シンセサイザーの原点は1800年代にも遡りますが、楽器としての浸透は1970年代からです。
シンセサイザーという電子楽器が生まれたことにより、ディスコ、テクノ、ハウス、EDM などの様々な電子ミュージックのジャンルが生まれています。
それでは、一緒にシンセサイザーの歩みを見ていきましょう。
本記事に出てくるソフトウェアシンセサイザー以外のシンセサイザーは、現在オリジナルが生産されていません。そのため商品の URL は、商品ページがなかったものは後続機のページやソフトウェアシンセサイザー版のページを掲載しております。
シンセサイザーのルーツ(1800年代〜1900年代初頭)
シンセサイザーは電気を利用して音を生成する楽器です。
電気を音作りに利用しようとする試みは1800年代後半から始まり、 研究者たちによって研究が行われました。
そして、この研究が応用された仕組みを持った、ミュージック・テレグラフ、テルハーモニウムなどの楽器が作られ始めます。これらは電気を利用して音を出すといったシンセサイザー概念の先駆け、いわばルーツとなる楽器になりました。
また、1900年代に入ると「真空管」というものが発明されます。そうです、今日において耳馴染みのある「真空管アンプ」の「真空管」です。
真空管は、電子回路において電子信号を増幅したり制御することができるといったもの。
この真空管が楽器にも取り入れられ、1919年にはテルミン、1928年にはオンドマルトノ、1934年ハモンドオルガンなどの初期の電子楽器が登場しました。
1800年代後半〜1900年代初頭は、これまでのアコースティック楽器に加え、楽器に「電気」という概念が加わった黎明期でした。
シンセサイザー形成期 (1900年代中期〜)
時代が進むにつれ様々な技術者が電子楽器を開発していき、現代におけるシンセサイザーの基本が形成されていきます。
例えば、1937年にはポリフォニック・シンセサイザー(注1)の先駆けが発明され、同年には初めて減算方式(注2)によるポリフォニック・シンセサイザーも誕生しました。
また、現代におけるロボットボイスとして有名なシンセサイザーである「ヴォコーダー」が登場したのも同時期です。
1955年には、ついにシンセサイザーが楽器として確立される出来事がおきます。
プリンストン大学とコロンビア大学の共同実験によって開発された「 RCA Mark II 」の登場です。これにより、初めてシンセサイザーという言葉が使われました。(注3)
この「 RCA Mark II 」は、シンセサイザーとはいっても現代のものと比較して非常に大きく、なんと部屋を一室を占領するほどの巨大な機械だったのだとか。
(注1)ポリフォニックシンセサイザー・・・「poly(ポリ)」は、多くのという意味を表し、一度に複数の音、つまり和音を出せるシンセサイザーのことを表します。反対にモノフォニックは、一度に単音しか表せられないシンセサイザーです。ポリフォニックシンセサイザーが実際に登場したのは1970年代になります。
(注2)減算方式・・・シンセサイザーの音作りの方式の一種。
(注3)ここまで紹介してきたシンセサイザーの先駆けとなる楽器たちは便宜上「シンセサイザー」というワードを使用していましたが、楽器において「シンセサイザー」というワードが使われるようになったのは、この「 RCA MARK II 」以降です。
シンセサイザーとしての登場(1960年代〜)
1960年代に入ると、いわゆる「シンセサイザー」という楽器として確立され始めます。
後世のモデルとなった二大巨塔は、Buchla(ブックラ)社と Moog(モーグ)社のモジュラーシンセサイザーです。(注4)
1960年代初頭に開発された Buchla 100 series は当時世界初のモジュレーションシンセサイザーとして登場しました。
1969年には Wendy Carlos (ウェンディ・カルロス)によってバッハの曲をこのシンセサイザーでカバーしたアルバム『 Switched-On Bach (スイッチト・オン・バッハ)』が発売され、楽器としてシンセサイザーが認知されていったきっかけの一つになりました。
これは、シンセサイザーでバッハの名曲をカバーしたアルバムとなっています。
<シンセサイザー音楽の先駆けとなったアルバム>
『 Switched-On Bach / Wendy Carlos 』(1968年)
また、1967年頃には Moog 社からモジュラーシンセサイザーが発売。
The Beatles(ビートルズ)は彼らの1969年発売のアルバム『 Abbey Road(アビー・ロード) 』で4曲ほど Moog Synthesizer IIIc という Moog 社のシンセサイザーを取り入れて作成しました。The Beatles は初期の段階でシンセサイザーを取り入れたアーティストの一つです。
<Moog 社のシンセサイザーを取り入れた楽曲>
『 Here comes the sun / The Beatles 』(1969年)
参考:Beatles Use Moog Synthesizer On Abbey Road Sessions|Moog Music
この頃日本では、シンセサイザー先駆者である冨田勲さんが既に Moog Synthesizer IIIp を個人で購入し輸入していたとのこと。当時は今以上に円の価値が低かったこともあり、当時の価格で約1000万円ほどしたのだとか(当時は1ドル約360円)。
< Moog Synthesizer IIIc 演奏動画>
