作家事務所に入るには?コンペについてや作曲家の働き方、そしてアドバイス Core Creative 代表:河合良彦氏「何か行動をすることで将来的に繋がることはある」

音楽プロダクションやレーベル運営など、幅広い事業を展開する株式会社Core Creative(以下:Core Creative)。作家事務所として、所属作家と連携しながら楽曲コンテスト(以下:コンペ)や楽曲制作に取り組んでいます。 今回は、代表の河合良彦氏にインタビュー。音楽事務所に所属するためのポイントやメリット、作家として活躍するためのアドバイスなど、作家を目指す方々が気になるトピックについてお話を伺いました。

Nami
2025-06-1112min read

Core Creative に所属するには「楽曲のクオリティが最初の足切りライン」

-Core Creative では作家のマネジメントもされており、作家事務所としての役割も担っているとのことですが、作家は何人ぐらい所属していますか?

業務提携の作家を除くと、20人程です。

-HP から応募がきた時の合格基準はありますか?

ありがたいことに月に何件か応募は来ているんですが、うちに作家として所属する場合、まずコンペに参加してもらうことが前提なので、デモ音源として提出してくれる楽曲のクオリティが最初の足切りラインになります。あと、作家活動と並行してアーティスト活動をしている方からの応募もありますが、その場合は両方の活動内容を加味して採用を考えています。作家活動とアーティスト活動はベクトルが異なりますが、曲を作るという根幹は共通しているので、どちらかだけで採用するというより、作家とアーティストの両方で所属させるか?という点も考えるんです。

-採用の流れを簡単に教えていただけますか?

HP からの応募も、専門学校等に直接発掘に行った場合も、大体同じ流れなのですが、デモ音源が一定のクオリティに達していると判断できれば、 次のステップとしてトライアルでの楽曲制作を依頼しています。いわゆるコンペのフォーマット形式で依頼し、それも合格という判断に至ったら面談します。作家によっては、バンド活動をしていたり、ボカロP としても楽曲をリリースしたいなど、いわゆるアーティスト活動もしている人もいるので、純粋な作家業にどのようなスタンスで取り組みたいのかは人によって異なるんですよね。その面談で、弊社の求めるスタンスに合致すれば、仮採用という形で次のステップに進んでもらいます。

以前はこのトライアルに合格したら所属としていたんですど、1、2ヶ月経つと幽霊部員というか、急に連絡が取れなくなったりする作家が少なからずいたんですよね。
面談でそのあたりを見抜くのは難しく、まずはコンペを継続して提出できるかが、その先、本当に作家として続けていけるかの判断基準になります。なので今は、仮採用という形で試用期間を設けて、期間中に問題なくコンペに参加できているか?社会人としてのやり取りがしっかり行えているか?ということを確認して、正式採用とするようにしています。

-音源のクオリティだけではなく、社会人としての信頼性も見ていらっしゃるということですね。

そうですね。その方がいくら良い曲を作っていても、レスポンスが遅かったり、急に連絡が取れなくなったりすると、事務所としての信用問題に関わってきますし、今売れっ子と言われている作家さんたちは、そういった人間性も優れていると思うんです。

とはいえ、若い子たちは、まだ成長過程でもあると思っているので、改善の余地があるかどうかも含めて判断しています。

-一緒に仕事をする上で、社会人としてのマナーは大切な部分ですね。

専門学校などでは曲をどう良くしていくか?というメソッドだけではなく、事務所での立ち回りや対クライアントとのやり取り、現場での行動など、そういったことの大事さも経験させていってほしいなと思いますね。あと請求書の書き方とかも(笑)。

コンペについて「迷いは音に出る」

-作家事務所に所属するメリットとして、特定の事務所にのみ依頼されるようなクローズドなコンペに参加できることが挙げられると思います。コンペの情報が Core Creative にくるスパンはどれくらいですか?

時期によってバラバラなんですけど、平均週2案件ほどでしょうか。
今週はちょっと多くて、多分10曲ぐらい募集が来ています。1つの案件の中でも、3パターン募集をしていることもあったり、様々ですね。

コンペの締切も案件によって異なるので、短いものだと締め切りが一週間以内だったりするんですよ。それでその2、3日後にまた違うコンペが来て、今度は10日後の締切だったり。そうやってパズルのように締切が入り組んでいきます。その中で、作家たちはそれぞれ参加するコンペを何日で仕上げるかを考えつつ、自分の予定も決める必要があるので、スケジュール管理は、結構大変かなと思いますね。

-デモはどれくらいのタイミングで上がってくるんですか?

