音楽家のメンタル管理について

音楽家はアスリートと同じで、良いパフォーマンスや創造を持続的に行うためにもメンタル管理は重要です。 多くのクリエイターやアーティストは素晴らしい音楽を生み出している一方で、精神的な悩みと戦う人も多くいます。 生活が不規則になりがちな職業だからこそ、この機会に音楽家のメンタル管理について考えてみましょう。

Nami
2023-10-256min read

音楽家のメンタルケアが大切な理由

精神疾患に関する意識調査の結果

2019年にスウェーデンのデジタル配信プラットフォームである Record Union(レコードユニオン)は、ウェブ上で精神疾患に関する意識調査を行いました。
これは、疾患に悩まされた経験の有無を問うもので、音楽従事者である対象者1500人のうち73%が経験ありと答えています。

参考:Liberating music since 2008|Record Union

遺伝子と精神疾患リスク

ドイツを本部に置く研究所 Max Planck Institute(マックス・プランク協会) は、同じく2019年に、音楽活動とメンタルヘルスに関連する遺伝子についての研究を発表しています。
研究内容を要約すると、音楽への取り組みに影響を与える遺伝子と、精神に影響を与える遺伝子には関連があることが判明したとされています。
これは音楽に対して高い素質を持っている人は、精神的なリスクも抱えている傾向にあることを示しています。
以下は Max Planck Institute(マックス・プランク協会)の WEB サイトからの引用です。

“Analysis of the data showed that individuals with a higher genetic risk for depression and bipolar disorder were, on average, more often musically active, practiced more, and performed at a higher artistic level. Interestingly, these associations occurred regardless of whether the individuals actually experienced mental health problems or not. At the same time, participants with a higher genetic predisposition for musicality also had, on average, a slightly higher risk of developing depression—regardless of whether or not they actually played an instrument. These findings lend further support for the notion that partially the same genes influence musical engagement and mental health."

この研究結果では、精神的な疾患のリスクが高い人ほど、平均して音楽活動が盛んで練習量も多く、クオリティの高い水準で演奏することを示している。興味深いことに、このような関連性は、実際に精神的な疾患を発症したかどうかは関係なく生じた。また、音楽性の遺伝因子が高かった参加者は、実際に楽器を演奏するかどうかに関わらず、うつ病の発症リスクがわずかに高かった。これらの結果は、部分的に同じ遺伝子が音楽的な取り組みと精神的健康に影響を及ぼすという考えをさらに裏付けるものである。(和訳:筆者)

引用:MAX PLANCK INSTITUTE FOR EMPRICAL AESTHETICS, Are Musical Activities Good for Our Mental Health?

働き方、環境的にも気をつけた方が良い

音楽家の働き方を見ても、メンタルに影響を及ぼしやすい環境と言えます。
例えば、締切に間に合わせるために深夜まで制作をしたり、時間がなくて十分に食事が取れなかったり、スタジオにこもって作業をしたり...。
人間の体内には、睡眠・覚醒サイクルを調整するための内部時計があります。夜更かしを続けると体内時計が混乱し、身体と心の調和が乱れることがあります。

その他にも、周囲からのプレッシャーや期待、収入面への不安、他人との比較...様々な重荷を抱えているクリエイターが多いことは容易に想像できます。その分、意識して対策をしていくことが大切です。

対策とマインドセット

健康的な生活を心がける

心が疲れてしまっていると感じた時は、生活を見直してみましょう。適切な睡眠時間、バランスの良い食事、適度な運動など、このようないわゆる「健康的な」生活は、うつ症状を抑制する効果があります。

また、スタジオには防音面などの理由から窓がないことがほとんどです。
日光を浴びる時間が減ると、幸せホルモンと呼ばれるセロトニンの分泌が減るため、鬱症状を引き起こしやすいとされています。
日光を浴びることでセロトニンが分泌され、ストレス解消になります。また、ビタミンDが生成されるので健康にも良いです。定期的に外に出て、陽の光を浴びる習慣をつけておくと良いでしょう。

マインドフルネス(瞑想)

