
R&B は黒人向けポピュラー音楽の総称だった
R&B はどこからきたのでしょうか。歴史を遡ってみましょう。
奴隷制度時代、アフリカからアメリカに連れてこられた黒人たちは南部の農園で働かされていました。そのため、1860年代に奴隷制度が終わってもしばらくの間はアメリカ国内における黒人の人口は南部に集中していました。
1914年以降、それまで南部に集中していた黒人の人々が南部からシカゴやデトロイトなどの北部へ移動する動きがみられはじめます。
この移動の背景には、南部の農園に害虫が蔓延したことによって、他に仕事を探す必要性があったことや北部の工業の人手需要が高まっていたこと、また差別の厳しい南部から逃れるためなどが挙げられます。
この動きは「アフリカ系アメリカ人の大移動」とも呼ばれ、黒人の音楽が南部以外にも広がることのきっかけになり、音楽文化の発展に繋がりました。
1920年代後半には黒人をターゲットにした音楽「レイス・ミュージック」が売り出されます。このレイス・ミュージックは予想外の反響に市場を拡大していきます。
この「レイス・ミュージック」には人種差別的な意味合いが込められていたため、1940年代にはいると時代にそぐわない名前として「R&B」と呼ばれるようになりました。
そのため、当時流行していた音楽であるブギウギやジャズ、ブルース、ゴスペルなどは全て R&B と総称されていたのです。
このことから R&B は大衆的な黒人音楽を指す言葉ともいえ、現代でも黒人音楽をルーツにもつポップスのことを指します。
歴史は繋がっており、R&B に分類される楽曲に共通していえることは源流は黒人音楽にあるという点ですが、時代によって流行は変化していくため、どの年代の R&B を指しているかによってジャンル感が若干異なります。
次章からは、時代ごとの R&B を詳しく見ていきたいと思います。
1940年代〜 初期の R&B
R&B という言葉が使用されるようになった当時、黒人の間で人気だったのはジャズやブルース、ゴスペル、スウィング、ジャンプブルースなどのジャンルでした。
当時の R&B を代表するアーティストとして、Louis Jordan(ルイ・ジョーダン)や Ruth Brown(ルース・ブラウン)が挙げられます。
Louis Jordan は R&B の先駆者として知られているだけでなく、ロックンロールにも影響を与えています。
Louis Jordan『I'm Gonna Leave You On The Outskirts Of Town』
Ruth Brown もまた初期の R&B に貢献した人物です。
Ruth Brown 『Teardrops from My Eyes』
1950年〜60年 ロックンロールとソウルへ
1950年代に入ると、これまで聴衆のターゲットは黒人だった R&B が、白人の若者の間で人気になりはじめます。
そうして R&B は当時白人に人気だったカントリーのミュージシャンにカバーされ始め、カントリーと R&B が融合していきます。
やがてそれはロックンロールと呼ばれ、白人をターゲットに売り出されました。詳しく知りたい方はこちらをご覧ください。
一方で、R&B はゴスペルが中心になっていきました。それまでの R&B にゴスペルの要素が強く反映された楽曲がリリースされ、この音楽はやがてソウルミュージックと呼ばれるようになります。ソウルミュージックは R&B の一部とも捉えることができ、この年代以降はソウルミュージックと R&B は同義語として扱われる場合があります。
ソウルの王様とも知られているSam Cooke(サム・クック)は、1951年にキャリアをスタートしました。
1957年にリリースされた『You Send Me』は、ゴスペルの要素を感じられる R&B 曲で、大ヒットを収めました。
Sam Cooke『You Send Me』
Ray Charles(レイ・チャールズ)もまた、同時期にゴスペルを R&B に落とし込んだスタイルで人気を博したアーティストです。
ソウルミュージックの草分け的存在で、後世に多大な影響を与えています。
Ray Charles『I've Got a Woman』
1960年〜70年 公民権運動との繋がり
1960年代は黒人に対する差別がまだ残るアメリカ社会に対し、一石が投じられた時代です。
黒人の人権に対する意識が大きく変わり、その声はどんどん大きくなり、1963年の公民権運動に繋がります。
この公民権運動に影響を受け、様々なアーティストがプロテストソングを発表します。
R&B においても、以下のような楽曲がリリースされました。
Sam Cooke『A Change Is Gonna Come』
『Say It Loud – I'm Black and I'm Proud』
『What's Going On』
上記の曲たちは公民権運動のアンセムとなり、これにより黒人音楽である R&B はより支持を得るきっかけとなりました。
Motown Record( モータウンレコード)
1960年代〜70年代の R&B において特筆すべきものとして、Motown Record の存在があります。
Motown Record は1959年創設以来、数々のソウルミュージックを生み出し、1960年代の音楽を語る上では外せないレコード会社です。
そのサウンドは「モータウン・サウンド」と呼ばれ、R&B の歴史に名を刻んでいます。