結構締め切りギリギリが多いですよ。制作途中段階で迷ったら相談していいよって言ってるんですけど、意外とそういうやり取りをしようとする作家は少ないですね。
自分の中に明確なイメージがあって、迷いがなければそのまま突き進んでもらっていいんですけど、僕は迷っていたら第三者に相談して欲しいなって思います。

というのも、迷いは音に出ると思っていて。迷いながら作った曲は「迷ってるな」というのを感じますし、クライアントも見抜くんじゃないかと。

ジンクスではないですけど、結果採用された曲は一瞬でできちゃったという話を聞いたことがあるので、迷いなく作れていると、その迷いのなさが聴く方にも伝わるんじゃないかなって思います。

-ゴールが定まっていないと、遠回りをしてしまったり、そもそもどこへ向かえばよいのか分からないですもんね。
作家から相談があった場合、フィードバックはどういうことをされるんですか?

依頼者の要望やリファレンス曲を僕なりに解釈して、メロやアレンジに使っている楽器、テンポ感など、こういう路線が良いんじゃない?といったことをフィードバックします。あと、単純に歌のキーレンジから外れて作っているなどのケアレスミスがあることもあるので、その時はちゃんとコンペシートを再確認させたり。

他には、ボーカルエディットのクオリティも以前はよく指摘していましたね。
今は Synthesizer V などの音声合成ソフトで仮歌を入れることが増えているので、ピッチとかタイミングは最初から合ってるんですけど、逆に生の歌声・・・キーレンジやブレスのタイミングなどを意識するのを怠ってしまいがちなので、その点は注意してもらっています。

難しいのが、先方が「こちらで採用させていただきます」って言われたらそれが正解なので、僕のフィードバックが必ずしも正解ではないんですよ。ただ、こういう楽曲を望んでいるんじゃないか?今回はこういう楽曲がアーティストに合うんじゃないか?ということをイメージしているだけですね。

-コンペによく通る作家はいますか?

うちの事務所は、まだそういった“売れっ子作家”と呼ばれるようなメンバーはいないですね。去年通ったコンペ曲は全部違う作家が作った曲でした。

-コンペに選ばれやすい曲や、通った曲に共通するものはあると思いますか?

以前は「仮歌が良ければ選ばれやすい」なんて話がありましたけど、ここ最近で通った曲の仮歌は Synthesizer V だったり、歌詞が入っていなくて「ラララ〜」で歌っているものであったりして、一概にはそうは言えないと感じています。歌のクオリティもそうですが、アレンジやミックスの精度が高いことに越したことはないんですけどね。

リリースされた曲で採用曲を知るという感じなので、曲を選ぶ基準はこちらには伝わってこないんですよ。なので、曲を選定するディレクターやアーティスト本人に、いかに”そのアーティストが実際に歌っている姿”を、想像させる楽曲が提案できるかということが重要なんじゃないかなと思います。

-作家同士で、コライティングは行っていますか?

推奨していますね。新人の作家たちは、コライトをやったことがなかったり、自分流のやり方や通っていた学校の流儀しか知らない部分があるので、先輩作家たちと一緒にコライティングすることで、いろいろな方法を知ってもらいたいといいますか。世界ではコライトが主流ですしね。

-一回のコンペで曲はどれくらい集まりますか?

それもほんとバラバラで。作家の得意な曲の傾向とかで、多かったり少なかったりです。
ただ、事務所としてはせっかくコンペの案内をもらっているので数曲は提出したいなとは思っていますね。

提出することで、レコード会社や事務所へのアピールじゃないですけど、やっぱり継続して集められていることが作家事務所として大事だと思いますし。

なので、どうしても書き下ろしで曲が集まらないときは、いわゆるストックという、過去に作った曲の中からそのコンペに合いそうなものを見つけて提出することもあります。

ストック曲からでも採用されたこともあるので、やっぱりコンペって本当にその時々で合うか合わないかなんだなって思いますね。

作家の制作と生活のバランス「甘えられるうちは甘えた方が良い」

-これまでの話を伺って、作家はスケジュール管理が大変そうだと感じました。

そうだと思います。
締め切りもそれぞれバラバラですし、制作をしたいけど生活のためにバイトもしなきゃいけなくてなかなか曲を提出できなかったり。コンペに採用されると、またそちらの制作スケジュールも入ってきますしね。

-コンペに採用されると、どういうスケジュールで制作が進んでいくのでしょうか?

