作曲家が知っておきたい楽譜の書き方

作曲家として活動する上で、楽譜(譜面)は、自分の意図を他人に伝えるための設計図であり、現場の時間を節約し、演奏者のパフォーマンスを最大化するための“共通言語”です。 DTM の普及により、譜面を使わない場面も増えましたが、プロの現場に出れば出るほど、質の高い楽譜を書けるスキルは武器になります。 本稿では、作曲家が知っておくべき楽譜との向き合い方と書き方を解説しましょう。

Yoshihiko Kawai
Yoshihiko Kawai
(更新: )5min read

作曲家がマスターすべき譜面の種類と優先順位

まずは、譜面の種類を確認しておきましょう。すべての楽器の譜面を完璧に書く必要はありませんが、必要に応じて以下の4段階を使い分けられるようにしておくとよいです。

【必須】メロ譜(リード・シート)

  • 内容: メロディ、歌詞、コード・ネーム(必要に応じて)。
  • 用途: 歌録り、作曲のアイディア共有。

ポイント: メロディの音符を書く際、オクターブの位置や符尾の向き、タイの書き方など、シンガーが歌いやすい書き方を意識します。

【重要】マスター譜(リズム譜)

  • 内容: セクション(Aメロ、Bメロなど)、コード、リズム指定、重要なキメや音符など。
  • 用途: バンド全体のアンサンブル用(録音、リハーサル時)。

ポイント: 全楽器共通で使える“地図”のような譜面です。2ページ以内に収めるのが現場では重宝されます(リピート記号が多くなり、使わない方が見やすくなる場合は、その限りではありません)。

【推奨】ピアノ譜、ストリングス譜、ホーン・セクション譜

  • 内容: ピアノ譜は基本大譜表(ト音記号とヘ音記号)を用いる。ストリングス、ホーン・セクションは、書き譜になることがほとんど。
  • 用途: 録音、リハーサル用で、特定のニュアンスを伝えたい場合。
  • ポイント:セクション譜とパート譜を両方用意します。
ストリングスのセクション譜
1st violin パート譜

【上級】フルスコア

  • 内容: 全楽器パートを網羅したスコア。
  • 用途: オーケストラ楽器の録音、演奏用。各奏者には、パート譜を用意します。
  • ポイント: 記譜するすべての楽器(パーカッションなど打楽器も含む)の知識が必須となります。
譜面:L. V. Beethoven《交響曲第5番 ハ短調「運命」Op.67》、Breitkopf and Härtel(1862-1865)、Mutopia Project

楽譜が求められる3つの具体的シーン

データ納品が主流となった昨今、“なぜ楽譜が必要なのか?”と思っている人もいるかもしれません。しかし譜面は、現場ごとに異なる目的があります。

① レコーディング現場(スタジオ・ワーク)

最も高い精度が求められるシーンです。スタジオ・ミュージシャンに演奏を依頼する場合、彼らは初見で完璧に弾きこなすことが求められます。“ここはどう弾けばいいですか?”というやり取りが多くなってしまうと、レコーディングが止まり、かつスタジオ代とスタッフの時間を浪費することになってしまいます。また、劇伴の世界では、オーケストラへの録音のためにフルスコアからパート譜を作成する工程が不可欠です。

必要譜面:メロ譜、マスター譜、ピアノ譜、フルスコア *録音内容によって変わります

② ライブ(コンサート)のサポート

ライブ現場では、リハーサル時間が限られています。また、ステージ上では暗い場所や譜面台との距離があるため、一目で展開がわかる視認性が何よりも優先されます。

必要譜面:マスター譜、パート譜

③ アレンジ共有、コンペ等

アレンジャーやプロデューサーに曲を渡す際、コード譜やメロ譜があるだけで、曲の構造が正確に伝わります。

必要譜面:メロ譜、マスター譜


“現場で喜ばれる”譜面の書き方

プロの現場で“この譜面は見やすい”と言われるための実践的なテクニックを紹介しましょう。昨今は後述するソフトウェアによる譜面作成が一般的ですが、手書きの場合も基本的には同じ。より見やすい形にするのが大事です。

