
DI の正式な名称は「Direct Injection Box」です。ダイレクト・ボックスの略称で呼ばれています。
ライブハウスで活動するアーティストの場合は、特にベーシストやアコースティックギターのプレイヤーには馴染みのある機材ではないでしょうか。
DI の主な機能としては2種類あります。
DI の基本機能
インピーダンスの変換
インピーダンスとは、電気信号の流れに対する抵抗値のことです。
楽器と音響機器をつなぐ際には、それぞれでこの抵抗値、つまりインピーダンスの設定が違うため、出力側と入力側の設定値を合わせなくてはなりません。
たとえば、ギターやベースなどの楽器類はハイインピーダンスのものが多く、ミキサーやスピーカーはローインピーダンスになっています。
インピーダンスに差がある状態で接続すると電気の伝送がうまくいかず、「音質が劣化する」「ノイズがのる」などの現象が起こります。
そこで DI を使うことで、インピーダンスを適正に変換し、信号をクリーンに伝えることができるのです。
インピーダンスについては以下の記事も参考にしてみてください。
バランス接続への変換
音響機器の伝送方式には「アンバランス接続」と「バランス接続」があります。両者は、ノイズに強いかどうかで分類されます。
- アンバランス接続:ノイズに弱い
- バランス接続:ノイズに強い
ギターやベースなどのアンバランス接続の楽器は、ノイズ回避のため DI を噛ませることでバランス接続に変換する必要があります。
キーボードなどのバランス接続の楽器であっても、ライブハウスやレコーディングスタジオなどで、ミキサーにつなぐ際に長距離配線となる場合には、ノイズ混入のリスクが高まるので、間に DI を入れることで強い電気信号を送ることが可能になります。
アンバランス接続・バランス接続についての詳しい解説は、「ケーブル」についての記事でご紹介しています。
DI の種類
DI を動かすための電源には、2つの種類があります。
パッシブ
電源がなくても使用可能なタイプです。ナチュラルなサウンドが魅力で、入力する側がアクティブ / ローインピーダンスの楽器と相性が良いです。
アクティブ
電源が必要になるタイプです。乾電池やミキサーから送られるファンタム電源で駆動します。入力する側がパッシブ / ハイインピーダンスの楽器との相性が良いです。
宅録の場合・スタジオレコーディングの場合
自宅録音の場合
多くの DTM 制作者が使う一般的なオーディオインターフェイスには、インピーダンスを調整する「Hi-z 入力」があるため、自宅録音の環境では DI を使わずとも適切な設定での録音が可能です。
今使用しているオーディオインターフェイスが Hi-z 入力に対応しているかどうか、まずは確認してみましょう。「INST」と言う表記になっている場合もあります。
スタジオレコーディングの場合
プロユースの商業用スタジオを使ってレコーディングを行う場合、ギターやベースの録音の際は、楽器をアンプに繋ぎ、スピーカーから鳴らした音をマイクで集音し、そのマイクの音をミキサーに送るのがかつては一般的でした。
現在はアンプから鳴らした音をシミュレートするアンプシュミレーターにも高性能・高音質なものが増え、それらをインターフェイス・ミキサーに直接つないで録音するという方法も多くなっています。
商業用スタジオで使われるようなインターフェイスやミキサーには、インピーダンスやバランス接続を変換する機材が内蔵されていない場合が多いので、高音質なライン録音のためにDI が必要になるでしょう。
DI に搭載される機能
一部の DI には、付加機能が搭載されていることも多いです。
ラインアイソレーター
電気信号を絶縁し、グラウンドループ(複数の機器をつなぐことで起こる信号のループ)からくるノイズの除去に有効な機能です。
適切な箇所が絶縁されていると、電流が他の部分に流れずノイズが除去され、クリアな音が伝送されます。
似たような機能として、グラウンドリフトというものが搭載されている場合もあります。
スルーアウト
楽器からの出力信号を分岐させる機能です。
アンプを鳴らし同時に PA にも音を送り、アンプの音のインパクトと PA のミキサー卓で調整されたクリアな音を混ぜて聴かせたいときなどに使えます。ベースの演奏で活用されることが多いです。
PAD スイッチ
楽器側の出力が大き過ぎる場合、このスイッチを切り替えると入力信号を抑えることができます。この機能は音割れなどの対策になります。アッテネーターと呼ぶことも。
プリアンプ内蔵型
音の出力信号を増幅させたり、音質や音量を調整したりするためのプリアンプ。これと DI機能が一体となったタイプです。楽器専用のものもありますが、マイクプリアンプに楽器の入力端子を備えたモデルもあり、レコーディングに使用する入力端子に合わせて持っておくのが良いでしょう。
マイクプリアンプについては、以下の記事でも詳しく紹介しています。
DI 定番品
BOSS / DI-1
引用:DI-1 - BOSS | Roland Corporation
日本国内では定番中の定番モデル。ライブハウスでよく演奏するミュージシャンならば見たことがない人はいないレベルではないでしょうか。
高性能・高品質でありながらシンプルな設計、また手頃な価格であることから、初心者の方にも手に取りやすいでしょう。
RADIAL / JDI
引用:JDI Premium Passive DI | RADIAL Engneering
レコーディングスタジオで使われることの多いRADIAL。あらゆる音響設備の現場で活躍する、世界でも人気の高い DI メーカーです。
この JDI はパッシブ設計のため、ノイズの影響を受けにくく、また楽器本来の自然な音を出力できることも特徴とされています。
トラックが乗っても壊れないという実験済みの、頑丈なボディであることも選ばれる理由のひとつでしょう。
L.R.Baggs / Para Acoustic D.I.
引用:Para Acoustic D.I. - L.R.Baggs | JES International , Inc.
エレキアコースティックギター用の DI として定番のモデル。
プリアンプ内蔵型で、ハウリングの起きやすいアコースティックギターのために、特定の周波数を抑える機能も搭載されています。
アクティブ設計のため、パッシブのピックアップを取り付けたアコギとの相性が良いとされています。
L.R.Baggs は高品質なピックアップでも有名なメーカーです。組み合わせで更に良い音質を目指してみるのもいいかもしれません。
まとめ
DI の基本的な役割や種類、必要な場面などをまとめました。
スタジオレコーディングでライン録音を考えている人やライブハウスでの演奏の予定がある人、または自宅で使っているオーディオインターフェイスの Hi-z入力がない方は、DI を用意しておくことで、よりクリアで安定した音質を得ることができますよ。
搭載された機能と合わせて、より良い音作りのために活用してみてください。

シンガーソングライター。2012年デビュー。作詞作曲、ステージでのパフォーマンスを軸に活動しています。サッカーチームの応援ソング書き下ろし、企業オリジナルソングの制作、アーティストへの楽曲提供、ラジオパーソナリティなど多分野で活動中