
芸術に値段をつけるってムズカシイ
そもそも、音楽のような無形のものに必要なスキルや能力を、数値化することは簡単ではありませんよね。
芸術文化の分野での成果物には、相場や相対的な評価基準があるわけではなく、受け取る側の個人的で絶対的な評価の中にしか、その価値の答えはないものでしょう。
なぜなら同じ作品を前にしても、ある人にとっては100万円を払ってでも欲しいと感じる場合と、ある人にとっては1円も払いたくないと感じる場合のどちらもありえるからです。
また、材料費などの具体的な経費があるわけではないですし、仕上がった作品のクオリティとそれにかけた時間が必ずしも比例するわけではないので、時給のように計算することもできません。
述べてきた通り、本質的には、クリエイター自身が設定した金額に高いも安いもあるわけではありませんし、芸術に金銭で価値を付加させると考えると、本当に難しいテーマになってしまいます。とはいえ、みんなどうやって音楽をビジネスとして回しているのだろう?という実情は知りたいところですよね。
これまでの音楽産業の基準で考えれば、CD 1枚の金額と、それがどのくらいの枚数売れるのかの見込みで制作費を逆算していくことになるのかもしれません。ですが、音楽の聞かれ方やアーティストの活動形態が多様になった現代では、そこで行われるお金のやり取りにも様々な選択肢が生まれてきていると思います。
お金の話をオープンにできない理由
私自身が、お金の話をオープンにしにくい理由を書いておく必要があります。
なぜなら、自分の制作費用の内訳を書くことで、私の仕事を受けてくださった方にも迷惑をかけてしまう可能性があるからです。
私がプロフェッショナルにお仕事を依頼する際に発生する支払いは、事務所所属ではなく個人だから、普段から関係性のある間柄だから、という理由で設定された金額ですので、誰にでも同じ条件で仕事をしているわけではないと思います。
ですのでそこはしっかり配慮しつつ、それでもお金の話を書きたいと思った理由は二つあります。
一つめは、手軽に音楽を受け取ることができる時代に、改めて「音楽制作にはこんなにお金がかかるんだよ」ということを知ってもらうことで、音楽そのものやそれに関わる人たちへの正当な対価につながるといいな、と考えていること。
二つめは、これから音楽制作を考えている人が取り組む前に感じてしまうハードルの高さを少しでも下げて、誰もが自由に音楽を作れる環境があったら、これからの音楽の世界がもっと豊かになるのではないか、と考えているからです。
宇宙まおのアルバム制作例
そこで今回は、私が12曲入りのフルアルバムを制作した際の費用を例に書いてみようと思います。この作品はクラウドファンディングで支援をいただいて作ったため、最終的な全体の予算額については公表済みです。

私は2021年に、それまで8年間所属していたプロダクションから離れました。それからは個人で制作・発表を続け、2023年に初めてフルアルバムの制作にチャレンジしました。
たくさんの支援・サポートをいただき、目標金額の441%達成でクラファンのプロジェクトが終了し、最終的に制作予算として441万円が集まりました。
そこからクラファン運営への手数料として2割が引かれ、ざっと350万円くらいが手元に残ることに。
とは言っても、そのすべてを音楽制作に使えるわけではありません。
リターン用のグッズ制作費用や支援者へのリターンの送料、CDジャケットのデザイン料、そして CD のプレス費用などなど、だいたい100万円ほどの諸経費を引いた金額が、音源制作に使えるお金になります。
【アレンジ + レコーディング + ミックス + マスタリング】× 12曲 = 250万円
こうして単純計算すると1曲20万円ですが、バンドアレンジをフルで生音レコーディングしているものから、一人で自宅スタジオで弾き語りしたものまで様々なパターンがあり、工数の振り幅が大きいため、それぞれの楽曲でかかってくる金額にはもちろん差があります。
私はあまり業界の知識がないので正確なことはわからないですが、250万円で12曲入りの音源を完成させるというのは、レコード会社やプロダクションが入っていたらおそらく成立しない数字ではあるでしょう。
