エンジニアはどう音を聞いているの?音響ハウスのエンジニアに質問!

「音」を取り扱うプロフェッショナルであるエンジニア。 彼らは、アーティストやミュージシャンが奏でる音を、いかに魅力を最大限にしてリスナーに届けるかという重要な役割を担っています。 そんなエンジニアは、どのような考えを持って音を聞いているのでしょうか? 今回は、音響ハウスのエンジニアである中内茂治さんにお伺いします。

Nami
2024-08-287min read

普段の音楽の聴き方

-仕事以外で音楽を聞いている時に意識していることはありますか?

何かを意識して聴いているというよりは、iPhone のスピーカーとかで何気なく流れている音楽を聞いていて「お、この曲かっこいい」と耳を傾け始めるような、そんな感覚を大事にしています。

なんとなくリスナーが楽曲に興味を持つ時って、こういうことなのかなと思うんです。

なので、仕事においても細かい技術的な部分を褒められるよりも「なんか分かんないけどかっこいいんだよね」って言われる方が嬉しいですし、そこを目指してやっています。

-リスナーがかっこいいと思うのは全体的な印象ですもんね。

そうですね。

ただ、かっこいいと思わせる理由は必ずあるので、興味をもった楽曲はより細かく聴きます。

-より細かく聴くとは?

例えば、自分の感覚よりベースやキックが弱くても全体としてかっこいいのはなんでだろう?とか。
それで、歌が良いからかっこよく聴こえるのかな?と思ったら、じゃあその良い要素を活かすためにどんなミックスをしてるんだろう?って、研究要素として聴いていく感じです。そうやって同じ曲を何十回も聞くこともあります。

よく聴いてみると、A メロと B メロでエフェクトを変えていたり、細かい部分で発見があるんですよ。そこで気づいたことを自分のミックスに取り入れたりします。

-いいなと思った曲のクレジットを調べたりはされますか?

今は調べることは少ないですね。

僕がかっこいいと思うのは「音」のかっこよさだけじゃなく、作曲やアレンジなどといった、楽曲の様々な要素が含まれているので、結構一貫性がないことが多くて。

でも、僕が 20代の頃は CD 全盛の時代で、クレジットに記載されていているものを見たりはしていました。音響ハウスの存在を知ったきっかけも、CD に記載されていたクレジットで、それが今に繋がっていたりします。

ミックスでの音の聞き方

-ミックスで楽曲を仕上げていく時は、どのような基準を持って聴いていますか?

全体的な曲の中での立ち位置です。

左右のステレオの要素や、「ここ」にいる感じ、それは前の方にいるのか、それとも後ろの方にいるかという奥行き感。

あとは高い帯域の音は上から、反対に低い帯域の音は下に聞こえてくるような感覚があるので、その上下も感じながら聴いています。

- ミックス時での EQ などのかけ具合は、どのような音を聞いて判断していますか?

これも楽曲全体の中での立ち位置や他の楽器との関係性を見ながら判断をしています。
ドラムが全体の中でもう少しくっきり出てた方がいいと判断すれば、くっきりさせる為の EQ をしますし、聞こえすぎてて耳に痛いなと感じる場合には削ったり。

でも、何かを削ったら別の箇所が相対的に際立ってきたりするので、そういったことも加味しながら調整を行います。

- 他の楽器との兼ね合いを見ながら、相対的に判断されているんですね。

そうですね。
あとはトランジェント(※1)がしっかり出ている音は必然的に前に出て聞こえるので、単純に音量を下げるだけじゃなくて、耳につく帯域を削ります。

そういった楽器の弾き方や他の楽器との兼ね合いだったりを見ながら調整していくので、「どこに何をどれくらいかける」みたいな具体的なことを言うのはちょっと難しいんですよね。

