歌唱が平坦に聞こえる原因
歌唱が平坦に聞こえる原因は、声色のバリエーションが少ないことが原因です。
声を色で例えるとするならば、全て同じ色になってしまっているようなイメージです。
テクニックを利用することでアクセントとなる差し色を追加したり、濃淡をつけたりすることができます。
また、そのような濃淡をつけることで、曲のダイナミックさを助長させ、楽曲にメリハリを生み出すのです。
次章からご紹介するテクニックで、歌唱に様々な色の変化を加えてみましょう。
ボーカルの歌唱テクニック
この章では、歌唱に彩を加えるボーカルのテクニックをご紹介します。
ボーカルフライ
声帯が閉じている状態でそこに声を通すと「プツプツ」とした声が漏れます。この声をボーカルフライ、またはエッジボイスなどと呼びます。
このボーカルフライは最も低い声区とされており、実際に自分の最低音の音を出そうとして、その限界を超えるとこのボーカルフライが出ます。
このボーカルフライは、ポップスでは歌唱の最初や語尾に取り入れて、テクニックとして使用されています。
『犯した罪』の「お」がボーカルフライですね。
『二文字が』の「が」に入っています。このように一瞬だけ入れるという方法もあります。
ボーカルフライを取り入れると、どこか切ない雰囲気を作ることができますね。
余談ですが、21世紀に入ってからアメリカの若い女性の中でボーカルフライを混ぜた喋り方がトレンドになっているようで、ニュースなどでも取り上げられるほど社会問題となっているようです。
このボーカルフライは声帯に負荷がかかりやすいため、やりすぎには注意が必要です。
ビブラート
ビブラートは、音に揺らぎを加えることで波のように音を変化させていくテクニックです。
このビブラートの掛け方には、様々な種類があります。
例えば曲の最後や盛り上がる時に使用できるダイナミックなビブラート。
音を細かく揺らすビブラートは、ちりめんビブラートとも呼ばれます。
ちりめんビブラートの代表例として、宇多田ヒカルさんが有名です。
例えば『ありがとうと』の「と」にかかっていますね。
このちりめんビブラートという名称は、テクニックとして呼ばれることもあれば、うまくビブラートができていないことを指摘する際にも使われることがあります。
ビブラートをかけている間は、音程も上下していますが、その音程の幅、さらには上の音程に変化させるのか、下の音程に変化させていくかによっても印象が違います。
より詳しいビブラートについては、また機会があれば別記事でご紹介します。
こぶし
こぶしとは、演歌で用いられる歌のテクニックです。漢字では「小節」と表記します。
楽譜の旋律には記載されない程、小さな節回しで装飾に音を追加するようなテクニックです。
『風に散ったよな』の「散」に小節が回っています。
この歌唱法は、元々は演歌で使用されていた用語です。
日本のポップスで使用されるグレースノート(短い音符の装飾音)やフェイクもまとめてこぶしと呼ばれている場合もあります。
また、カラオケ採点でよく出てくる「こぶし」という採点項目もそのように、装飾音に反応しています。
しかし、厳密には違いがあるため分けて考えた方がベターでしょう。
フェイク
先ほどもお伝えしたように、厳密には演歌のものとは同じではないですが、ポップスでこぶしと似ている歌唱テクニックはフェイクとなるでしょう。
元のメロディーラインを装飾したり、さらにはその装飾が独立するほど延長して歌う方法です。
英語ではリフ&ランとも呼ばれます。
以下の記事で詳しくご紹介していますので、合わせてご参考にしてください。
ヒーカップ
ヒーカップとは、一瞬声を裏返して高いピッチを入れるテクニックです。
ヒーカップ(hiccup)は英語から来ており、日本語訳すると「しゃっくり」という意味です。確かに、しゃっくりをすると声が裏返りますよね。
この歌唱法はロカビリーというジャンルで頻繁に登場します。