幾つかパターンがありますが、楽曲が採用される際に、どこまでその楽曲の制作に関わるかを提示されます。コンペの時点では大抵ワンコーラスで提出しているので、フル尺まで作って、アレンジは別の方が担当。アレンジまでこちらで担当。レコーディングまで担当というケースがあるかなと。作詞は仮歌詞がそのまま採用されることもあるし、別の方が新たに作詞をするパターンもあります。とにかく、採用された場合、最初はフル尺の制作になるので、大体1〜2週間で仕上げて、アレンジも担当する場合は、さらに提示されたスケジュールで作業していきます。1ヶ月くらいは制作に時間は使うでしょうか。その後もレコーディングの立ち会いやミックスチェックなどが入ることもあります。最近はオンラインも多いですが、現場に行くこともありますね。

-実際どのような作品がコンペで採用されましたか?

2024年には鬼頭明里さんの「Unchained mind」(ミニアルバム『Give Me Five!』収録)や、瀬戸乃ととさんの「Hyped Deal」などは、作詞作曲、アレンジ、本人の歌レコーディング、ミックスまでを弊社で担当しました。鞘師里保さんの「ラッセ」(アルバム『Symbolized』収録)は、作曲のみの採用で、アレンジ以降は先方で仕上げた楽曲でした。

鬼頭明里「Unchained mind」|Core Creative

-本当に色々なのですね。そうやって制作の時間をとりつつ、音楽で生活できるまではバイトなどでお金を確保する必要がありますもんね。

そうですね。
音楽の仕事かそうではないかは別として、やっぱりある程度固定収入がある作家は制作とのバランスがとれている印象です。

厳しい話、専門学校などを卒業してすぐに音楽だけで食べていくのはなかなか難しいのが現実です。なので始めは実力を上げるために、コンペに取り組んでいくことが、どの作家事務所でも新人の登竜門になるかと思います。

ただ事務所としてはなるべく音楽関係の仕事を作家たちに流せるように取り組んでいますね。よくあるのは、いわゆる”歌ってみた動画”用のカラオケ制作や、イベントの SE制作、譜面制作などです。クレジットに名前は載らないので、バイトの延長のような形ですが。

このような仕事をお願いするのは、信頼度の高い作家になりますし、作家の実力は、普段からコンペに出していると自然に分かってくるんですよね。

なので、コンペは採用されることだけを目的と考えずに、自分が将来作家として活躍できるための糧にするつもりで取り組むことが大事だと思うんです。なかなか採用されなくて心が折れそうになることもあると思うんですけどね。

-すぐに結果につながらなくても、続けていくことで実力もついていきますしね。

そうですね。
とはいえ現実的な問題として、生活をしていくためのお金は必要ですし、スケジュール管理も難しいので、言葉で言うよりも簡単ではないことは理解できるんですけどね。特に一人暮らしをしながら作家活動をするのは大変なので、実家に甘えられるうちは甘えた方が良いよとは、よく言っています。都内近郊で一人暮らししなくても、地方で実家暮らしの作家も所属していますしね。

コンペのシステム自体がどうかという話もありますけど、現状では参加できる場があることはチャンスでもあると考えるべきかなと。

音楽業界を目指す若者へ「可能性を広げるためにやれることはやった方が良い」

-作曲家や音楽業界を目指す若者に、業界の先輩としてアドバイスはありますか?

