〜 目次 〜
録音技術が誕生する前
録音技術が生まれたのは、19世紀に入ってからです。それより前の時代では、人々が音楽を楽しむためには、自ら楽器を演奏するか、演奏が行われる場所まで行く必要がありました。そのため、この時代の作曲家にとって、創作の最終的なゴールは、生演奏にありました。
また、音楽を記録し後世に伝える手段は、口承、あるいは楽譜のみであり、音そのものを保存するという概念は存在していませんでした。
アコースティック時代(1800年代後半頃〜)
レコーディング黎明期は、まだ電気を使った録音技術が存在しませんでした。そのため、この時代は音のエネルギーを利用して記録していたのです。
蓄音機の発明(1877年〜)
古くから録音の発明は行われてきましたが、実用的な録音技術を世界で初めて開発したのは、有名な発明家である Thomas Edison(トーマス・エジソン)です。
エジソンが発明した蓄音機は、フォノグラフと呼ばれます。フォノグラフは以下の仕組みで音を記録しました。
蓄音器での録音プロセス
1.集音:大きなホーンに向かって音を出し、その振動を奥の振動板へ集める
2.伝達:振動板に連動した針が、音の強弱に合わせて細かく動く
3.記録:回転する円筒(シリンダー)の表面を針が上下に削り、物理的な溝として記録する

この時代のレコードは、現在のような円盤ではなく、円筒型でした。
当時の録音はまだ十分ではなく、低音域はほとんど捉えられず、ノイズも多い状態でしたが、音が保存できるという事実は世界に衝撃を与えました。
また、ドラムなどの大きな音は、針飛びの原因となるためカウベルやウッドブロックに置き換えるなど、蓄音機と相性の良い楽器構成に再構築されました。
レコーディングの際も、ホーンに限りなく近づいたり、逆に大きすぎる音は針が飛ばないようにのけぞったりと、演奏者には、独特の動きが求められました。レコーディングするのも一苦労ですね。
さらに、音の複製技術がなかった初期は、同じ曲のレコードを作るために、演奏家が何度も演奏するか、蓄音機を何台も並べて一斉に回すしかありませんでした。
レコード産業の開始(1880年代後半〜)
改良ポイントがたくさんあった初期の蓄音器。
1888年、Emil Berliner(エミール・ベルリナー)という発明家が、既存の蓄音器のデメリットを改良し、現代のレコードの原型となる円盤型のレコードを発明します。私たちが“レコード”といって思い浮かべる形の先駆けですね。
彼はさらに、レコードの金型となる“スタンパー”を発明しました。このスタンパーの発明により、1回の演奏から大量コピーが可能となり、レコード産業が本格的にスタートしました。
ちなみに、1910年頃までのレコードの売り上げのほとんどがクラシック音楽でした。
1917年、 Original Dixieland Jass Band(オリジナル・ディキシーランド・ジャズ・バンド)によって初めてジャズがレコーディングがされました。さらに1920年には、 Mamie Smith(メイミー・スミス)の「Crazy Blues」が、黒人歌手による録音として初の大ヒットを記録。同時期に Scott Joplin(スコット・ジョプリン)が確立したラグタイムなどの新しいジャンルも人気を博し、ポピュラー音楽(ここではクラシック以外の流行歌を指す)が広く世間に浸透していくこととなりました。
蓄音機による音楽の変化
蓄音機が登場するまでは、ライブによる演奏が基本だったため、長い尺の音楽が主流でした。しかし、初期のレコードは2〜3分程度しか録音できなかったため、クラシックなどの長い曲の場合は、分割して収録せざるを得ませんでした。これが、後のポピュラー・ソングが1曲3分前後になったルーツだと言われています。
また、これまでは演者は舞台で活躍していたため、多少のミスよりもカリスマ性や情熱的な演奏が求められていましたが、繰り返し聴かれることを前提とした、ミスのない正確な演奏が重視されるようになりました。
電気時代(1920年代中盤頃〜)
電気を使った録音の開始(1925年〜)
1925年頃からマイクロフォンやアンプなどの電気技術を活用した録音へと大きな転換を迎えました。マイクが捉えた音の振動を電気信号に変換し、アンプで増幅してレコードに刻む...といったプロセスにより、録音の精度は劇的に向上しました。
この技術革新により、低音域や高音域のキャプチャが可能となり、音が極めて明瞭で高品質になりました。
また、マイクによって小さな音でも拾うことができるようになったことで、表現の幅が広がったのです。
電気時代では複数本のマイクを使うことができるようになりました。
各マイクの信号はミキシング・コンソールへまとめられ、現代で言う BUS のように、1つのトラックにまとめられてレコードに刻まれました。しかし、録音後に編集を加えることはまだできなかったため、文字通りの一発録りという、極限の緊張感の中、演奏が行われていたのです。
サウンド・エンジニアの誕生
アコースティック時代では、全員が一斉に演奏した音をホーン部分(蓄音機のラッパの部分)で直接集めていたため、ミックスやマスタリングという概念は存在していませんでした。
しかし、マイクが登場したことで、複数のマイクを立てて各楽器の音を拾い、それらを集約してレコードに書き込むことが可能となりました。
この、複数の音をバランスよくまとめるという作業が必要になったことで、現代の“エンジニア”に通じる役割が誕生したのです。
ラジオの登場
1920年代中頃にラジオが登場すると、“無料で音楽が聴ける”ようになったことで、レコード産業の地位が脅かされました。さらには世界大恐慌が追い打ちをかけ、当時の多くのレコード会社は撤退や合併、買収を余儀なくされました。
磁気テープ時代(1930年代〜)
1930年代、ドイツにて磁気テープが発明されました。
磁気テープ録音は、音の電気信号を磁気の強弱に変換し、磁性体を塗布したテープに記録する仕組みです。
