源流を知って DAW の理解を深めよう!シーケンサー、MIDI 、MTR 、ミキサーなど...

DAW (Digital Audio Workstation)が登場して以来、手軽に音楽制作を始められるようになりました。 しかし、DAW を始めてなんとなく打ち込みはできるようになったものの、いまいち理解しきれないと感じている方もいるのではないでしょうか。 この記事では、現在の DAW に大きな影響を与えている、DAW の源流たちをご紹介します。 源流を理解することで、DAW の機能について理解も深まるでしょう。

Nami
2025-10-157min read

DAW の基盤を作るものたち

DAW とは、パソコン上で音楽を作るためのソフトウェアのことです。
また DTM とは、パソコン上で音楽制作をすることを言います。

DAW の登場により、 作曲から録音、ミックス、マスタリングまで、音楽制作における完パケまでを一つのソフトで完結できるようになりました。まさに、音楽制作の工程をまるごと実現できるソフトウェアと言えるでしょう。

それでは、DAW はどのような機材たちの存在を集約し、発展してきたのでしょうか。
DAW の源流を、以下の4つの切り口からご紹介します。

  • シーケンサー
  • 音源
  • 録音(レコーディング)
  • ミックス

シーケンサー

シーケンサーとは、演奏情報を記録し再生することで、自動演奏が実現する機材やソフトウェアのことです。そのため、DAW もシーケンサーの一つと言えます。

その起源は意外と古く、シーケンサーの歴史に関する記事を探してみると、オルゴールなどの自動演奏装置も、シーケンサーの原型の一つと言えるようです。

現代の音楽で使われているシーケンサーにつながる機材の登場は1960年代のこと。当時はアナログ・モジュラー・シンセサイザーの制御を目的とした、アナログのシーケンサーでした。

シーケンサーは、あくまで演奏情報を記録・再生し、外部の機器に信号を送ることが目的なので、音源は内蔵されていません。そのため、当時は音源モジュールやシンセサイザーなどの外部機器と一緒に使用されることが一般的でした。

また、シーケンサーのデータ入力には、本体のテンキーのほかパソコン用のキーボードを使うことが多く、それが“打ち込み”という言葉の原点になっています。

シーケンサーと音源モジュール等の接続に大きな影響を与えたのが、1983年に誕生した MIDI規格です。
MIDI (Musical Instrument Digital Interface)とは、演奏情報や操作情報を、電子機器やPC間でデータ伝達するための規格。例えば鍵盤を押してから離すタイミング、押した時の強さ、音程...などといった演奏の情報のほか、テンポや音色バンク、ペダルのオンオフなども含まれています。

MIDI規格により、これらの情報をシーケンサーからも送信することが可能になりました。接続には、MIDIケーブルという専用の5ピン端子のケーブルを使い、対応した機材同士をつなぐことで、機器間で簡単に演奏情報の共有が実現できるようになったのです。

DAW 内のシーケンサーは、MIDI を送受信することができ、これまでハードウェアで行っていたこれらのことを、見やすい UI とパソコンという操作性の良さで、簡単に実現できるようになりました。

そして DAW のシーケンサーは、自動演奏によってライブやレコーディング時の演奏を補助してくれるだけでなく、オリジナルのフレーズを生成できるツールとして、音楽制作時のさまざまな場面で活用されているのです。

MIDI については以下の記事で詳しくご紹介していますので、こちらも是非ご覧ください。

MIDI とは?MIDI できることや、PC へのつなぎ方までご紹介! | ONLIVE Studio blog
DTM を行う上で欠かせない存在、それが MIDI です。MIDI のおかげで、私たちは楽器や演奏情報を DAW 上で自在に操作し、音楽制作をスムーズに進められるようになりました。しかし、「MIDI」という言葉を聞いたことがあっても、いまいちよく理解していないという方も多いのではないでしょ

DAW の前進となったソフトたち

1980年代にコンピューターが普及し始めると、音楽制作にもパソコンを活用しようという試みが始まります。

シーケンサーのソフトウェア化もその一つで、当時普及していたパソコン Commodore 64(コモドール64) 向けに、ドイツの Steinberg は 「Pro-16」 を開発しました。
このソフトは 、MIDI情報を記録・編集することができるシーケンサーでしたが、音源そのものは外部のシンセサイザーを使用する必要があり、コンピューター単体ではまだ音を鳴らすことはできませんでした。

