CM 音楽制作について〜
「企業タイアップの曲を作ってみたい」、「自分の楽曲がCMで流れたらなぁ」…楽曲制作をする人なら、一度は考えたことがあるのではないでしょうか。CMとは、commercial messageの頭文字をとった言葉で、商業放送の中で行なわれる広告宣伝文句のこと。企業イメージや商品イメージを視聴者や聴取者に訴え、興味や購買意欲などを抱かせることを目的とします。コマーシャルとも言いますね。放送される場所はテレビ、ラジオ、そして今はインターネットが大きなマーケットになっています。そんなCMで使われている音楽は、どのように制作されているのでしょうか? ここではCM音楽を制作する際の流れを見て行きましょう。
CM 音楽の種類とは?
CM の中で使われる音楽は、大きく2種類あります。
1つは歌モノ、もう1つは背景音楽、いわゆる BGM です(ちなみに、サウンドロゴや SE も音楽の一部と言えますが、今回はそちらは除きます)。
さらに歌モノの中にも2種類あり、アーティストの楽曲、そしてその商品や企業のためのオリジナル CM ソング。
商品名を歌詞に取り入れた CM ソングなどは、ついつい口ずさんでしまうキャッチーな曲がたくさん作られていますよね。
また、アーティストの既存楽曲を使って、歌詞を企業名や商品名に変えた、替え歌の CM ソングなどもよく聴かれます。
CM ひとつで商品の売上、認知度、企業イメージなどが大きく左右されるので、各社工夫を凝らして制作しているのです。
特にテレビ CM やインターネットの場合は、音楽はもちろん映像がとても重要なファクターなので、出演する人物(タレントやアーティスト、キャラクターなど)によるイメージは大きな影響力がありますね。
ラジオ CM の場合は、言葉と音楽のみで作られるものがほとんどでしょう。こちらは声優やナレーターさんなどの声も重要になってきます。
アーティストの楽曲を使用する場合
では実際に「 CM 音楽制作」は、どのような過程を経て作られているのでしょうか?
種類ごとに確認してみたいと思います。
まず、アーティストのオリジナル楽曲を、テレビ CM で使用する場合について。この場合は
1、CM 用に音楽を新規で制作する
2、既存の楽曲を使用する
3、タイアップとして楽曲を使用する
というパターンに分けられると思います。1と3は同じ案件として進める場合もあるのですが、前提としては区別しておきます。
まず新規で楽曲を制作する場合、広告代理店や CM 制作会社などがアーティスト・サイドへ CM 楽曲の制作依頼を出すことが多いでしょう。
なお、どのアーティストに依頼を出すかは、商品のターゲット層と、アーティストのファン層が重なっているというのが考慮されるのが通常かと思います。
両者の条件等がクリアになったら、実際の制作においての詳細を詰めていくのですが、その CM が、どこの企業の商品(サービス)で、放送の時期やターゲット層、CM 出演する人物、映像のイメージなどなど、CM の内容におけるさまざまな情報が共有され、そしてどんな楽曲を希望するかが伝えられます。
情報の伝達はメールで完了する場合もあるし、オンライン・ミーティングをしたり、実際に担当者と会って説明を受け、資料などをもらった上で制作に取り掛かる場合もあります。
そして、実際の制作ですが、アーティストが自作自演できる場合は、その要望に応じて楽曲制作を開始します。テレビ CM の場合は15秒、もしくは30秒で制作されることが一般的ですので、その尺の中で、歌詞やサウンド面に対するリクエストがあるかと思います。
とにかく、何回かのやり取りを経て、デモを聴いてもらい、レコーディングが必要ならレコーディングを行い楽曲を納品するという流れになります。
制作自体における過程は、通常の楽曲制作と変わりはないですが、レコーディングにクライアントが見学に来たり、ドキュメンタリー・ムービーを撮影したり、通常とは異なるさまざまなお願いもあるかもしれません。
一方、楽曲提供を受けるアーティスト(シンガーやアイドル・グループなど)の場合も、クライアントの意向に沿って制作を進めていくのですが、この場合、楽曲コンペで募集をかけるケースもあります。
コンペシートにクライアントからの希望や商品名まで提示される場合もありますし、某清涼飲料水の CM といった書き方の場合もあります。
とにかく CM 音楽は、クライアントの意見に沿って楽曲制作が行われるのです。
CM タイアップとは?
