令和 J-POP 『お洒落』な曲を考察してみる

近年では YouTube や TikTok などでノスタルジーな画像やアニメーション、リリック動画と一緒に流れる「お洒落」な曲が若者を中心に人気を集めています。 では「お洒落」な曲の正体とは何でしょうか。 今回はそんな「お洒落」と感じる曲について考察してみたいと思います。

Nami
2023-10-116min read

お洒落とは?

前提として、お洒落と感じるものは人それぞれ。また年代や国によっても違ってきますよね。
「お洒落」の定義は以下になります。

洗礼されていること
引用:webio 辞書

難しいですね。個人の主観に委ねられる部分も大きいかと思います。
ONLIVE Studio  スタッフに「おしゃれな曲とは?」と聞いてみたところ「ジャズとか?」「おしゃれな場所に馴染む曲じゃない?」「 Suchmos!」など様々な意見が出ました。

今回は冒頭にも触れた意に近そうな「お洒落」な曲を選びたいと思います。
国内において近年若者の間で話題になる「お洒落」「エモい」のように表現される曲調です。
イメージとしては、こちらの動画のような曲たちです。

最近のバイラルヒットに多い曲調です。

コード進行

まずはコード進行からみてみましょう。
参考にした動画にまとめられていた曲の多くが Just the Tow of us 進行をベースにしたコード進行でした。以下に例を挙げます。

『 minority / sloppy dim 』Key = C

FM7 - E7 - Am7 - C7
IVM7 - III7 - VIm7 - I7
※Aメロ、サビ部分

『 snow jam / Rin音 』Key = Db

Db-  F7 - Bbm7 – Abm7 - GbM7 / F - Dbadd9 - Ebm7 - Gb / Ab
I - III7 - VIm - Vm - IVM - Iadd9 / III - IIm7 - IV/V

Just the Tow of Us 進行とは、近年の邦楽ヒットチャート曲でよく使用されている「エモい曲」のコード進行として認知されているコード進行です。また、1999年にリリースされた『丸ノ内サディスティック』もこのコード進行を使用していたことから別名「丸サ進行」とも呼ばれています。


この Just the Tow of Us 進行という名前の由来は、アメリカのミュージシャンである Grover Washington Jr.(グローヴァー・ワシントン・ジュニア)が1980年にリリースした楽曲『 Just the Two of Us 』で使用されていたコード進行だったことからきています。

基本型は IVM7 - III7 - VIm7 - Vm7 - I7 です。

Grover Washington Jr. さんは、ジャズのサクソフォーン奏者で、ジャズにファンク、ソウル、ポップ、R&B の要素を取り入れたジャンル「スムーズ・ジャズ」の父として知られています。つまり、このコード進行はジャズ由来のものと言えますね。
スムーズ・ジャズというジャンルは1980年代から1990年代に流行したものです。詳しくはジャンルの章で後述しているので、そちらをご覧ください。

もちろん Just the Tow of Us 進行以外のコード進行でもお洒落な曲はたくさん。
『 napori / Vaundy 』では、ルートが一音ずつ下がっていく進行がお洒落です。

『 napori / Vaundy 』Key = B

EM7 - D#m7 - C#m7 - B
IVM7 - IIIm7 - IIm7 - I

使用される楽器について

楽器の面から考察してみます。
使用されている頻度が高い楽器を出してみました。

  • ピアノ
  • エレクトリックピアノ
  • シンセサイザー
  • オルガン
  • エレキギター
  • ブラス系(生楽器でも、シンセサイザーでも)
  • ベース
  • 電子ドラム
  • コーラス
  • 効果音  

エレクトリックピアノやシンセサイザー、電子ドラムなどといったエレクトリックな要素が使われていることが多い印象です。 
特にエレクトリックピアノやシンセサイザーは、浮遊感を感じさせるようなボワボワとしたサウンドが取り入れていることが多いと感じました。

リズム

リズムには何か特徴があるのでしょうか。

こちらの『 napori / Vaundy 』のリズムはゆるく、ゆったりとしています。

一方でこちらの 『 NIGHT DANCER / imase 』や『 overdose / なとり』では、ディスコやハウスでよくみられるタイトなビートもあります。