この制作について理解してくださって協力してくださったクリエイターや関係者の皆さんがいたからこそ実現したプロジェクトだと思います。
奥が深いお金の小話
ここまでの数字は予算として事前に計算していたのですが、実際の制作に入ると想定していなかった出費がまだまだ細かく存在していました。
例えば、レコーディング当日のケータリング代や打ち上げの飲食代、CDプレスにミスがあった際の再発注代など…少しだけ余裕を持って組んでいたはずの予算ですが、あれよあれよという間にオーバーし赤字を生む結果に…。
本当はこの中から、広告宣伝費なども出すことを考えるべきだったのですが、気付けばそんな余裕もなく、MV すらも作ることができずにすっからかんとなってしまいました。
この辺りのことは、音楽業界の制作のプロフェッショナルたちであれば当然予想できた展開なのでしょうが、初めてのアルバム制作だった裏方素人の私には、事前に細かい予想を立てることはかなりハードルが高かったです。
音楽そのものだけではなく、それ以外の色々な部分に人の労力と時間とお金がかけられて、一つの作品が生まれている。その尊さを身をもって知ることのできた体験でした。
予算の配分についてはもっと上手にできた側面もあるかもしれませんが、その分、ミュージシャンやクリエイターの方々にできる限りの還元ができたという点においては、自分なりに正しいお金の使い方ができたなと振り返っています。
どんなプロフェッショナルもいい作品を作りたい
音楽業界に限った話ではなく誰にでも少なからずある考え方だと思いますが、依頼費用が安くても受けたい仕事、高くても受けたくない仕事というものはあるでしょう。そして同時に、誰にでも生活がありますので、お金はなくてはならないものです。高価な機材の維持費などにもお金は発生してきます。音楽は、好きな気持ちだけでは現実問題続けていけません。
そういった複雑な事情を一旦置いておいて言えることは、音楽や芸術分野に関わる多くのプロフェッショナルはまず第一に「いい作品を作りたい」と思っているということです。少なくとも私がお世話になってきた方々はもれなくその情熱をもっていました。
実際に相談していきながら自分が用意できる精一杯の金額を提示すれば、その費用のなかでなんとかする方法を一緒に考えてくれる、そんなプロフェッショナルの方々ばかりでした。
これから音楽制作を考えている方はぜひ、一緒に制作に取り組んでくれるプロフェッショナルの技術に敬意をもって、作品作りにかける情熱を伝えてみてください。
敬意と情熱が伝われば、応えてくれるプロフェッショナルは必ずいると思います。
まとめ
音楽制作にかかるお金の話について、宇宙まおの制作を例にまとめてみました。
私にとって予算の配分はとても難しいチャレンジでしたが、すべてを自分で管理してみたことで、関わってくれるプロフェッショナルに感謝とリスペクトの気持ちを伝えられる一つのツールとして、お金が機能しているんだなということがわかりました。
私の経験はあくまで一例で、広く見渡せば音楽に必要な金額にはピンからキリまで幅があります。
まずは一緒に制作に取り組みたいプロフェッショナルがいたら、失礼のないような予算とアピール方法を自分なりに考えてみて、そして全力で熱意を伝えてみてください。
自分も楽曲制作に本格的に取り組んでみたい!でもどうやってプロフェッショナルを探したらいいの?という方は、ONLIVE Studioのサービスを活用してみてください。
アレンジャー、エンジニア、ミュージシャンなど、たくさんのプロフェッショナルが登録されています。
音楽そのものだけに留まらず、誰かと協力して一つの作品を作り上げる喜びと興奮は、何にも代えがたい人生の宝物になりえる経験です。
赤裸々に書いてしまいましたが、これから音楽制作を考えているみなさんの背中を少しでも押せていたら嬉しいです!

シンガーソングライター。2012年デビュー。作詞作曲、ステージでのパフォーマンスを軸に活動しています。サッカーチームの応援ソング書き下ろし、企業オリジナルソングの制作、アーティストへの楽曲提供、ラジオパーソナリティなど多分野で活動中