『My Heart』の語尾に入っています。
フォール&しゃくり
しゃくりとは、狙った音程よりも下の音程から歌うテクニックです。
実はしゃくりは意識せずともやっている人が多いテクニックで、むしろこの出し方が癖になってしまっている場合もあります。
適切なタイミングでのしゃくりはアクセントになりますが、その頻度が多すぎると反対に真っ直ぐ音程を出す練習をした方が良い場合もあります。
『I’ve been known』 の「known」に使われています。
一方フォールとは、音程を滑らかに下降させていくテクニックです。
この曲では『いつも探すんだよ』の語尾に使われており、フォールのあとにはさらにヒーカップを入れています。
ウィスパーボイス
ウィスパーボイスとは、息をたっぷりと含んだ歌唱法です。
エアリーな印象は、透明感や儚さを演出することができます。
このテクニックのポイントは、息をたくさん使うのでしっかりとブレスをすることです。
以下の動画では、普通に歌った時と息を沢山含んだ時の違いを歌っています。
また、語尾だけにたっぷりと息を混ぜる方法もあります。
テクニックを取り入れる際のポイント
ここまで様々なテクニックをご紹介しましたが、無闇やたらにテクニックを入れれば良いという訳ではありません。
テクニックを取り入れるポイントを抑えて、適切にテクニックを使いましょう。
羞恥心を捨てる
初心者の方にとって、コントロールが難しいというだけでなく、新たな声を出すということは、少し恥ずかしいと感じる方もいるでしょう。
このような羞恥心を持っていると、表現にブレーキをかけてしまいます。
はじめは変な声を沢山出して、まずは羞恥心を捨て去り、ボーカリストとしてなりきることが大切です。
歌詞とリンクさせる
テクニックを取り入れる際のポイントは、このようなテクニックが自然にでているように感じさせることです。
例えば、悲しい歌なのにビブラートが語尾に派手に入っていたら、あまり悲しい感じがしませんよね。
そのためには歌詞と表現をリンクさせる必要があります。歌詞を読んで、どのように演出したいかを考えましょう。
テクニックに囚われすぎない
テクニックの練習をし始めた頃は、歌唱に取り入れようとしてテクニックを披露することが目的になってしまいがちです。そうすると、「ビブラートを入れるぞ!」「エッジボイスを入れるぞ!」という気持ちが歌にも現れてしまい、歌の自然さを損なう可能性があります。
様々なテクニックを持っていることは素晴らしいことですが、あくまでテクニックは歌の表現を彩るための手段です。
テクニックに囚われないように注意しましょう。
まとめ
以上、今回はボーカルの定番歌唱テクニックをご紹介しました。
知らず知らずのうちに歌唱に取り入れていた、という方もいるのではないでしょうか。
一方で、今回ご紹介したテクニックが難しくてなかなかできない...という方もいると思います。
テクニックと考えると難しく感じてしまいますが、私たちは日常で喋っている時も、様々な声のトーンで話しています。
楽しいことを話している時と、悲しい話をしている時の声のトーンは当然違いますよね。
声は奥深く、名前が付いていない声の表現の幅は非常に広いです。
まずは感情移入できる歌を用意して、その歌詞に合わせて顔の表情をつけながら歌ってみるだけでも声色は変わります。
楽しい歌は笑顔で、悲しい歌は眉を潜めて...のようなイメージです。
ぜひ試してみてください。
東京出身の音楽クリエイター。 幼少期から音楽に触れ、高校時代ではボーカルを始める。その後弾き語りやバンドなど音楽活動を続けるうちに、自然の流れで楽曲制作をするように。 多様な音楽スタイルを聴くのが好きで、ジャンルレスな音楽感覚が強み。 現在は、ボーカル、DTM講師の傍ら音楽制作を行なっている。 今後、音楽制作やボーカルの依頼を増やし、さらに活動の幅を広げることを目指している。