能動的になることだと思います。これは仕事に直接関わることでも、そうでないことにも言えるのかなと。

例えば、作家になりたいのであれば作家事務所に入るのもひとつですし、フリーで活動の場を探すのもありだと思います。また、プロデューサーを目指したいのなら、いきなり活躍しているアーティストのプロデュースは無理でしょうから、自分のプロデュース像にマッチするアーティストを見つけてきて、プロデューサーとしての実績を作るのも良いと思います。

-待っているよりも、自ら考えて動くということですね。

そうですね。待っているだけでは仕事は生まれないですしね。事務所に所属しても同じで、所属したら仕事がもらえると思っている人も多い気がしているんですけど、決してそうではなくて。確かにコンペ情報を得られることはありますが、自分で仕事を生み出せるような行動もしていくのが大事じゃないでしょうか。

例えば、事務所内の案件で、レコーディングの見学やライブのお誘いをいただいたりするんですけど、コンペを1曲やるよりもそういう現場に行くことの方が、場合によっては勉強になることがあると思っていて。でも、意外と参加する作家が多くないんですよね。

-新しい場所に行くとなると、つい気が引けてしまうのでしょうか。

そうかもしれませんが、現場ほど勉強になる場はないんですけどね。
作家やアーティストで売れるのに、方程式も近道もないと思うので、いろんな可能性を広げられる現場には行った方が良いと思います。

大谷選手のマンダラチャートでいう、徳を積むみたいな話もあるように。必ず報われる保証はないけれど、現場に行くことや色んな人に会うなど、何か行動をすることで将来的に繋がることはあると思うんです。それを自分で探してほしいですし、コンペに取り組むことも、その内の一つの要素でしかないと思っています。

-どこに何があるか分からない、ということですね。

極端な話、飲み屋の隣でたまたま仲良くなった人が、作家を探しているかもしれないですしね(笑)。

うちの事務所はまだ設立して日も浅いですし、いわゆる太客を確保した上でスタートしたわけでもないので、まずは若い才能を発掘して持ち上げることと、僕のこれまでのお付き合いのある人たち、そして、新しく出会った人たちへのアプローチは続けています。
ビジネス交流会などにも顔を出したこともありますが、そこからお仕事につながることって、そんなに多くはないんですけど、色んな方と出会えるだけでも楽しいですし、そこからお仕事になればベストだと思います。どこにどういう人がいるかは本当にわからないので、常に全方位にアンテナを張って行動するのが、今の僕の役目なのかなと思っています。


まとめ

今回は、Core Creative の代表を務める河合良彦氏にお話を伺いました。作家事務所の代表として、作家と共に成長を続ける河合氏だからこそのアドバイスには、作家として成長し、仕事を得るためのヒントが詰まっていました。

特に印象的だったのは、「何か行動をすることで将来的に繋がることはある」という言葉。

たとえ今すぐ仕事に直結しないことでも、一歩踏み出すことで未来は広がり、小さな挑戦が、やがて大きなチャンスにつながるかもしれません。

以下の記事では、Core Creativeの事業内容に加え、河合さんご自身のお仕事についてもインタビューしています。こちらも是非ご覧ください。

クリエイティブのコアを担う Core Creative 代表・河合良彦氏インタビュー「音楽を軸にしながら色々なコンテンツを作るのがシンプルに楽しい」 | ONLIVE Studio blog
音楽業界には、ミュージシャンや作曲家だけでなくさまざまな業種の仕事が存在します。そうした業界のなかで、音楽を軸に多岐にわたる事業を展開しているのが、株式会社Core Creative(以下、Core Creative)です。今回は同社の代表であり、自らも幅広い音楽に関する業務を行う河合良彦

河合良彦氏プロフィール

株式会社Core Creative 代表。株式会社リットーミュージックで、キーボード・マガジン編集部、サウンド&レコーディング・マガジン編集部にて編集業務を歴任。2018年に音楽プロダクションへ転職し、マネージメント、楽曲制作をメインに、多方面で業務を行う。2022年、事業拡大のため株式会社Core Creative を設立。現在は東放学園音響専門学校の講師なども務め、さらなる事業拡大のため邁進中。
名前:河合良彦
所属:株式会社Core Creative
出身:愛知県
趣味:ゴルフ
株式会社Core Creative WEBサイト:https://corecreative.jp/
Nami
Written by
Nami

東京出身の音楽クリエイター。 幼少期から音楽に触れ、高校時代ではボーカルを始める。その後弾き語りやバンドなど音楽活動を続けるうちに、自然の流れで楽曲制作をするように。 多様な音楽スタイルを聴くのが好きで、ジャンルレスな音楽感覚が強み。 現在は、ボーカル、DTM講師の傍ら音楽制作を行なっている。 今後、音楽制作やボーカルの依頼を増やし、さらに活動の幅を広げることを目指している。

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