タイアップとは、簡単に言うと相互的に利益を共有する施策という意味で、CM タイアップの場合は、アーティスト・サイドはしっかり自分たちの曲を宣伝したいですし、企業側もしっかり自分たちのサービスを広めたい。
CM 中に、アーティスト名と楽曲名が表示される場合がありますが、それらの多くはタイアップのケースだと想像されます。
タイアップが決まる経緯としては、レコード会社や事務所との関係値もありますし、プロモーターの営業努力によって決まることもあると思います。いわゆるメジャー・レーベルは、その点が強みでもありますね。
実際の楽曲制作の流れについては基本的な部分では同じですが、クライアントの意向が反映される度合いは、先のケースとは異なるでしょうね。
もしかして、楽曲に関しては大きな要望はなく、そのアーティストの曲なら OK という場合もあるかもしれませんが、大抵は、イメージに沿った楽曲を作ると思います。
また新曲として作られた楽曲を、プロモーションの過程で CM 曲に採用される“後からタイアップ”のようなケースもあります。
既存曲を使用する場合は、よく知られている曲が多いと思うので、その楽曲ありきで、映像面が作られることが多いでしょう。替え歌にする際も同様ですね。
BGM としての CM 楽曲
BGM のみを使用している CM も多数あります。
この場合のほとんどは、CM 楽曲制作会社が主導となり音源制作をするのがほとんどのケースだと思います。そこに所属する作曲家が作る場合もありますし、フリーランスの作家や、外部音楽プロダクションへ外注する場合もあります。
制作についての打ち合わせは、歌モノ楽曲と基本的には同様ですが、歌モノと大きな違いは、CM の尺、映像の内容により親和性のある楽曲を作る必要があることでしょう。
この場合、アーティストがいないことをいいことに? 楽曲に対するクライアントからの要望はとても細かい点にまで及ぶことが多々あります。
サウンドのイメージから、テンポ感、使用楽器について、また音の鳴る位置を秒単位、msec 単位で調整するなど、より映像に合わせるための制作テクニックも必要になってくると思います。
実際の CM 楽曲制作事例
ここで一つ実例として、弊社が関わった CM 音楽の例を挙げてみましょう。こちらは、BGM の制作案件でした。
まずは以下の映像をご覧ください。
こちらの楽曲の制作において、まず伝えられたポイントは、
・心情が伝わるようなテンポ感とサウンド感(楽曲のリファレンスもあり)
・3人のパラアスリート選手が登場するので、3つのセクションがほしい
・尺は180秒(30秒バージョンも同時に制作)
ということでした(もっと細かなリクエストはありましたが・・・)。
これらの情報を元に、まずはメインの楽器を何にしようかを考えました。
リファレンス曲にもあったのですが、“普通”なのは避けたいというクライアントからの要望もあり、チェロにすることにしたのです、しかも三重奏で。
これは3人の選手が登場するという点にもかけていて、サウンド的にも重厚感が生まれ良いのではと想像されたからです。
そこからスタートしたものの、打ち込みによるデモテイクを提出しては修正を繰り返す日々。軽く10回は超えていたと思いますが、この CM は、いわゆる商品やサービスを知ってもらうためではなく、選手たちの思いを伝えるものだったので、その心情に寄り添うための楽曲にするためには、どういった方向性が良いのか?という点が、とても難しかったのです。
結果、楽曲としてはイントロから、3選手が登場するセクションの3つのパートを作り、エンディングへとつながる構成にし、それぞれのパートで音楽的にも変化をつけるように仕上げました。本当に秒単位での修正も行われていましたね。
最終的にはチェロの三重奏をスタジオでレコーディングしたのですが、それまで打ち込みだったデモトラックから、実際にレコーディングされたトラックを聞いてもらった際には、クライアントからも評価を頂き、無事に制作完了となったのでした。
これはあくまで一つのケースです。世の中に数多ある CM 楽曲は、時間としては短い曲が多いですが、その数十秒の中にいろいろな人が意見や知恵を出し合い、多くの時間をかけて制作されているのです。
CM 楽曲にまつわる著作権について
音楽クリエイターが、生活して行く上で特に意識しておかなければいけないのは著作権収入です。
著作権が大事なのは CM 楽曲だけについての話ではないのですが、CM の場合、新曲で曲を書き下ろすときと、既存曲を使用する場合とで、著作権の扱いが異なるケースがあります。
詳細は別の機会でお話しようと思いますが、いずれにおいてもポイントになるのは、著作者がしっかりと契約の内容を把握した上での、許諾が必要となるということです。
まとめ
今回は CM 音楽の制作についてまとめてみました。
大前提として、ここで紹介した例はあくまで一例であり、すべての CM 音楽が同じように制作されているわけではありません。
クライアントの意向も様々で、関わってくるスタッフや会社の数も案件ごとに異なります。大事なのは、クライアントが希望するイメージを音楽で最大限に表現するということです。
時には自分の作った楽曲に対して、意図しないオーダーが来ることもありますが、その意向を汲んで、答えていくのがプロフェッショナルということでしょう。
これは CM 音楽に限らず、楽曲を受注するという点で共通して持っていなくてはいけない認識ですね。
普段の生活の中で、CM 音楽はすごく身近に聞いていると思いますが、一つ一つの曲には、さまざまな企業やアーティストのメッセージが込められているといっても過言ではありません。
そんな視点で CM 音楽を聴いてみると、また新しい発見があるかもしれませんね。
株式会社Core Creative代表。株式会社リットーミュージックで、キーボード・マガジン編集部、サウンド&レコーディング・マガジン編集部にて編集業務を歴任。2018年に音楽プロダクションへ転職。2021年、楽曲制作をメインに、多方面で業務を行う。2022年、事業拡大のため株式会社Core Creativeを設立。現在は東放学園音響専門学校の講師なども務め、さらなる事業拡大のため邁進中。