(※1)トランジェントは、音の立ち上がり時に起きる、急激な変化が起きる部分のこと。例えば、ドラムを叩いた瞬間やギターの弦を弾いた瞬間の音など。

-まずは考え方が大事なんですね。
そうですね世間には「この楽器には EQ をこうかける!」の様なコンテンツがありますが、考え方を知らずに真似だけするのはあまり良い方向にはならない気がします。

もちろん、そういったコンテンツは発信されている方の経験から裏打ちされたものであって、内容自体は正しいと思います。

例えば、キックは低い帯域に基本的にはあるじゃないですか。それでいつもいじる場所は大体決まっていたりするんですが、それも他の楽器との位置関係の考え方から来るものなんです。

なので、考え方を学ばず、やっていることだけを真似しちゃうと応用が効かなくなっちゃうかなと。

特に自分は色んなジャンルに関わっていて、それぞれに対してポイントって変わってくるので、考え方は大事ですね。

音楽を聴くオーディオについて

-音楽を聴くときのオーディオ機器は何を使っていらっしゃいますか?

ヘッドホンで音楽を聴くことが多いです。
もちろんスピーカーでも聴きますけど、より音の詳細を聴くとなると、ヘッドホンの方が左右の定位がわかりやすいなと思います。

-ヘッドホンは何を使っていますか?

DENON(デノン) の DH5200 というヘッドホンです。

DENON(デノン) の DH5200

このヘッドホンは、エンジニアでも使ってる人が多いですね。あと、先日音響ハウスでレコーディングさせていただいた「モノンクル」というアーティストも、同じヘッドフォンを使ってますっておっしゃっていました。

その時はスタジオライブパフォーマンスの録音とミックスを担当したんですけど、この『二人芝居』という曲は音響ハウスの2スタで録ってます。女性ボーカルの声も素敵だし、曲もグルーブ感があってかっこいいんですよね。

(Xperia × MONONKVL) 新曲ライブパフォーマンス & インタビュー|Sony | Xperia

-アーティストの方も使用されているんですね。このヘッドホンのおすすめポイントは?

音質が良いのは当然ながら、上下左右の定位や奥行きが分かりやすいと思います。

ぶっちゃけ Apple の純正イヤホンでもいいんですが、そういう場合にも比較要素として他の機器での表現のされ方も知っておくことが大切です。

センスって、一体何でしょうか?

-音楽に対するセンスは、どのように磨いていくものだと考えますか?

音楽に対するセンスは生まれつきのものではなく、たくさん音楽を聴くことで培われるものだと思います。

僕は 90年代に学生時代を過ごしましたが、当時は邦楽が盛り上がっていて、特に DREAMS COME TRUE(ドリームズ・カム・トゥルー)や WANDS(ワンズ)  などが好きでした。
WANDS を通じて Nirvana(ニルヴァーナ)を知って、あと専門学生時代の友達で洋楽が好きな人も多かったので、そこから洋楽にも興味を持つようになっていって。

例えばドリカムでも、Earth, Wind & Fire(アース・ウィンド・アンド・ファイアー)あたりを感じる要素があって、自分はそういう感じの楽曲が好きなのかなってどんどん掘って聴いていったら幅が広がっていきましたね。

-たくさん曲を聴くことが大切なんですね。

はい。
特に名盤と言われているものは聴くべきなんですけど、無理に聞こうとしても自分の場合なかなか身に入らなかったりするのが難しいところで(笑)。

なので、初めのうちは自分の琴線に触れる音楽をたくさん聴いていくのが良いのかなと思います。

そうしていくと、その時は気付けなくても、後々良さに気づくっていう場合もあるんですよ。

僕は初めの頃、勉強のために The Beatles(ビートルズ)を聴いてみましたが、その時よりも仕事で「ビートルズっぽい感じで」と求められて改めて聴いたときにその魅力に気づいたんです。

-仕事で必要となると、聴く必要がありますもんね。

他にも仕事で色んな曲の魅力に気づくことは多いですね。

例えば声優さんの曲とか、結構攻めたアレンジが多くて面白かったり。そういった発見もあります。

-最近ハマっている曲はありますか?