1988年には、Roland から世界初の DTM製品「ミュージくん」という、製品パッケージが発売されます。これは、ハードウェアの音源モジュール(MT-32)と PC9801用の MIDIインターフェース(当時はまだ USB が存在していませんでした)、そしてシーケンサー・ソフトをバンドルしたものでした。
この製品を売り出す際に「DESK TOP MUSIC SYSTEM」という文言が使用され、「DTM」というワードが初めて使用されたとされています。

その後は「ミュージくん」に続き、YAMAHAからは「HELLO!MUSIC!」、KAWAIからは「Sound Palette」など、現在の DAW の原型となる多くのシーケンス・ソフトが発売されていきました。

音源

前章でお伝えしたように、シーケンサーは、それ自体に音源が内蔵されておらず、外部のシンセサイザーか、「音源モジュール」と呼ばれる様々な音源が入ったハードウェアに接続して、音を鳴らしていました。

現在は DAW に標準で音源が内蔵されていますし、別途買い足すことができるソフトウェア音源が主流ですが、かつては音源もハードウェア主流の時代があったのです。

マルチティンバー音源

マルチティンバー音源とは、同時に複数の音色を出すことができる音源のこと。今となっては当たり前ですが、これに対応していない音源は、2種類以上の音色を同時に鳴らすことができなかったのです。

マルチティンバー音源が実現したのも MIDI規格の恩恵によるもので、シーケンサーのトラックごとに別の音色を割り当てることを実現させるためでした。

現在 DAW で使用できるソフト音源は、基本的にマルチティンバー音源です。 NativeInstruments の KONTAKT や IK Multimedia の SampleTank などですが、それらを、わざわざマルチティンバー音源と認識している人も少なくなったと思います。

GM音源

GM音源とは、別メーカーの MIDI機器間などで、音色マップやコントロール・チェンジに互換性を持たせるために制定した「GM規格」に沿って作られたマルチティンバー音源のことです。

この規格が制定される以前の音源やシンセサイザーは、音色マップの互換性に乏しく、MIDIデータで演奏情報を共有しても、ピアノの音がギターで鳴ってしまうなど、必ずしも同じ音色で演奏されるわけではありませんでした。

この GM規格が定められたことにより、さまざまな機器間での MIDIデータの情報共有に、互換性が担保されるようになったのです。

録音

DAW が登場する以前の録音は、マイクからの音声信号を受ける「コンソール(ミキサー)」と、複数のトラックに録音できる機器「MTR」を使うことが主流でした。

以下は、DAW が登場する前の録音の流れです。

音声入力時

マイク → コンソール → MTR

  

MTR(マルチ・トラック・レコーダー)

MTR は、複数の録音ソースを個別のトラックに録音できる機材のことです。MTR を用いた録音を、マルチ・トラック・レコーディングと言いますが、トラック(track)は英語で「走路」や「軌道」といった意味があり、陸上のトラックと同じ意味です。

陸上ではトラックにそれぞれの選手が走るレーンが用意されていますが、音楽におけるトラックも、このレーンと考え方が似ています。

トラックごとに音が割り当てられ、そのトラックが重なり、音楽となるのです。例えばトラック1はピアノ、トラック2はギター...などのように分けてレコーディングすることが可能です。

上記は磁気テープにマルチ・トラック・レコーディングを行った場合のイメージ図で、1本のテープを複数に分割(データ上で)した上で、それぞれのトラックに同時に、もしくは個別に録音していく仕組みになっています。

マルチ・トラック・レコーダーは、ミキサーから送られてきた複数の音声を、トラックごとに録音できますが、この録音方法が登場する前は、全ての楽器演奏を別々に分けて録音することができませんでした。つまりトラックは1つだったのです。

録音の歴史についてより詳しく知りたい方は、こちらの記事をご覧ください。

レコーディングの歴史 | ONLIVE Studio blog
DAW を用いて自宅で簡単に録音を行うこともできるようになった現代ですが、DAW や PC がなかった時代はどのようにレコーディングされていたのでしょうか?録音技術が発達していく流れは、大きく「アコースティック時代」「電気時代」「磁器時代」「デジタル時代」に分けられます。レコーディングの歴

