
アルバムの曲順の重要性
海外ではアルバムの曲順や曲間の調整を「アルバム・シーケンス」と呼びます。シーケンスは日本語で「順序」を表す言葉です。
アルバムの曲順を考慮することで、そのアルバムをスムーズに聴いてもらえるようになったり、ストーリー性や芸術性を持たせられたり、個々の楽曲をより魅力的に聴かせることができます。
例えば、激しい曲の後にバラードが流れると、少し唐突に感じてしまいませんか?アルバムの曲順を決定することは、アルバムを単なる作品集とするか、アルバム自体を作品とするかを分ける非常に重要な工程であるため、単なる作業ではなく、クリエイティブな作業の一つと言えるでしょう。
アルバムの曲順で考慮すること

アルバムをどのように聴かせたいかは、人それぞれ。また、作品によっても様々変わってくるでしょう。そのため、アルバムの曲順には正解はありません。
ただ、どのようなコンセプトでも、アルバムの曲順がリスナーにどのような感情を抱かせるか?ということを考えて決めることが大切です。
この章では、アルバムの順序付けの際に考慮したい点をご紹介します。
オープニングトラックはどうする?
アルバムの最初の曲を「オープニングトラック」と呼びます。
この1曲目にあたる曲に何を持ってくるかは、アルバムの印象を決める重要な役割です。
特にストリーミングで CD とは違って、簡単に色んな曲が聴けます。そのため、オープニングトラックで飽きてしまうと、アルバムを聴くのを止めてしまう可能性があります。
シングル曲はどこに配置する?
シングル曲は、アルバム曲よりも認知度が高いことが多いです。
そのため、知っている曲はファンを惹きつけたり、安心感を与えるため、どこに配置するかは重要です。
2曲目以降の曲順はどうする?
オープニングトラックでリスナーを惹きつけたあとにくる、2曲目も大事な要素です。
キャッチーな曲や、アーティストとしての新たな可能性を広げる曲、アーティストが押し出したい曲などが選ばれることが多く、2曲目に着目している音楽リスナーも多いようです。
また、2曲目以降も流れを止めず、どのようにアルバムの最後の曲まで持っていくかを考え、物語のように構築していく必要があります。
キー
同じキーが連続で続いた場合、曲と曲の境目が曖昧になったり、新鮮味がなくだんだんと退屈してしまうかもしれません。一方で曲のキーが離れすぎている場合は、繋がりが悪くなる可能性があります。
テンポ
ゆっくりした曲が続くと、少し流れが悪くなる印象にもなります。一方で、ゆっくりなテンポから急にアップテンポな曲がくると、それはそれで唐突に感じてしまうでしょう。テンポ感も考慮すると、リスナーが違和感なく次の曲へと移行できます。
曲と曲の繋ぎはどうする?
曲と曲を繋ぐには、様々なパターンがあります。
このパターンはアルバムを通して一貫するというよりも、どのように聞かせたいかを考慮して、1つのアルバムの中にバリエーションを持たせるのも良いでしょう。
間髪入れずに次の曲へ
間髪入れずに次の曲へと移行するパターンです。
例えば、椎名林檎の『勝訴ストリップ』の「弁解ドビュッシー」からは間髪入れず「ギブス」へと移行しています。
曲と曲を繋げる
前の曲の終わりの伴奏と、次の曲の頭の伴奏を繋げるパターンです。これにより、作品としてのまとまりが出るため、コンセプトアルバムに良く見られます。
例えば、King Gnu『THE GREATEST UNKNOWN』は「MIRROR」から「DAEW??」まで曲の頭と終わりが繋がっています。
無音
無音を挟んで次の曲へ行く場合は、何秒程度間を開けるかによっても聞こえる印象が変わります。
すぐに次の曲を始めるのか、しっかり余韻を味わってもらうのか...など。
また無音を挟むことで次の曲を新しい章のようなイメージで聴かせることもできます。
遊び心を入れる
コンセプト・アルバムとは
コンセプト・アルバムとは、アルバムにテーマやコンセプトを持たせたアルバムのことです。
特に有名なコンセプト・アルバムとして The Beatles(ビートルズ)『Sgt. Pepper's Lonely Hearts Club Band(1967)』が挙げられるでしょう。
このアルバムは、The Beatles のアルバムですが、Sgt. Pepper's Lonely Hearts Club Band(サージェント・ペパーズ・ロンリー・ハーツ・クラブ・バンド)という架空のバンドのショーをアルバムを通して演出するというコンセプトになっています。
隠しトラック
隠しトラックとは、楽曲のリストには載っていない隠された楽曲のことです。
例えば、海外アーティストだと、NIRVANA『Nevermind』では、アルバム最後の曲「Something in the Way 」から約10分ほど無音が続いた後で「Endless, Nameless」という隠しトラックが収録されています。
日本のアーティストだと、BUMP OF CHICKEN は隠しトラックが多いことで有名で、これまでに47曲もの隠しトラックが存在しているんだとか。リスナーにとっては嬉しいサプライズですね。
実際のアルバム例
The Beatles『Sgt. Pepper's Lonely Hearts Club Band』
コンセプト・アルバムの代表的な例。