ドラムは特に一貫性があるわけではなさそうです。 
ただ、シンセサイザーやピアノのコードバッキングのリズムはよくあるパターンが見られます。
上記に例を上げた曲たちのバッキングは、どこか似たようなリズムで刻まれています。

歌詞がつくる世界観

ノスタルジーなお洒落さにはやはり歌詞も大切な要素ですね。現代を表す言葉や、ストーリー性、印象的な単語が見受けられ、それが曲のキャラクターを作るエッセンスになっています。

先ほどの『 Overdose / なとり』では、「オーバードーズ」という現代にフィーチャーされた単語を使っています。

また、『 minority / sloppy dim 』では、「クリームソーダ」「チューイングガム」など、単語を聞いただけでもレトロお洒落な印象です。

一方で「 Googleマップ」といった現代的な単語も入っています。

ノスタルジックな映像

PV も音楽のイメージを構築する一翼を担っています。

例えば、『 minority / sloppy dim 』ではあえて画質を下げることで、平成初期を思い出すようなムードになっています。
近年、平成初期の文化は yK2 と言われ Z 世代に流行していることも背景にあり、このような雰囲気が若者の心を掴んでいる一つの要因かもしれません。
(あくまで考察なので、本人たちの意図かはわかりません)

こちらの『東京フラッシュ / Vaundy 』では全体が淡い感じの画質になっています。
夜の東京の街で、さらに飲屋街というのも雰囲気がありますね。


このように、視覚的な印象も楽曲のイメージを作る材料ですね。

お洒落な曲はどこからきた?

以上の調査を踏まえてわかったことは

  • よくあるパターンは見られつつも、明確な共通点はあるようでない。
  • ロック、ジャズ、ファンクなど...色々なジャンルからの影響を受けていそう。
  • どの曲も何となく「お洒落」な印象を持つ。

このことから、令和においてよく「お洒落」「エモい」と表現される曲調は、1980年代に流行した日本の音楽ジャンルである「シティポップ」に影響を受けたサウンドなのではないでしょうか。 
シティポップとは、1980年代に日本で流行した曲をカテゴライズする言葉です。
1980年代の日本では、70〜80年代の洋楽に強く影響を受けた歌謡曲が流行していました。この時代の洋楽にはロック、ディスコ、 R&B 、ソウル、ジャズ、ファンク...さらにはそれらを組み合わせて派生していった様々なジャンルが流行していました。シティポップはそれらの色んなジャンルの要素を取り入れていることが多いため、音楽的な定義はないとされています。
そのため、シティポップというジャンルは音楽的な括りでカテゴライズされているというよりも「都会的」「洗礼されている」などの雰囲気で総称されているようです。

近年ではこの「シティポップ」が国内外で再評価される動きがあり、多くの曲が再ヒットしました。以下はシティポップの代表的な曲です。

『真夜中のドア〜 stay with me  / 松原みき』

『 Plastic Love / 竹内まりや』

つまり、この流れを受けてこのシティポップの「お洒落」「洗練されている」といった空気感が現代の楽曲にも取り入れられるようになり、現代的なカルチャーや流行りと融合して、また新たなサウンドが生まれているのではないでしょうか。

シティポップが流行していた80年代という時代は、日本がバブルでキラキラしていた都会が連想されます。そのため、都会的で洗練された印象も受け継いで「お洒落」が演出されている面に一役買っていると考えます。

加えて、80年代はシンセサイザーやドラムマシンが普及し始めた時期です。シンセの使い方で80年代感を演出し、レトロなノスタルジーさがありながら、どこか洗練されている雰囲気を出している、といった側面もあると思います。

また、間接的に80年代の洋楽に影響を受けているので、コード進行も80年代の洋楽でよく見られたような進行が多いことも特徴と言えるでしょう。

雰囲気が似ているジャンル

これまでの調査を経て、令和的お洒落な曲には、明確なジャンルを表すものはないことが分かりました。個人的に雰囲気が似ていると思ったジャンルを調査してみたので、ぜひご参考にしてみてください。

AOR

AOR は、Adult Oriented Rock(アダルト・オリエンテッド・ロック)の略称のことで、大人を対象にしたロックといった意味を持ちます。ロックに都会的で洗練されている雰囲気を足したジャンルです。