第二次世界大戦を挟んだため、この技術が世界的に普及したのは戦後のことでした。
磁気テープによる録音は、それまでの“電気録音”に比べて音質が飛躍的に向上し、長時間の録音も可能にしました。
最大の変化は、編集ができるようになった点です。これまでは一度ミスをしたり、納得がいかなければ、最初から録音し直すしかありませんでしたが、磁気テープでは特定の箇所をカットしたり、別のテイクと繋ぎ合わせたりすることが可能になりました。これにより、音楽制作の自由度は劇的に向上しました。
当初は磁気テープが露出した“オープンリール式”が主流でしたが、1960年代半ばには、持ち運び可能なカセットテープが登場し、録音技術はより身近でコンパクトなものへと進化していきます。
この時代、ロックンロールのスターである Elvis Presley (エルヴィス・プレスリー)の人気によって、若者のレコード消費が加速しました。さらに1960年代には The Beatles(ザ・ビートルズ)が登場し、その傾向はさらに拍車がかかることとなります。
マルチ・トラック・レコーディング(1950年代〜)
1950年代、Les Paul(レス・ポール)によって、マルチ・トラック・レコーディングが誕生。
これは、すべての楽器を一度に録音するのではなく、別々のトラックに音を個別に記録し、それらを重ねていく手法です。
Les Paul と聞いて Gibson社のギターを思い浮かべる方も多いでしょう。彼はそのギターの生みの親であるだけでなく、ギタリスト、そして優れたエンジニアや発明家としても活躍した人物でした。
ステレオ録音(1930年代〜)
ステレオ録音の試みは1930年頃から本格的に始まり、1940年にはディズニーの映画『ファンタジア』にて採用されました(当時はステレオではなく3チャンネル)。
その後、1957年には、アメリカにて初の商用ステレオLPレコードが発売されました。
ミキシング・コンソールの登場(1950年代〜)
1950年代半ば、マルチ・トラック・レコーディングの普及と足を並べるように、ミキシング・コンソールも広く活用されるようになりました。
1958年には、 Abbey Road Studio(アビー・ロード・スタジオ)に伝説的な名機、 REDD.17 が導入されます。このコンソールは、その後のビートルズをはじめとする数々のアーティストたちの名盤を生み出し、音楽史にその名を刻むこととなりました。
デジタル時代(1970年代〜)
デジタル録音システムの先駆けは、1967年に日本の NHK技術研究所によって開発されました。その後、1971年には DENON(デノン)が世界初の商用デジタル録音を成功させています。
蓄音機器からテープへと進化を遂げてきたアナログ録音に対し、デジタル録音が持つ大きな利点は、何度でも劣化なく再現が可能という点にあります。
アナログ録音の場合、ディスクやテープという物理的な媒体に記録するため、媒体そのものが劣化すると、音質を元に戻すことはできません。しかし、音をデジタル・データに置き換えることで、半永久的に同じ音を再現できるようになったのです。
アナログとデジタルの違いを知りたい方はこちらの記事をご覧ください。
このデジタルの出現により、音楽制作コストの削減にも貢献しました。
全編デジタル録音された初のヒットアルバムは1979年にリリースされた Ry Cooder(ライ・クーダー)『Bop 'Till You Drop』として知られています。
CD の発売(1982年〜)
1970年代、 Philips(フィリップス)と SONY(ソニー)の共同開発によって CD が誕生しました。1982年に世界で初めて商業発売された CDは、Billy Joel(ビリー・ジョエル)の『52nd Street』だったとされています。
また、現在はあまり見かけなくなりましたが、デジタル黎明期の1984年ころからは、録音、ミックス、マスタリングの各工程がデジタルかアナログのどちらで行われたかを示す“SPARS”コード(ADD や DDD など)が CDジャケットに記載されていました。
DAW の登場(1980年代〜)
現在、私たちが馴染んで使っている DAW (デジタル・オーディオ・ワークステーション)もデジタル録音の一形態です。
1989年に、Digidesign(現Avid)社が、 DAW の前身となるソフト「Sound Tools」を発売しました。DAWとは、パソコン一台で録音から編集までの音楽制作を可能にしました。
その普及により、自宅でもレコーディングが可能となり、自室で楽曲を完成させるベッドルーム・アーティストという言葉が生まれました。自宅から世界的な大ヒットを生み出す時代へと繋がっていきました。
まとめ
若い世代の方々にとっては、“レコード”や“マルチトラック・レコーディング”、あるいは「CD」でさえも、あまり馴染みがないかもしれません。
しかし、現代のDAW の設計思想や基本的な操作は、こうした過去のレコーディング技術に基づいています。例えば、ミキサー画面の構成やBUS の概念、さらにはアナログ特有の温かみのあるサウンドを再現するプラグインも存在などがその証拠です。
こうした録音技術の変遷を知ることで、点在していた音楽の知識が一本の線で繋がり、理解がより深まるのではないでしょうか?
今回触れた”現代のDAWに受け継がれている技術”についても今後は別記事で紹介したいと思います。ぜひお楽しみに!

東京出身の音楽クリエイター。 幼少期から音楽に触れ、高校時代ではボーカルを始める。その後弾き語りやバンドなど音楽活動を続けるうちに、自然の流れで楽曲制作をするように。 多様な音楽スタイルを聴くのが好きで、ジャンルレスな音楽感覚が強み。 現在は、ボーカル、DTM講師の傍ら音楽制作を行なっている。 今後、音楽制作やボーカルの依頼を増やし、さらに活動の幅を広げることを目指している。








