音を取り扱う「耳」
-田中さんは音響ハウスにどれくらい勤務されてるんですか?
音響ハウスには 22 歳の時に入社しました。1985 年入社なので、今年で 39 年目になります。
-田中さんが音に取り組む上で普段意識していることはありますか?
耳の感度が良くなる時間帯ってあるんですよ。
僕の場合は起きてから5時間経ってないと耳の感度が調子出てこないので、作業する5時間前には起きます。
あと、お昼を食べた後の時間もあまり耳の感度が良くないので、その時に何か音決めをすることはしません。
朝から夜まで仕事をしていると、どの時間帯や状況で耳の感度が良くなっているか、だんだん分かってくるんですよね。これは、僕がエンジニアになって 10 年目ぐらいから分かってきました。
ただ、これは個人差があって、人によって感度が良くなる状況は違うと思います。
-長いエンジニア歴の中で、聴覚上の変化は感じますか?
僕は今年で 61 歳ですが、30 年目ぐらいから 0.1 dBステップが分かるようになってきました。
あとはコンプのレシオの違いも分かります。2:1と4:1の違いとかですね。
-想像もつかない世界です...。
ただ、耳の周波数特性はもう落ちているんですよ。35 歳を過ぎたら、平均的には 15KHz 以上は聞こえないですからね。
若い人はモスキート音くらいの高い周波数も聞こえるので、たまにアシスタントの子が「耳が痛いので下げてくれませんか」って言っていたりします(笑)。
高い周波数が聞こえなくなって良い面としては、例えばアナログの 6ミリテープレコーダーってヒスノイズが入ってしまうので、S/N 比(※1)が悪いんです。20 代の頃はそのヒスノイズが気になったんですが、今聞くと全然気にならないです(笑)。 むしろアナログの暖かみの方に耳がいきますね。
(※1)音声信号(Signal)とノイズ(Noise)の比率
-多くの若手エンジニアたちは、将来の耳について不安を抱いているかと思いますが、高い周波数が聞こえなくても支障はないのでしょうか?
そうですね。
高い周波数は聞こえてないけど、聞こえてきたミッドレンジとか、全体の豊かさとか、倍音の感覚とかで、その音の抜け方は感覚で分かります。
なので、実際には高い部分は聞こえないんだけど、出音は把握できている感じですね。
現役で活躍し続ける秘訣
-現役でご活躍されている現役であり続ける秘訣は何だと思いますか?
無理をしないことです。
20 代はまだ体力があるので徹夜ができるんですよ。でも、30 歳を過ぎたら徹夜しないとか、 40 歳を過ぎたら深酒しないとか、そういう日常生活で無理をしないことですね。
僕は、センター定位がずれたらやめようと思っていて。
-そのように決めた思ったきっかけはあったんですか?
昔、センターずれちゃった先輩がいたんです。年でストレスがかかってきて耳の病気になっちゃって、それがなかなか治らなくて。
いつも入るスタジオで、アンプのメモリが右に1個ずれてたりすると「あれ?なんか右に寄ってない?」って、今はまだ分かるんです。それがずれてきたらもう引き際だなって思ってるんですけど、ありがたいことにまだ分かるので続けています。
音を取り扱う人々にとって、耳は商売道具の一つです。
その「耳」の変化に気づくことは、プロフェッショナルとして大切なことだと感じました。
コンプレッサーのレシオが分かるとは、どんな世界なんでしょうか?
音に対する意識の高さや耳の感度、聴覚の変化に対する田中さんの細やかな気づきは、「無理をしない」という自己管理の賜物であり、それが長年にわたるキャリアの継続を支えてきた鍵なのではないでしょうか。
プロフィールご紹介
音響ハウス 執行役員 IFE制作技術センター長。自身もエンジニアとしてラジオやテレビの MA を担当し、音響ハウスの歴史とともにキャリアを歩む。現在も執行役員を務めながら、音楽番組などのマスタリングを手がけている。
所属:音響ハウス
所属年数:1985年〜
生年月日:1963年1月13日
出身:東京都
出身校:音響技術専門学校
趣味:庭いじり、鉄ヲタ
音楽以外での目標:自分探しの旅に出ること
住所:東京都中央区銀座 1-23-8
TEL:03-3564-4181
WEBサイト:https://www.onkio.co.jp/index.html
お問い合せフォーム:https://www.onkio.co.jp/contact/index.html
東京出身の音楽クリエイター。 幼少期から音楽に触れ、高校時代ではボーカルを始める。その後弾き語りやバンドなど音楽活動を続けるうちに、自然の流れで楽曲制作をするように。 多様な音楽スタイルを聴くのが好きで、ジャンルレスな音楽感覚が強み。 現在は、ボーカル、DTM講師の傍ら音楽制作を行なっている。 今後、音楽制作やボーカルの依頼を増やし、さらに活動の幅を広げることを目指している。