“4小節1行”を徹底する

一般的な音楽は、4の倍数で捉えるのが最も自然です。1行を4小節(または8小節)に固定するだけで、パッと見た瞬間に曲の長さや構造が把握できるようになります。

リハーサル・マークとセクション名を大きく明記する

[A] [B] [Chorus] などのリハーサル・マーク(レッテル)は大きく書きましょう。“[B]の5小節前から”といった指示を出す際、マークがないと現場が混乱します。一番、二番とある場合[1A][2B]と書いてあげるとさらに親切です。

“譜めくり”を考慮する

複数枚にわたる場合、演奏が休みの箇所でページをめくれるように構成すると良いでしょう。演奏途中に譜面をめくるのは物理的に不可能な楽器が多いことを忘れてはいけません。

コードネームは“標準的”な表記で

独自の表記は避け、その現場の標準に合わせましょう。また、ベースの音を指示するための分数コード(オンコード)は正確に記述しましょう。

キメのリズムは“スラッシュ”と“小玉”を使い分ける

基本のリズム・パターンなどはスラッシュ(/)で記譜すれば、それに沿って弾いてもらえます(ある程度自由度を持たせたい場合)。絶対に守ってほしいキメや食いのリズムの個所は、五線譜の上に小さな音符(小玉)とともに記述しましょう。


譜面作成のツール

現代の作曲家にとって、手書きよりもソフトウェアによる作成が一般的です。以下が、現在の主流なものです。

  • Steinberg Dorico
  • AVID Sibelius
  • MuseScore
  • MakeMusic Finale(*サービス終了)

それぞれ、インターフェースや機能、操作性の違いなどがありますが、基本的にこれまで解説してきた譜面作成には対応しています。グレードの違いで対応していない機能のソフトウェアもありますので、各社の webサイトで確認してみましょう。

また、マスター譜、コード譜作成に特化した“Clover Chord Systems”というソフトウェアもあります。


最短で“書ける”ようになるための練習法

“理論はわかるが、いざ書こうとすると手が止まる”という方は、以下のステップを試してください。

  1. 写譜をする(コピー)
    自分の好きな楽曲の市販スコアを用意し、それを楽譜作成ソフトでそのまま打ち込み直します。プロがどうやって余白を取り、どうやって記号を配置しているかを体感するのが近道です。
  2. DAW で打ち込んで完成させた楽曲のマスター譜を作る
    すでに完成している DAW のプロジェクトから、コードと構成だけを抜き出して1枚の譜面にまとめる練習をしましょう。打ち込み完結で作った楽曲は、譜面を用意しない人が多いと思いますので、実践的な訓練になります。
  3. “演奏者の視点”を持つ
    自分で書いた譜面を見ながら、実際に楽器を演奏してみてください(演奏できない人も演奏しているつもりで譜面を追う)。“ここでページをめくるのは無理だ” “この音符の並びは読みづらい”という気づきが、勉強になります。

楽譜は“おもてなし”である

楽譜を書くという作業は、一種のおもてなしです。

その楽譜を手に取る演奏者が、迷うことなく音楽に没頭できるように整える。その配慮こそが、作曲家としての信頼に繋がります。

完璧なフルスコアが書けなくても構いません。まずは“4小節1行の綺麗なコード譜”を書くことから始めてみてください。その1枚が、あなたの楽曲のクオリティを一段階上へと引き上げてくれるはずです。

Yoshihiko Kawai
Written by
Yoshihiko Kawai

株式会社Core Creative代表。株式会社リットーミュージックで、キーボード・マガジン編集部、サウンド&レコーディング・マガジン編集部にて編集業務を歴任。2018年に音楽プロダクションへ転職。2021年、楽曲制作をメインに、多方面で業務を行う。2022年、事業拡大のため株式会社Core Creativeを設立。現在は東放学園音響専門学校の講師なども務め、さらなる事業拡大のため邁進中。

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