音楽クリエイターが知っておくべき“印税”の基礎知識

“夢の印税生活”なんて言葉を聞いたことがありますか?印税とは、著作物を利用する者、例えばレコード会社や出版社などが、著作権者に対して支払う著作権料のことです。税金の一種ではありません。印税とは、言ってしまえば不労所得なので、この“夢の印税生活”とは、この印税収入で生活ができてしまうという意味ですね。もちろんそんな生活を実現できている人はごく一部なのですが、この印税がアーティストやミュージシャン、クリエイターたちにとっては大切な収入源なので、しっかりと意味や仕組みを理解しておくべきです。法律も絡むとても難しい内容なのですが、ここでは音楽家が知っておくべきポイントを解説していきたいと思います。

Yoshihiko Kawai
2024-04-265min read

印税の仕組み

印税が入るのは「権利」があるから

音楽ビジネスにおいて“権利”というのはとても大事な要素です。

ひと口に権利といっても、まず我々が知っておくべき権利は大きく2つあります。
歌唱や演奏に関する権利(著作隣接権)、そして著作物に関する権利(著作権)。簡単に言うと、それらの権利から発生する対価が印税というわけですね。

ここでは、音楽クリエイターが作詞や作曲をした際に得られる著作権の印税について解説していきましょう。

まず著作権とは著作者が持つ財産権の総称で、複製権、上演権、演奏権、上映権、公衆送信権、譲渡権、貸与権、翻訳権、二次的著作物の利用権などさまざまな権利が含まれます(支分権と言います)。

そして著作者とは作品を創作した人で、音楽で言うと作詞作曲者がそれに当たりますね。

作品を創作すると自動的に著作権を持つことができるのです。さらに著作者は、作品が著作者の意図しないような方法で使われるのを禁止できる権利=“著作者人格権”も持つことができます。

著作権の譲渡とは?

現在の音楽シーンでは、著作者が持つ著作権を音楽出版社へ譲渡し、さらに音楽出版社が JASRAC や NexTone などの著作権管理事業者に管理を任せるのが一般的となっています。

そして、コンサートや CD、配信、テレビなどで音楽を使いたい人がその楽曲の使用料を支払うことで、著作者に使用料=印税が入ってくるわけです(音楽出版社、著作権管理団体が手数料を控除した金額)(図1)。

ちなみに著作者が JASRAC の会員になり、音楽出版社を通すことなく直接著作権の管理を委ねることもできるのですが、レコード会社などが主導で制作した楽曲の場合、指定された音楽出版社に譲渡するのが一般的になっています(主にメジャー・シーンでは)。

直接 JASRAC へ委託すれば、手数料も少なくなりクリエイターの取り分が多くなるのは確かなのですが、著作権を音楽出版社へ譲渡する理由は、音楽出版社は個人では難しい楽曲の管理、そして“利用開発”をしてくれるからです。
音楽をできるだけ多く、広く使われるようにプロモートしてくれるわけですね。

タイアップやラジオの OA なども利用開発の例です。このように、楽曲がさまざまな場面で利用されると著作権使用料が発生するので、それを JASRAC が徴収し、音楽出版社へ分配し、さらに著作者へ再分配します。

図1メジャーシーンにおいての一般的な著作権の譲渡・著作権管理委託に関するイメージ図

権利譲渡は“著作権契約書”で締結するのですが、ここで出てくる呼称で混同しがちなのが、“著作者”と“著作権者”という言葉。

著作者は、前述の通り作品の直接的な創作者であり著作権(財産権)と著作者人格権を保有することができる人です。

著作権者は、その著作者から、著作権(財産権)を譲渡された人(音楽出版社等)を指し、第三者がその著作物を利用する際に許可を出すのも著作権者が行うことになります。

しかし、著作者人格権は譲渡できず著作者に帰属するので、名誉を傷つけられるような使い方に関しては、止めることが可能。このように著作者と著作権者は似ているようで役割は異なるので、しっかり覚えておきましょう(著作権を譲渡しなければ、著作者がそのまま著作権者になります)。

印税が入る仕組み

では実際に、クリエイターにはどのような形で印税は設定され、支払われるのでしょうか?

先述の通り、音楽出版社に著作権を譲渡するのが一般的と書きましたが、譲渡せずに自分で管理することも可能ではあります(自己管理と言います)。

しかし、著作権(財産権)にはさまざまな支分権があり、それらすべてを個人で管理するのは現実には難しく、音楽出版社経由で著作権管理団体に委託するのが一般的になっているわけです。(JASRAC の場合は会員になることで個人でも委託可能)。

ですので、ここでは作家が著作権を音楽出版社に譲渡することを前提に話を進めます。
まず、作家と音楽出版社の印税の分配率ですが、1/3〜1/2が音楽出版社の取り分、残りを作詞作曲家がそれぞれ半々(1/4〜1/3)というのが一般的となっています(図2)。

インストの場合は、作曲者が出版社取り分の残りすべてとなり、また共作(コライト)をした場合には作家の人数で等分されるのが通常でしょう(図3)。

これらの配分率は、当人同士で事前に確認した上で、著作権契約書に記載されるので、契約を結ぶ際にはしっかりと確認しておきましょう。

図2 印税分配のイメージ図:歌もの楽曲の場合
図3 印税分配のイメージ図:インスト楽曲の場合

著作権契約書を結ぶことで、音楽出版社は楽曲を管理し、様々な場面で使われるようにプロモーションをする義務を負うわけです。
その結果、使用料が発生し、クリエイターに印税が入るわけですね。

では実際に作家にはどのようなタイミングで分配されるのか?が一番気になる点かと思いますが、先の支分権それぞれで徴収の方法や時期、著作権管理団体の手数料が異なるので、簡単に説明することが難しいのです。

例えば、CD が何枚売れた、サブスクで何回再生された、コンサートで演奏された、TV で放送された、他のアーティストがカバーした、楽譜が出版された、カラオケで歌われた、などなど、楽曲が使用される場面は多種多様。それぞれで著作権の使用料が発生しますし、徴収タイミングもそれぞれなのです。

ただし、分配の時期は分配規程により決められており、JASRAC、NexTone 共に毎年度6月、9月、12月、3月の4回に分けて行われます。

この4回のタイミングで分配されるのは、音楽出版社に対してなので、各クリエイターへの再分配はその翌月(もしくは翌々月)になることが多いでしょう。分配規程については、JASRAC、NexTone それぞれのホームページで確認することができます。詳細はそちらからチェックしてみてください。


まとめ

このように、一言で“印税”と言っても、契約の内容、各支分権の徴収金額、タイミングによって、クリエイターに分配される金額が決まるわけですね。
そして毎年度4回の分配により、クリエイターが印税収入を得ることができるのです。

音楽で生活できる基盤となる印税。今回はその概要について説明してみました。
難しい点も多いのは確かですが、クリエイターの皆さんはしっかり理解しておきましょう。

Yoshihiko Kawai
Written by
Yoshihiko Kawai

株式会社Core Creative代表。株式会社リットーミュージックで、キーボード・マガジン編集部、サウンド&レコーディング・マガジン編集部にて編集業務を歴任。2018年に音楽プロダクションへ転職。2021年、楽曲制作をメインに、多方面で業務を行う。2022年、事業拡大のため株式会社Core Creativeを設立。現在は東放学園音響専門学校の講師なども務め、さらなる事業拡大のため邁進中。

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