所属アーティストは、Marvin Gaye(マーヴィン・ゲイ)、Stevie Wonder(スティーヴィー・ワンダー)、The Supremes(シュープリームス)、The Jackson 5(ジャクソン5)など、錚々たるメンバーでした。
1970年代 ファンク、サザンソウル
ソウルミュージックが中心になっていた R&B ですが、1970年代には R&B やジャズ、ソウルから派生したダンスミュージックであるファンクが登場します。
ファンクの中心人物となったのは、James Brown(ジェームス・ブラウン)です。
James Brown『Get On Up 』
ファンクは1970年代に形成されたジャンルであり、ディスコの発展にも大きく貢献しました。
また、アメリカ南部では黒人の精神性、そしてより彼らのルーツに根差した音楽を色濃く反映したサザンソウルが発達します。
代表的なアーティストとしては、Al Green(アル・グリーン)などが挙げられます。
Al Green『Let's Stay Together』
1980年 コンテンポラリー R&B
1980年代はシンセサイザーやドラムマシーンなどの電子楽器が登場し、R&B にも取り入れられ、より近代的な R&B へと進化した時代です。
さらに、これまで人気になっていたファンク、ディスコ、HIP-HOP などの要素が混ざり、さらに新しいサウンドの R&B となりました。
このような R&B をコンテンポラリーR&B と呼びます。
1980年代は初期のコンテンポラリーR&B が人気になりました。
アーティストとしては、Whitney Houston(ホイットニー・ヒューストン)や Michael Jackson(マイケル・ジャクソン)などが挙げられます。
Whitney Houston『How Will I Know』
1990年 現代 R&B の商業的成功
1990年には R&B と HIP-HOP が融合したニュージャックスウィングというサブジャンルが流行しました。
HIP-HOP もまた、黒人コミュニティから生まれたジャンルです。
1980年頃からR&B とは別軸で徐々に指示を得ていました。
HIP-HOP についてはこちらの記事でご紹介しているので、合わせて見てみてください。
Michael Jackson 『Remember The Time』
Mariah Carey は自身のアルバムで『Fantasy』という曲に ヒップホップアーティストである Ol' Dirty Bastard(オール・ダーティー・バスタード)を迎えました。
これは、R&B と HIP-HOP の融合に貢献しただけではなく、ラッパーをフィーチャリングするという楽曲スタイルの先駆けとなりました。
Mariah Carey 『Fantasy』
また、この頃には Usher(アッシャー)や MARY J. BLIGE(メアリー・J. ブライジ)、TLC、そしてBeyoncé(ビヨンセ)を含むDestiny's Child(ディズニーズチャイルド)など、様々なアーティストがチャートに名を残しました。
このことから、1990年代は R&B が商業的に成功した黄金期とも呼ばれます。
お気づきの方も多いかと思いますが、クラシックな R&B とはサウンドの雰囲気がかなり異なります。
そのため、このコンテンポラリーR&B を受け入れられないファンもいたとされます。
2000年代〜 ネオソウル
2000年代は原点回帰に近い動きがあり、ネオソウルというサブジャンルが登場しました。
ネオソウルは、生楽器が使われ、R&B のルーツに近い要素を多く反映しており、1990年代から流行していたコンテンポラリーR&B とは対照的なジャンルともいえます。
代表的なアーティストは D'Angelo(ディアンジェロ)や Erykah Badu(エリカ・バドゥ)、Alicia Keys(アリシア・キーズ)などが挙げられます。
D'Angelo『 Brown Sugar』
Erykah Badu『On & On』
まとめ
以上、今回は R&B についてご紹介しました。
筆者は昔、R&B と一口に言っても、人によってイメージする楽曲が全然違うと感じていました。
学生時代に通っていた作曲スクールの先生に好きなジャンルを聞かれた際、Mariah Carey や TLC、Erykah Badu などをイメージして R&B と回答したところ、先生がイメージしていたのはモータウンのアーティストたちでした。
「もしかしたら自分は R&B というジャンルを勘違いしているかも...?」と思い、帰って R&B について検索してみても、いまいちよく分からず、その定義が曖昧だったことを覚えています。
今思えば、私は1990年代付近の R&B、先生は1960年代付近の R&B のことを話していました。
もちろんどちらも R&B ですが、R&B が指す音楽の範囲が広いため、このようなすれ違いが生じていたんですね。
歴史を紐解くことで、そのジャンルへの理解はより深まりますね。

東京出身の音楽クリエイター。 幼少期から音楽に触れ、高校時代ではボーカルを始める。その後弾き語りやバンドなど音楽活動を続けるうちに、自然の流れで楽曲制作をするように。 多様な音楽スタイルを聴くのが好きで、ジャンルレスな音楽感覚が強み。 現在は、ボーカル、DTM講師の傍ら音楽制作を行なっている。 今後、音楽制作やボーカルの依頼を増やし、さらに活動の幅を広げることを目指している。