< Moog Synthesizer IIIp 演奏動画>
Moog Modular Systems | Moog Music
1969年にはイギリスにて Electronic Music Studios (エレクトロニック・ミュージック・スタジオ)というメーカーができ、Moog 社とは一味違ったサウンドを提供し始めます。
EMS 社が発売した EMS VCS3 というモジュラーシンセは、Pink Floyd (ピンク・フロイド)の『狂気』というアルバムにも使用されたサウンドで有名です。
<EMS VCS3 を取り入れた楽曲>
『 On The Run / Pink Floyd 』 (1974年)
<EMS VCS3演奏動画>
Electronic Music Studios|The Products
EMS VCS3 は現在生産を停止しています。そのため、Behringer(べリンガー)という会社がクローン製造に取り組んでいる最中なんだとか。
参考:Behringer VCS3 | EMS VCS3クローンのプロトタイプを公開!|Digiland
この頃のシンセサイザーの音作りは今以上に複雑なもので、上記のような楽曲に取り入れられていたものの、音作りに膨大に時間がかかってしまうことからライブを含め多くのアーティストが実用的に使うにはまだまだ程遠い代物でした。
また、重量もかなり重く、値段も当時は非常に高額だったこともあり、すぐには普及しませんでした。
(注4)モジュレーションシンセサイザーとは、オシレーター、フィルター、アンプ、エンベロープ、LFO などといったシンセサイザーを構成するものを個別で設定して音作りができるシンセサイザーです。
より扱いやすく!シンセサイザーの浸透 (1960年代後半〜70年代)
1960年代後半からシンセサイザーをより軽量化、操作の分かりやすさ向上、プライスダウンするという動きが見られ始めます。
これにより、シンセサイザーは次第にアーティストの制作にも取り入れられるようになり、制作のみならずライブシーンにもより取り入られるようになっていきました。
大きな分岐点となった歴史的な名機は、1970年に Moog 社から発売された Minimoog です。
これを皮切りに、実用に向けたシンセサイザーの開発に勢いが増していきました。
< Monimoog を使用した楽曲>
『 Are 'Friends' Electric? / Gary Numan 』(1979年)
『 Autobahn / Kraftwerk 』(1974年)
参考:Kraftwerk Autobahn|Moog music
< KORG Minimoog Model D 演奏動画(復刻機)>
また、1970年に ARP Instruments(アープ) 社からは ARP 2500 というモノフォニック・モジュラー・シンセサイザーが製造され、こちらもモジュラーシンセサイザーのパイオニアの一つとなりました。
翌年にはよりコンパクトに設計された ARP 2600 を開発し、その独特のサウンドからStivie Wonder(スティービー・ワンダー)や The Who(ザ・フー)などのアーティストに使用されています。
< ARP 2500を使用した楽曲>
『 I Wish / Stevie Wonder 』(1976年)
<ARP 2500演奏動画>
参考:ABOUT | ARP
またさらに翌年の1972年に ARP 社から発売された Odyssey も当時を代表するシンセサイザーの一つです。
< Odyssey を使用した楽曲>
『 Rocket man / Elton Jhon』(1972年)
< ARP Odyssey 演奏動画>
ARP ODYSSEY - DUOPHONIC SYNTHESIZER - Korg|Korg
参考:SOUNDS: Music by ARPOdyssey|ARP
この時期になると日本のメーカーからも革新的なシンセサイザーが登場し、シンセサイザーの躍進を担います。
1973年に KORG 社から miniKORG700。Roland 社から SH-101、1974年に YAMAHA 社から SY-1 が発売。
これらの登場はシンセサイザー業界に影響を与えました。
< KORG miniKORG演奏動画>
miniKORG 700FS - SYNTHESIZER|Korg
< Roland SH-101演奏動画>
Roland - SH-101 | Software Synthesizer|Roland
< YAMAHA SY-1演奏動画>
メーカーの試行錯誤によって、より扱いやすくなったシンセサイザーは、音楽により取り入れられるようになり、プログレッシブ・ロック、ディスコなどのジャンル形成に貢献しました。
デジタルシンセサイザーの誕生(1980年代〜)
第二次世界大戦によってコンピューターの技術が伸び、徐々に音楽分野への応用も進んでいきます。
1980年代に入ると、デジタル技術がシンセサイザーにも応用され始め、「デジタルシンセサイザー」が誕生しました。
代表的な名機は YAMAHA DX7 で、金物のようなこの独特のサウンドは時代を代表する音の一つです。
< YAMAHA DX7を使った曲>
『 Take On Me / a-ha 』 (1985年)
80sのシティポップでもよく聞くサウンドです。
< YAMAHA DX7演奏動画>
その他1981年に発売された Roland 社の JUPITER-8 も世界的に有名な機種です。
