楽曲コンペの向き合い方――「採用」を狙うな、「筋トレ」として挑むべき

「どうやったらコンペに通るのか?」「落ち続けてメンタルが持たない」――筆者は作家事務所の代表として、プロを目指すクリエイターからこうした相談を受けることがあります。 しかし、コンペを”一発逆転のチャンス”だと思っているなら、その認識は今すぐ捨ててください。コンペとは、採用に一喜一憂する場ではなく、プロの作家として大成するための“筋トレ”であり、通過点に過ぎません。今回は、特に新人作家のコンペとの付き合い方についてお話しします。

Yoshihiko Kawai
Yoshihiko Kawai
(更新: )5min read

コンペは「採用される場所」ではなく「筋トレの場」である

まず結論から言います。コンペに採用されず、そのことで一喜一憂している段階では、プロとして売れる作家にはなれません。

プロ野球選手に例えると、普段全くトレーニングをしていない人が、いきなり試合に出てホームランを打てるでしょうか? 答えはノーです。日々の走り込みや筋力トレーニングの積み重ねがあって、初めて試合で結果が出せます。

楽曲コンペとは、クリエイターにとっての日々の筋トレそのものと考えます。

コンペに参加すると、自分では普段作らないようなジャンルやアーティストに向けた楽曲制作を求められます。これこそが最高のトレーニングです。

  • 引き出し(レパートリー)の強制的な拡張
  • 苦手ジャンルの克服
  • プロとして求められる最新のトレンド・音色のキャッチアップ

これらは、部屋で一人で自分の好きな曲だけを作っていては絶対に身につきません。コンペというお題(制限)があるからこそ、自分の限界を超えて引き出しを増やすことができるのです。落ちたとしても、「自分のスキルがまた一つ底上げされた」「プロのレベルを体感できた」と捉えてください。筋肉痛を楽しめるようになった時、あなたはプロのスタートラインに立っています。ちなみに、自分の得意ジャンルだけを選んでコンペに取り組んでいたら身につかないことも付け加えておきます。

小手先のテクニックより「スピード」――年間100曲書けるか?

Two men working in a music studio
Photo by Soundsitive Studio / Unsplash

近年の楽曲コンペは、クオリティの要求水準が極めて高くなっています。メロディやコード進行の良さはもちろんのこと、アレンジの完成度、ミックス、マスタリング、さらには仮歌の質に至るまで、ほぼそのままリリースできるクオリティが求められます。さらに、コンペシートを深く読み解く力や、リファレンスを分析するテクニックも重要です。しかし、新人作家が真っ先に目指すべきは、そうしたテクニックより「圧倒的な制作スピード」です。

プロとして食べていくための登竜門として、よく所属作家に聞く質問があります。 「あなたは1年間に100曲、クオリティを保ったまま書けますか?」

年間100曲ということは、およそ3〜4日に1曲のペースで楽曲を仕上げる計算になります。そこでネタ切れを心配する人もいるでしょう。そうなるのは、自分の中にある引き出しだけで作ろうとするからです。コンペシートのリファレンス曲や、そのアーティストの過去楽曲を聴き、新しいジャンルやトレンド分析を行いましょう。ときには、音楽以外からのインスピレーションで、楽曲に生かされることもあります。そういった、さまざまなことからインプットし、アウトプットを同時並行で行いましょう。プロはインプットしながら作るのが当たり前です。

  • 思考のスピード:発注書を見て瞬時にイメージを膨らませる
  • 作業のスピード:DAWの操作、音選定、メロディメイクを迷わず行う
  • 判断のスピード:ボツにする部分と生かす部分を即座に見極める

このスピード感が身についていないと、どれだけ1曲のクオリティが高くても、プロの現場では生き残れません。じっくり1ヶ月かけて制作すれば、高いクオリティの楽曲はできるはず。しかし、プロの仕事には必ず締め切りがあり、時には超短納期のリクエストが来ることもあるからです。

もちろんアレンジやミックスのクオリティにこだわるのは当然です。しかし、まずは質より量、そしてスピードを養うべきです。これには、圧倒的な量をこなした先についてくると思います。

コンペは唯一の道ではない――多角的なアプローチを持て

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Photo by Erwi / Unsplash

作曲家としてデビューするには、コンペで結果を出すしかないと思い込んでいませんか? しかし、コンペは作家として大成するための唯一の方法ではありません。実際に、コンペに通らずに(あるいはほとんど参加せずに)、音楽業界で成功を収めているクリエイターはたくさん存在します。

