽プロダクションへ転職。2021年、楽曲制作をメインに、多方面で業務を行う。2022年、事業拡大のため株式会社Core Creativeを設立。現在は東放学園音響専門学校の講師なども務め、さらなる事業拡大のため邁進中。