<Roland JUPITER-8を使用した曲>
『 Everything counts / Depeche Mode 』(1983年)
『 Too Shy / KajaGooGoo 』(1983年)
< Roland JUPITER-8 演奏動画>
Roland - JUPITER-8 | Software Synthesizer|Roland
デジタルシンセサイザーの更なる可能性
1982年、今ではお馴染みとなった MIDI 規格が策定されます。MIDI 規格とは楽器演奏をデジタルデータとして取り扱うもので、これにより別のミュージシャンと演奏内容が共有できるようになりました。
これをシンセサイザーにも取り入れ始めます。
1988年に KORG 社から製造された KORG M1 は一般的に使用されるシンセサイザーの中では初めて PCM 音源を使用したことに加え、MIDI データを自動演奏するシーケンサーを搭載していました。
これが当時の大ヒットとなり、演奏も作曲もできるシンセサイザー「デジタル・ワークステーション」としての概念を普及させていきました。
< KORG M1を使った曲>
『 Show Me Love / Robin S 』
< KORG M1演奏動画>
M1 V2 for Mac/Win - MUSIC WORKSTATION - Korg|Korg
また、1980年代はディスコから派生したジャンルであるテクノ、ハウスなどといったシンセサイザーを取り入れた音楽ジャンルが発達しました。
更なるバリエーション (1990年代〜)
1995年に発売された KORG TRINITY には初めて液晶ディスプレイが付きました。
KORG の音楽ワークステーションシリーズの基盤を築き、その後のモデルや進化に影響を与えたものです。
特定の曲が見つけられなかったので、演奏動画でサウンドをチェックしてみてください。
< KORG TRINITY 演奏動画>
History | TRITON / TRITON Extreme for Mac/Win|Korg
スウェーデンの会社である Clavia Digital Music Instruments 社は、1995年に Nord Lead1を発売。
これはバーチャルアナログシンセサイザーという新しい概念のもので、デジタル技術を使用してアナログシンセサイザーの音色や特性を再現するシンセサイザーのタイプです。
アナログシンセサイザーのウォームで豊かな音色とキャラクターをデジタル技術で再現するといった、いわばいいとこ取りを目指したものになります。
< Clavia Nord Lead1 演奏動画>
Nord Lead A1 | Nord (ノード)|Nord Keyboards
ソフトウェアシンセサイザー (1990年代〜)
ソフトウェアシンセサイザーは、その名の通りソフトウェアのシンセサイザーのことです。一般的にソフトシンセと呼ばれます。
第二次世界大戦を経てコンピューターは大きく発達しました。そのため、長らくソフトウェアシンセサイザーの元になる研究がされていましたが、一般的に普及し始めたのは1990年頃になります。
デジタル上での音楽制作が一般的になるにつれ、より音楽制作に欠かせないものとなりました。
以下に主要なソフトウェアシンセサイザーの例を挙げておきます。
◆Serum(Xfer Records)
Serum: Advanced Wavetable Synthesizer|Xfer Records
◆Omnisphere 2(Spectrasonics®)
Omnisphere 2.8 - Overview | Spectrasonics
◆Massive( Native instruments )
Massive: Polyphonic software synthesizer | Komplete|Native Instruments
◆U-he Diva(dirigent)
Diva - Dirigent - ディリゲント|dirigent.jp
まとめ
今回は代表的なシンセサイザーの名前を挙げながらシンセサイザーの歴史を振り返りました。
例示した名機と呼ばれるシンセサイザーは、現在生産がされておらず、中古で取引されています。
近年ではデジタルシンセサイザー、ソフトウェアシンセサイザーが一般的になりつつも、アナログシンセサイザーの音も再評価され始め、今では多くのシンセサイザーが当時の復刻版として製造されています。しかし、このような場合でも数量限定生産がほとんどなので、一般にはなかなか出回りません。
生産中止されたシンセサイザーの音が欲しい場合は、サウンドを引き継いだ後続機が発売されていたり、音色を再現したソフトウェアシンセサイザーも発売されている場合があるので、それらを使用するといった手があります。
現在は新しいシンセサイザーもバリエーション豊かに販売されており、色々な選択肢ができる今だからこそ、シンセサイザーを活用できたら音作りの幅が広がって楽しいですよね。
東京出身の音楽クリエイター。 幼少期から音楽に触れ、高校時代ではボーカルを始める。その後弾き語りやバンドなど音楽活動を続けるうちに、自然の流れで楽曲制作をするように。 多様な音楽スタイルを聴くのが好きで、ジャンルレスな音楽感覚が強み。 現在は、ボーカル、DTM講師の傍ら音楽制作を行なっている。 今後、音楽制作やボーカルの依頼を増やし、さらに活動の幅を広げることを目指している。