Sgt. Pepper's Lonely Hearts Club Band という架空のバンドのショーを演出しています。
1曲目である 『Sgt. Pepper's Lonely Hearts Club Band』では、司会者(という体の Paul McCartney)が、バンドの紹介をするところから始まります。
曲の最後には次曲の演奏者であるシンガー・Billy Shears(という体の Ringo Starr)を紹介し、2曲目に進むという演出です。
ラストの曲『Day in the Life』は、まるでアンコールで演奏しているかのようになっており、全ての楽曲がこのコンセプトに沿っている訳ではないですが、アルバム1枚を通してショーを感じられる作品となっています。
Beyoncé 『Renaissance』
様々なダンスミュージックのスタイルが取り入れられて作成されたアルバムで、曲間は DJミックスを意識されて作成されているため、シームレスに繋がっています。
まるでアルバムを通してひとつの DJセットのように聴ける構成です。
King Gnu『Sympa』
このアルバムには「Sympa Ⅰ」、「Sympa Ⅱ」、「Sympa Ⅲ」、「Sympa Ⅳ」といった短いトラックが3曲に1回の間隔で挟まっています。
メンバーの常田は、アルバムという単位で考えた時に、個々の曲同士に繋がりを持たせるためにインタールードを挿入しようと思い制作したと明かしています。
アルバムの冒頭「Sympa Ⅰ」では、救助を求める演出がされ、ラストの「Sympa Ⅳ」では救助されたというストーリーになっており、テーマ性を持たせる重要な役割を果たしています。
Mr.Children『深海』
曲の終わりと始まりがシームレスにつながったり、無音を挟んだり、さらには「臨時ニュース」のようなアナウンサーの声を取り入れたトラックが収録されており、アルバム全体が滑らかに進行していきます。
通して聴くと、まるで深海へと潜っていき、やがて再び浮かび上がっていくような構成が感じられます。
山下達郎『OPUS ~ALL TIME BEST 1975 ...』
ベストアルバムで、ほぼ年代順に並べられており、山下達郎のアーティストとしてのキャリアを俯瞰できるような構成となっています。
「ほぼ年代順」というのは、バラードの連続を避けたり、曲の緩急を意識して若干の微調整されているとのことです。
曲順を熟考するアーティストと気にしないアーティスト
Billie Eilish は長いプロセスをかけて決定
このアルバム発表時のインタビューで、彼女は曲順について長いプロセスをかけて決めていることを話しています。
曲名を全て書き出し、少しずらしたり、入れ替えたり...頭から通して聴いて違和感があればまた曲順を調整するとのこと。
特に気にする点として「ダイナミクスと自然な流れ」を挙げ、アルバムを通して聴いた時に、まとまって自然に流れていくような曲順を意識しているのだとか。
Adel はシャッフル再生機能を削除を希望
イギリス出身の歌手である Adel は、2021年にリリースしたアルバム『30』の配信に合わせて、Spotify にシャッフル再生機能を削除するよう要望したことが話題になりました。
これを受けて、Spotify はプレミアムプランにおいてのシャッフルボタンをデフォルトで表示することを辞めました。
彼女はアルバムを制作する際、曲順を非常に重要視しており、「私たちのアートは物語を伝えていて、これは意図した通りに聴かれるべきです」と発言しています。
PinkPantheress は曲順を気にしない
SNS を中心に人気を集め、レコード契約に至ったという背景を持つアメリカのシンガー兼プロデューサーである PinkPantheress (ピンクパンサレス)は、アルバム単位では曲を聴かないと公言しています。
そのため、彼女のアルバムの曲順を批判するレビューがあったことに対し「曲を聴いてください」と発言しています。
まとめ
今回はアルバムの曲順についてご紹介しました。
曲順はリスナーに心地よい音楽体験を届けるための大切な要素であり、コンセプトアルバムからそうでないものまで、多くのアーティストが熟考して決めています。
近年はストリーミングが主流となり、アルバム単位で聴く機会が減ったとも言われます。また、記事内で触れた隠しトラックも、サブスク時代には姿を消しつつあります。
それでも、アルバムを最初から最後まで通して作品として楽しむファンは今も少なくありません。
Adel や PinkPantheress の例にもあるように、アルバムに対する考え方はアーティストごとに異なります。さまざまな向き合い方がある中で、自分の作品はどのように聴いてもらいたいか?を選択し、曲順を決めていくと良いでしょう。

東京出身の音楽クリエイター。 幼少期から音楽に触れ、高校時代ではボーカルを始める。その後弾き語りやバンドなど音楽活動を続けるうちに、自然の流れで楽曲制作をするように。 多様な音楽スタイルを聴くのが好きで、ジャンルレスな音楽感覚が強み。 現在は、ボーカル、DTM講師の傍ら音楽制作を行なっている。 今後、音楽制作やボーカルの依頼を増やし、さらに活動の幅を広げることを目指している。