このマルチ・トラック・レコーディングの考え方が、DAW の根幹になっていると言えます。DAW では、トラック数にほぼ制限がないため、100を超えるトラックを作ることも可能です。

ミックス

DAW が登場する前のミックスは、すべてハードウェアで行われていました。アナログのミキシング・コンソールで音量や音質を調整し、必要に応じてアウトボードのエフェクトを使用してサウンドメイクを行っていたのです。

これらの工程を、現在はすべて DAW 上の作業で完結させることが可能です。

ミキシング・コンソール(ミキサー)

ミキシング・コンソール(ミキサー)は、商業スタジオなどでよく見かける、“卓”と呼ばれる音響機器です。

ミキサーにおける、入力信号の処理系統のことをチャンネルと言いますが、複数チャンネルのオーディオ入出力、各オーディオの調整、またそれらのバランス調整ができます。
各調節が終わったら、MTR に音を送ることで、最終的な音を記録することができます。

ミックス

ミキシング・コンソールの各チャンネルには EQ やフェーダーなど、音を調整する機能が備わっていて、これで各音の音質や音量を調整することができます。

ミキサーの機能は、機種によって違いはありますが、以下のようなものが備わっています。

  • EQ
  • コンプレッサー
  • ノイズゲート
  • AUX SUND
  • パン
  • ミュート/ソロ
  • フェーダー
チャンネルストリップ例

このようなミキシング・コンソールの考え方が、DAW に取り入れられているのです。
例えば、Logic pro の場合は、以下の画面がそれに当たります。

この画面は、「ミキサー画面」と呼ばれ、各トラックの音にエフェクト処理を施すことができ、ミックス作業を行うことが可能です。例えば、Audio FX のところで、 EQ やコンプレッサーなどのエフェクターをインサートし、Pan で音の定位、フェーダーで音量調整など、ミキシング・コンソールと同じような機能を搭載しています。

また、この1チャンネル分を縦に抜き出したものをチャンネル・ストリップと言います。 (チャンネルストリップ例の赤枠で囲われた部分)NEVE や SSL などの大型ミキシング・コンソールでは、搭載されているチャンネル・ストリップが高品質で定評があり、その1本分を抜き出してアウトボードとして使用できるようにしたものも販売されているのです。
当時使用されていたアウトボードは現在ではヴィンテージ品となり、高値で取引されています。
現在はこのような名機もプラグインによって再現され、さまざまなエフェクトを手軽に使えるようになりました。


まとめ

以上、今回は DAW の源流をご紹介しました。
DAW は、今回ご紹介した源流たちがまるっと一つになったソフトウェアです。

作曲から録音、ミックス、マスタリングまで、音楽制作における完パケまでを一つのソフトで完結できるようにさせた、まさに音楽制作の全工程を実現できるソフトウェアと言えます。

そんな DAW の源流を知っていくことで、 DAW の概念への理解も深まるのではなないでしょうか。
ぜひこの記事を参考にして、DAW の理解をさらに深めていただければと思います。

また今回ご紹介したハードウェアが、現在全く使用されなくなったわけではありません。     
プラグインは幅が広いラインナップでお値段もお手頃で扱いやすい...一方で、アウトボードや音源モジュールでしか得られないサウンドがありますし、そのキャラクターを追い求めて購入するクリエイターもいます。ハードウェアとソフトウェアにはそれぞれ良さがあり、状況に応じて使い分けているエンジニアやクリエイターも多いのです。

利用者の状況や制作スタイルに合わせて取捨選択ができるのも、現代の良いところですね。

Nami
Written by
Nami

東京出身の音楽クリエイター。 幼少期から音楽に触れ、高校時代ではボーカルを始める。その後弾き語りやバンドなど音楽活動を続けるうちに、自然の流れで楽曲制作をするように。 多様な音楽スタイルを聴くのが好きで、ジャンルレスな音楽感覚が強み。 現在は、ボーカル、DTM講師の傍ら音楽制作を行なっている。 今後、音楽制作やボーカルの依頼を増やし、さらに活動の幅を広げることを目指している。

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