しかし、AOR というジャンルは海外では一般的ではないようで、このジャンルの解釈は日本特有のものかもしれません。

『 Lowdown / Boz Scaggs 』

Acid Jazz

1980年代にイギリスのクラブから発展したジャンルということもあり「踊れるジャズ」などと称されることが多いジャンルです。ジャズ、ファンク、ソウル、ヒップホップ、ハウスなどのジャンルが織り混ざった特徴を持っています。

発祥がクラブということもあり、この名前もハウスの一種である「アシッドハウス」を文字ったものとされます。

『 Virtual Insanity / Jamiroquai 』

Jazz fusion

ジャズと他のポピュラーミュージック(主にロック、ファンク、電子音楽など)を組み合わせた音楽スタイル。ジャズフュージョンは、1960年代後半から1970年代にかけて隆盛を極めました。

『 miles in the sky / Miles Davis 』

Neo soel

1990年代後半から2000年代にかけて発展したジャンル。
Neoは「新しい」といった意味を持つため、新しいソウルを表しています。

これまでのソウルに R&B やヒップホップ、ジャズ、ファンク、ロックなどのジャンルを取り入れたサウンドです。

『 Brown Sugar / D'Angelo 』

lofi hip hop

2010年代に形成されていった比較的新しいジャンル。
ジャジーなコードにドラムのループ、lofi(ローファイ)なサウンドが使用されています。
lofi なサウンドというのは、録音技術が低いが故に生じる歪みやノイズ、またアナログ感のあるサウンドのことです。現代においてはあえてそのようなノイズ、アナログ感といった lofi 感を取り入れることによりノスタルジックな印象を与える効果があります。

『 Feather / Nujabes 』

Smooth Jazz

1970年代末から1980年代にかけてアメリカで広まったジャンル。この名前はラジオ局がつけたことで広まったとされます。

ジャズ特有の即興演奏を省いたり、曲を短くしたり、R&B を取り入れるなど様々なポップな要素を足してジャズを広く受け入れられるようにアレンジしたジャンルとなっています。冒頭で出てきた『 Just The Two of Us  /  Grover Washington Jr. feat. Bill Withers 』も、このジャンルに分類されることが多いです。

『 Give Me The Night / George Benson 』

Jazz rap

1990年代初頭に登場した、ジャズのサンプリングを用いたヒップホップ。

『 Rebirth of Slick (Cool Like Dat)  / Digable Planets 』

上記のジャンルは多かれ少なかれジャズのエッセンスが入っていました。「洗練」された雰囲気を出すにはやはりジャズのエッセンスなのでしょうか?
このような曲調が好きな方、このような曲調を取り入れたいとお考えの方はぜひご参考にしてみてください。


まとめ

以上、今回の考察でした。

令和 J-POP『お洒落』な曲を考察してみましたが、洋楽においても、近年80年代のサウンドが再燃する動きがありました。『 Blinding Lights / The Weeknd 』、『 Physical / Dua Lipa  』、『 Say So / Doja Cat 』などなど。

参考:How Dua Lipa and The Weeknd are bringing the 80s back… again| BBC

『 Blinding Lights 』は1985年の『 take on me / a-ha 』のオマージュ曲です。

また、80年代を舞台にしたNetflixで配信されているアメリカのSFホラードラマ、ストレンジャー・シングスも2019年頃に流行し、このドラマで使用された80年代の名曲たちもリバイバルヒットに繋がったり...。

そのころの Tiktok は使われている音源が80年代の曲と、現代のものが混ざっていて面白かったです。時代は繰り返していくんですね。



Nami
Written by
Nami

東京出身の音楽クリエイター。 幼少期から音楽に触れ、高校時代ではボーカルを始める。その後弾き語りやバンドなど音楽活動を続けるうちに、自然の流れで楽曲制作をするように。 多様な音楽スタイルを聴くのが好きで、ジャンルレスな音楽感覚が強み。 現在は、ボーカル、DTM講師の傍ら音楽制作を行なっている。 今後、音楽制作やボーカルの依頼を増やし、さらに活動の幅を広げることを目指している。

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