不安は、過去と未来のことを考えることによって生まれると言われています。
人間は黙っていても、頭の中では雑念でいっぱいです。
マインドフルネスは、「今」に焦点を当てて集中する状態のことです。この状態を作るために、仏教の瞑想が活用されています。

マインドフルネスは近年注目されているもので、近年では Google が行った能力開発プログラム「 Search Inside Yourself 」でも取り入れられていたことにより話題になりました。

「スピリチュアルには興味がない」と思う方もいるかと思いますが、マインドフルネスは様々な研究が行われています。マインドフルネスは、科学的にも以下のような効果が証明されています。

  • 集中力の向上
  • ストレス軽減
  • 自己認識と自己理解の向上
  • 感情調節

他人とではなく、過去の自分と比べる

他人と比較して、落ち込んでしまった経験は誰にでもあると思います。しかし、音楽の経験も、時代も、性別も、骨格も、遺伝子など様々な前提条件が全て違います。あなたに仕事が舞い込んだということは、あなたにしかない良さがあるということです。
また、スキルの高い人を見たら、落ち込むのではなく学ぶ姿勢で観察すると良いでしょう。

他人と比べて落ち込んでしまう気持ちもわかりますが、他人と比べる自己肯定感を下げることに繋がってしまいます。そのため、このような考えへの対処法の一つとして、比較する対象を「過去の自分」にすると良いでしょう。

できることとできないことの両面を認める

「実力がないことがバレないか不安」「今仕事があるのは運が良かっただけ」などと感じている人はいませんか?
これはインポスター症候群( Impostor Syndrome )と呼ばれるもので、直訳すると詐欺師症候群という意味です。
イギリスの女性アーティスト Dua Lipa(デュア・リパ)も、彼女自身がインポスター症候群であることを告白しています。彼女はこの側面が楽曲制作に役立っているとも話していますが、中にはこの不安に押しつぶされてしまう人もいるでしょう。

インポスター症候群の人は自分の能力を適切に評価できずに、過小評価してしまいます。
このような問題に対処する方法の一つとして、自分の行動や思考をを客観的に見て自分のできることとできないことを明確にし、事実として受け入れて対処することが大切です。このような認知能力をメタ認知といいます。

業界で心身をサポートする動きも

2017年には偉大なミュージシャンが立て続けに亡くなったことを受けて、アメリカでは音楽業界におけるメンタルサポートに対して声を上げるプロジェクトが立ち上げられています。
日本では2021年に株式会社ソニー・ミュージックエンタテインメントが先陣を切り『 B-side 』というプロジェクトを始動しました。
このプロジェクトは、アーティストやクリエイターが創作活動に集中できるように無償のカウンセリングや外部講師を招いたセルフケアワークショップなど、心身のケアをサポートすることを目的として発足しています。

安定して創造ができるように

以上、今回は音楽家のメンタル管理について考えてみました。

多かれ少なかれ、感情に支配されてしまいそうになる時は誰にでもあるかと思います。適切な原因を見つけ、その問題に対して対処することが大事です。
私は気分が落ち込んだ時はノートに書き出したり、その原因を検索したりします。調べていくうちに悩みに対して客観的になることができたり、問題点が整理されるので冷静になれる気がしています。

また、様々な研究によって、自然に触れることもストレスを軽減してくれる効果があると証明されています。個人的なおすすめスポットは湘南平という場所です。高台から海も山も見ることができてリラックスするのにもってこいの場所です。

余談ですが、昔アメリカへ旅行した際に山登りをしていたら、どこからか BGM が聴こえてきて、周囲を見渡したらギターを弾きながら登っている人がいました。
それくらい肩の力を抜いて純粋に音楽を楽しむ心も忘れないようにしたいですね。

湘南平から見た風景
Nami
Written by
Nami

東京出身の音楽クリエイター。 幼少期から音楽に触れ、高校時代ではボーカルを始める。その後弾き語りやバンドなど音楽活動を続けるうちに、自然の流れで楽曲制作をするように。 多様な音楽スタイルを聴くのが好きで、ジャンルレスな音楽感覚が強み。 現在は、ボーカル、DTM講師の傍ら音楽制作を行なっている。 今後、音楽制作やボーカルの依頼を増やし、さらに活動の幅を広げることを目指している。

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