リフ&ラン(フェイク)とは?
そもそも「リフ&ラン」とはなんでしょうか?
リフ&ランは、ボーカルテクニックの一つです。元のメロディーラインを装飾したり、さらにはその装飾が独立するほど延長されて歌われる場合もあります。
百聞は一見にしかずということで、一度見てみましょう。2分15秒あたりからです。(動画は秒数指定してあります)
グラミー賞受賞者を教え子にもつ、世界的に有名なボーカル・コーチ Jeannie Deva (ジーニー・デーヴァ)さんは、以下のようにリフ&ランについて説明しています。
Vocal riffs, runs, and embellishments are notes added by the singer to a written melody as a creative expression and emotional intensifier.
意訳:ボーカルのリフ、ラン、装飾とは、歌手が創造的な表現と感情の強化として書かれたメロディに追加する音符のことです。
引用:the deva method Embellishments – Singing Riffs and Runs(訳は引用者による)
リフ&ランは洋楽アーティストの歌唱に取り入れられていることが多く、様々なジャンルで使用されますが、特に R&B やゴスペルで使用されることが多いです。
「リフ」と「ラン」の違いって?
一括りに「リフ&ラン」と呼ばれることが多いですが、「リフ」と「ラン」を分けて考えることもできます。
ボーカルコーチとして YouTube で情報を発信している Paul Mackay (ポール・マッカイ)さんは 動画内で、「リフ」と「ラン」の違いを、以下のように説明しています。
A riff you’ll find within a phrase or within a word, or syllables with words, as a compliment or an accent to that word or phrase, While a run is typically longer and generally featured.
意訳:リフは、フレーズや単語、または音節間の間で見られ、その単語やフレーズの装飾やアクセントとして使用されます。一方で、ランは、通常リフよりも長く、一般的に特徴的なものです。
引用:https://youtu.be/EpLdMIA9QzQ (訳は引用者による)
その他、様々な情報を踏まえて、私は以下のように定義しました。
リフ
リフは、フレーズや単語に対するメロディーの装飾、またはアクセントをつけるボーカルテクニック。
主に母音や1音節の間で音程を上下させたり、音程を追加させて遊びをつけるものを指します。
一般的にリフの目的は、フレーズや単語に対するメロディーの装飾や、アクセントをつけることです。そのため、元のメロディーラインが崩れることはありません。
例: Mariah Carey 『 All I Want for Christmas Is You (Make My Wish Come True Edition) 』
曲中にたくさん散りばめられていますが、分かりやすい例の時間を貼っておきます。13秒あたりの” for ”です。(動画は秒数指定してあります)
例:Whitney Houston 『 I Have Nothing (Official HD Video) 』
2分27秒あたりの” knew ”(動画は秒数指定してあります)
ラン
ランは、リフの長いバージョンです。
一般的にリフの目的は、シンガーの感情を表現したり、曲を盛り上げる要素といった目的として使われます。
また、ランが行われると観客はシンガーに注目をするため、曲の始まりやクライマックスを表すことにも効果的です。特にライブにおいては、ランの尺が引き延ばされることも多くあります。
例:Christina Aguilera -『 Ain't No Other Man (Official Video) 』
曲の冒頭、38秒あたり(動画は秒数指定してあります)
リフ&ランの起源?メリスマとは
リフ&ランのことを「メリスマ」と呼んでいる人もちらほらいます。そこで、「メリスマ」とは何か調べてみました。
メリスマは、グレゴリオ聖歌で使用される歌の用語です。リフと同様に、1音節のなかで音符が複数歌われることを意味します。
グレゴリオ聖歌を簡単に説明すると、ローマ・カトリック教会で神の祈りや礼拝のために使用される宗教音楽のことで、クラシック音楽の起源になっています。
メリスマの例:
聞いてみたところ、現代におけるリフ&ランとはちょっと違いますが、その前身のようなものみたいですね。
メリスマの歴史を遡ると、約900年ごろのグレゴリオ聖歌の楽譜から登場し始めたのだとか。今から1100年以上も前です。
これがのちに宗教音楽だけではなく、地域に根ざした民族音楽にも広がっていったとのこと。
ここで触れておきたいのが、リフ&ランが顕著にみられるジャンルのひとつである「ゴスペル」です。ゴスペルは、奴隷としてアメリカに強制的に連れてこられた黒人たちが、白人たちにキリスト教に改宗させられ、黒人教会コミュニティの中で形成されていったジャンルです。(当時は黒人と白人で教会が分かれていました。)
そこで、賛美歌をはじめとしたキリスト系の宗教音楽を黒人が歌うようになり、白人由来の教会音楽と、黒人由来の音楽性が融合しました。
そうして聖歌に組み込まれていたメリスマに、アフリカのリズムや独特のグルーブ感が加えられたことによって、現代におけるリフ&ランが形成されていったのではないかと筆者は考察します。
ちなみに、リフ&ランを多用する R&B は、ゴスペルの影響を強く受けています。
リフ&ランを歌うには?