Jose James(ホセ・ジェームズ)というアーティストです。

最近リリースされたリリースされたアルバム『1978』は、1970年代の要素を今風にアレンジしていて、ミックスも含めて勉強になります。

José James - 1978|josejamesworldwide

-ミックスが重要なんですね。

アレンジや音色の選び方も関係していますが、昔の80年代や90年代の曲調が新しく聞こえるのは、ミックスのレンジの作り方が特に重要かなと思います。

-先ほどのモノンクルさんの楽曲もそうでしたが、リズムがしっかり出ていますね。

昔ドラムをやっていたのでリズムが際立っている曲が好きなんですよね。

キックが特に好きで、ハウスもそうですけど、四つ打ちは特に大好物です(笑)。


中内茂治さんへのインタビューを通じて、エンジニアとしてのプロフェッショナルな音の聞き方や考え方をお伺いしました。

特に印象的だったのは、リスナーとしての自然な感覚を大切にしながらも、プロとして楽曲の細かい分析を行っていることです。

「なんかかっこいい」という感覚的な視点と、各楽器の音量バランスなど、細かな技術的分析を行う中内さんのアプローチは、幅広いリスナーに届けるためには必要なバランス感覚なのではないでしょうか。

私たちが何気なく「かっこいい」と感じる音楽には、エンジニアの綿密な分析と絶え間ない探求が隠されています。次に音楽を聴くときは、その「かっこいい」の裏側にある技術に着目してみると、新たな発見があるかもしれません。


プロフィールご紹介

名前:中内 茂治(なかうち しげはる)
ポップスからクラシック、劇伴など幅広く担当。最近では「NEO TOKYO CITY POP」をコンセプトに掲げたピアニストはらかなこのEP『Tokyo City Pop vol.1”Portrait”』や亀田誠治が担当した映画『100日間生きたワニ』オリジナル・サウンドトラック、人気ロックバンドOKAMOTO'Sのライブツアーアルバム『OKAMOTO'S LIVE TOUR2023 Flowers』の360 Reality Audio に対応したミックスなどを行っている。

過去のMIX担当作品:https://open.spotify.com/playlist/3LRe5aihy9hfDLnFXgwiSk

所属:音響ハウス
所属年数:2003年〜
生年月日:1980年6月10日
出身:福岡
出身校:福岡スクールオブミュージック専門学校
趣味:初めての店、行った事ない場所へ行く
音楽以外での目標:体に良いツボを覚える
名前:田中 誠記(たなか もとき)
音響ハウス 執行役員 IFE制作技術センター長。自身もエンジニアとしてラジオやテレビの MA を担当し、音響ハウスの歴史とともにキャリアを歩む。現在も執行役員を務めながら、音楽番組などのマスタリングを手がけている。
所属:音響ハウス
所属年数:1985年〜
生年月日:1963年1月13日
出身:東京都
出身校:音響技術専門学校
趣味:庭いじり、鉄ヲタ
音楽以外での目標:自分探しの旅に出ること
レコーディングスタジオ「音響ハウス」
住所:東京都中央区銀座 1-23-8
TEL:03-3564-4181
WEBサイト:https://www.onkio.co.jp/index.html
お問い合せフォーム:https://www.onkio.co.jp/contact/index.html
Nami
Written by
Nami

東京出身の音楽クリエイター。 幼少期から音楽に触れ、高校時代ではボーカルを始める。その後弾き語りやバンドなど音楽活動を続けるうちに、自然の流れで楽曲制作をするように。 多様な音楽スタイルを聴くのが好きで、ジャンルレスな音楽感覚が強み。 現在は、ボーカル、DTM講師の傍ら音楽制作を行なっている。 今後、音楽制作やボーカルの依頼を増やし、さらに活動の幅を広げることを目指している。

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