コンペ以外で成功している作家のルート例

  1. SNSや動画配信サイトでPR: 自身で制作した楽曲(ボカロ曲、インスト、BGM、歌ってみたのトラックなど)をYouTubeやTikTok、Xなどに投稿し、アーティスト本人やインディーズ・レーベル、配信活動者などから直接発注を受けるルート。また、SNS上で楽曲を募集している人も多数存在します。そういった人へアプローチするのも有効な手段です。
  2. インディーズ・地下アイドル・ライブBGM(SE)の楽曲提供:コンペを通さず、現場に行ってアーティストや事務所の社長、ライブ制作関係者と直接繋がり、実績を積んでいくルート。個人で直接依頼を受けることは簡単ではないですが、ここから仕事につながっていくケースもあります。昔から存在する手法ですが、人と直接会うことは、昔以上に重要です。
  3. BGM・劇伴・ゲーム音楽・ライブラリーミュージック: 歌ものではなく、映像作品やゲーム、劇伴の分野で才能を発揮し、専門の作曲家として確固たる地位を築くルート。個人でこの手の仕事を得るのは難しいですが、上記の方法や、事務所に所属することで獲得できる可能性は上がります。

コンペだけに依存すると周りが見えなくなります。コンペの採用率は、業界全体で見れば数%以下、場合によっては数百曲の中から1曲が選ばれる過酷な世界です。

コンペと並行して、自分発信のコンテンツを作ったり、営業活動を行ったり、自分の強みを生かせる別のアプローチを模索すべきです。“コンペに選ばれるのを待つ側”から“指名で仕事が来る側”へシフトすることこそが、プロの作家としてのゴールです。

新人作家が「コンペ」に挑むべき理由

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Photo by Elias Lobos / Unsplash

ここまで”コンペは筋トレである”“コンペ以外の道も探すべき”とお話ししてきましたが、それでも筆者は新人作家こそ、絶対にコンペに参加すべきだと思います。なぜなら、楽曲コンペは音楽業界において、実績もコネもない新人が、有名アーティストに楽曲提供できる唯一のフェアな場所だからです。

通常、ビジネスの世界において、実績ゼロの人間が大企業の案件や有名アーティストの仕事を受けることは不可能です。しかしコンペの世界では、発注側は基本的には名前や実績ではなく音で判断します。

つまり誰にでもチャンスがあるのです。

コンペ自体に参加する方法としては、さまざまあり、ここでは細かく言及しませんが、作家事務所へ所属することが近道だと思います。ただしポイントは、所属するのが目的ではなく、コンペに参加するのも目的ではなく、売れる作家になるのがゴールであることを忘れないように。

“まだ実績がない”とか、“まだ下手だから”と躊躇する必要はありません。失うものなど何もないのですから、打席に立ち続けるべきです。


まとめ:売れる作家になるための心得

最後に、これからプロを目指す皆さんへ、作家事務所代表としてのメッセージをまとめます。

  1. 落選に傷つく必要はない。コンペは自分の実力を高める「筋トレ」である。
  2. テクニックに走る前に、年間100曲書ける「スピードと体力」を身につけるべき。
  3. コンペは唯一の選択肢ではない。並行して自分の武器(直発注ルート)を作る。
  4. 誰にでもチャンスが平等にあるコンペという場を、最大限に利用する。

コンペの先にあるのは、ただの1曲の採用実績ではありません。 筋トレに耐え、スピードを手に入れた先には、プロの作家として生き続ける未来が待っています。つまり、コンペに不採用で落ち込んでいる暇はありません。 次のコンペシートを開き、DAWを立ち上げ、プロとしての筋肉を鍛えましょう。

Yoshihiko Kawai
Written by
Yoshihiko Kawai

株式会社Core Creative代表。株式会社リットーミュージックで、キーボード・マガジン編集部、サウンド&レコーディング・マガジン編集部にて編集業務を歴任。2018年に音楽プロダクションへ転職。2021年、楽曲制作をメインに、多方面で業務を行う。2022年、事業拡大のため株式会社Core Creativeを設立。現在は東放学園音響専門学校の講師なども務め、さらなる事業拡大のため邁進中。

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