
どんな風に加工する?サンプリングの基礎知識
この章では、サンプリング時に施される音の加工についてご紹介します。
サンプリングで行われる音の加工は、主にチョッピング、リバース、ピッチ、エフェクトの追加によって行われます。
このような音の加工を組み合わせて、プロデューサーたちはサンプリングした音を楽曲に取り入れているのです。
チョッピング
チョッピングは、音を刻むという意味です。
サンプリング元の音源を任意にカットし、音を入れ替えたり、一部分だけを切り出して使用することができます。
リバース
リバースとは、ひっくり返すという意味で、既存の音を逆再生する手法です。
例えば、ボーカルやシンバルの音をリバースさせることは定番のサウンドとも言えるでしょう。
逆再生することによって、グルーヴ感を作り出せたり、盛り上がりを演出することが可能です。
ピッチ
音の高さ(ピッチ)を高くしたり低くしたりする方法です。
サンプラーでは、ピッチと再生速度が連動しており、ピッチを上げると再生速度も速くなり、ピッチを下げると再生速度も遅くなります。
エフェクトを追加
エフェクトを追加することで、ユニークなサウンドを作り出すことができます。
例えば、リバーブをかけたり、EQ で不要な部分を削ったり、特定の音域だけをブートさせたり。
様々なプラグインを試して、原型がわからなくなるほど加工するのも面白いでしょう。
サンプリング例:楽器やボーカルの音をサンプリング
ボーカルをチョッピング
2010年頃から「ボーカルチョップ」という手法が EDM とともに流行しました。
この手法は、ボーカルの声を刻んで、ランダムに配置することで、面白い効果をもたらすというものです。
0:20〜あたりに、ボーカルチョップが使用されています。
リバースを活用して迫力のある演出に
多くの楽器は、弾いた瞬間が一番音が大きく、徐々に音が減衰していきます。
そのような音を逆再生することで、迫力のあるサウンドを得ることができます。
曲の出だし部分に、おそらく鍵盤のリバース音が使用されており、イントロに入る前の勢いを演出しています。
サンプリング例:既存曲をサンプリング
ドラムブレイクをサンプリング
ドラムブレイクとは、ドラムがソロで演奏されている部分のことです。
このドラムブレイクをサンプリングし、楽曲に取り入れる方法です。
例えば、The Winstons『Amen, Brother』という楽曲のドラムブレイクは、「アーメンブレイク」とも呼ばれ、様々な楽曲に取り入れられていることで有名です。
サンプリング元
サンプリング後
N.W.A. - Straight Outta Compton (Official Music Video)|N.W.A.
ローパスフィルターをかけて、ベースラインを使用
サンプラーのローパスフィルターを使用し、さらに低音域をブーストさせることで、ベースラインをサンプリングする方法です。
サンプリング元
サンプリング後
フレーズの一部分をリフに
フレーズを切り出し、ビートのリフにしてしまう方法です。
以下は、原曲のフレーズをリピートさせ、リフのようにアレンジしている例です。
原曲は、ブラジル出身の歌手である Elza Laranjeira が1962年にリリースした『Serenata Do Adeus』という楽曲です。
サンプリング元
サンプリング後
複数の楽曲の素材を混ぜ合わせる
複数の素材を混ぜて楽曲に取り入れている例もあります。
例えば、Kanye West『POWER』では King Crimson『21st Century Schizoid Man』、Continent Number 6『Afromerica』、さらには Cold Grits『It's Your Thing』がサンプリングされています。
サンプリング元
King Crimson - 21st Century Schizoid Man (Including "Mirrors")|King Crimson
サンプリング後
サンプリング例:身近な音をサンプリング
歯医者のドリルの音をサンプリング
Billy Eilish の楽曲『Bury a Friend』では、彼女 が歯医者へ行った時に録音したドリルの音が使用されています。
この楽曲のトラック制作を行っているのはBilly Eilish の兄である Finneas です。彼はアメリカの人気トークショーである『The Tonight Show』にて、この制作秘話について語っています。
2:56 あたりから、サンプリングについて
サンプリング後
Billie Eilish - bury a friend (Official Music Video)|Billie Eilish
信号の音をサンプリング
先ほどご紹介したトークショーにおいて、Finneas は『Bad guy』の制作についても言及しています。
この楽曲のハイハットと思われるサウンドは、オーストラリアで録音した信号の音であることを話しています。
サンプリング後
床を蹴る音をサンプリング
アーティストであり、プロデューサーとしても活動する Charlie Puth は、SNS にてサウンドメイクの様子を公開しており、時にそのユニークな制作方法が話題を呼んでいます。
以下の動画では、Charlie Puth が床を蹴る音をサンプリングし、ピアノのような音に変身させています。
Charlie Puth - Loser [TikTok] | April 11, 2022|Charlie Puth Daily Updates
サンプリング後
何もない音をサンプリング!?
先ほどご紹介した Charlie Puth ですが、ついには無音(?)をサンプリングしてしまいます。
無音の中にも、環境音や機材のノイズがあります。その音を収音し、加工することによって、パーカッション、ベース、リズム楽器を生み出しています。
まとめ
以上、今回は様々なサンプリングの活用についてご紹介しました。
最近では、身近な音を取り入れて独自のサウンドを生み出すアプローチも増えています。サンプリングの手法は多岐にわたり、無限の可能性が広がっています。
また、既存曲をサンプリングする際は、著作権にも注意が必要です。この点については、別の記事で詳しく触れたいと思います。
ぜひ、みなさんもサンプリングにチャレンジしてみてください!

東京出身の音楽クリエイター。 幼少期から音楽に触れ、高校時代ではボーカルを始める。その後弾き語りやバンドなど音楽活動を続けるうちに、自然の流れで楽曲制作をするように。 多様な音楽スタイルを聴くのが好きで、ジャンルレスな音楽感覚が強み。 現在は、ボーカル、DTM講師の傍ら音楽制作を行なっている。 今後、音楽制作やボーカルの依頼を増やし、さらに活動の幅を広げることを目指している。