この章では、リフ&ランの練習方法をご紹介します。
以下、数字が表しているのは、主音を1とした時の音階を表しています。例えば、C キーであればド→1、レ→2、ミ→3 ...といった具合です。
ペンタトニックスケールを覚える
リフ&ランに使われる音は、基本的にペンタトニックスケールが用いられます。
ペンタトニックスケールとは、主音から数えて4番目と7番目を抜いた音です。
ドレミファソラシドといった C メジャースケールで考えた場合、ドが主音ですから、ドから数えて4番目と7番目、つまりファとシを飛ばした音階です。
冒頭で紹介した Paul Mackay さんの動画では、最初は2音、次に3音、4音と増やして行き、スケール感を体に覚えさせる方法を紹介しています。
例:
1-2-1
1-2-3-2-1
1-2-3-5-3-2-1
よく出てくるフレーズを知る
ハードルが高く感じてしまうリフ&ラン。
よく出てくるフレーズがあるので、既存のパターンを覚えてしまうのも一つの手です。
以下はよく出てくるフレーズの一部です。
・グレースノート
グレースノートは主旋律の前や、合間に追加される、瞬間的な装飾音です。
以下の動画では、前半にシンプルなメロディーライン、後半にグレースノートを追加した場合を歌い、その違いを比較しています。
・3音のリフ
3-2-1 " more "(動画は秒数指定してあります)
6-5-3” fire ”(動画は秒数指定してあります)
・4音
5-3-2-1" left " コーラス部分(動画は秒数指定してあります)
・5音
3-2-1-6-5 " plan "(動画は秒数指定してあります)
・組み合わせ
3-2-1-2-3-2-1" still "(動画は秒数指定してあります)
短いフレーズから練習する
ランはリフの長いバージョンなので、まずはリフから取り組むと良いでしょう。リフの練習には、前項のような短いフレーズを練習したり、既存曲のリフをカバーしてみるのも良いです。気に入ったリフが入っている部分だけを取り出して歌ってみましょう。
先ほど例に挙げた Post Malone(ポスト・マローン)『 Chemical 』の3-2-1-2-3-2-1というやや長いものであれば、3-2-1/2-3-2-1といった具合で分けて練習するのが良いです。
また、ランを練習する場合も考え方は同じです。
ランを分解していくと、簡単なフレーズが何個も連なっているだけです。そのため、長いランであったとしても、はじめは短く区切って練習することをお勧めします。
このような短いフレーズを習得するとことで引き出しが増え、熟練のシンガーはこれらを組み合わせてアドリブで行うこともしばしばあります。
憧れの歌手のリズム感やグルーブ感を真似する
カッコよくリフ&ランを行うためには、リズムやグルーブ感も大切です。
既存曲のフレーズを細かく分けて練習する際、それぞれを歌手と同じようなグルーブで表現できるように練習すると良いでしょう。
まとめ
以上、今回のコラムではリフ&ランについて考察してみました。ペンタトニックスケールや、よく使われるフレーズを知ることで、少し身近なものに感じられるのではないでしょうか。
とは言いつつ、筆者もリフ&ランの練習に取り組んでいるのですが、なかなか簡単ではないですよね。地道に練習して習得していきましょう。
リフ&ランは、普段歌っている歌にほんの少しでも加えるだけでも、どこかおしゃれな雰囲気を作ることができます。
まずはなるべく難易度の低いもので、手の届きそうなフレーズから歌唱に取り入れてみるのも良いのではないでしょうか。
東京出身の音楽クリエイター。 幼少期から音楽に触れ、高校時代ではボーカルを始める。その後弾き語りやバンドなど音楽活動を続けるうちに、自然の流れで楽曲制作をするように。 多様な音楽スタイルを聴くのが好きで、ジャンルレスな音楽感覚が強み。 現在は、ボーカル、DTM講師の傍ら音楽制作を行なっている。 今後、音楽制作やボーカルの依頼を増やし、さらに活動の幅を広げることを目指している。