名機と見るシンセサイザーの歴史

シンセサイザーは、技術革新とともに独自の進化を遂げてきました。歴史が長いからこそ、時代を象徴する名機が生み出したサウンドは、現代の音楽シーンにおいても今なお脈々と生き続けています。その歴史や特徴を知ることは、単なる知識にとどまらず、現代のサウンドメイクに対する深い理解と新たなアイディアをもたらせてくれるはずです。音楽史に刻まれた名機たちの足跡を紐解いていきましょう。

Nami
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シンセサイザーのルーツ(電子楽器の起源)は1800年代末にまでさかのぼりますが、ポピュラー音楽の現場で一般的な楽器として広く普及し始めたのは1970年代に入ってからです。シンセサイザーをはじめとする電子楽器の登場と進化によって、ディスコ、テクノ、ハウス、EDM に至るまで、多様な電子音楽ジャンルを生み出し、音楽表現の可能性を飛躍的に広げていきました。

それでは、音楽史を塗り替えてきた代表的な名機とともに、シンセサイザーの歴史を振り返っていきましょう。

なお、本記事で紹介するソフトウェア・シンセサイザーの多くは、すでにオリジナルの生産が終了しています。そのため、商品リンクについては、後継機種やソフトウェア版のページを案内している場合があります。あらかじめご了承ください。

シンセサイザーのルーツ(1800年代〜1900年代初頭)

シンセサイザーは、電気のシグナルを利用して音を生成する楽器です。電気を音作りに応用する試みは1800年代後半から始まり、 数多くの研究者や発明家たちによって実験が行われていました。その最初期の成果として知られるのが、イライシャ・グレイが開発した“ミュージカル・テレグラフ”や、巨大な音源システムである“テルハーモニウム”といった楽器です。これらは電気で音を出すという、現代のシンセサイザーにつながる概念の先駆けとなりました。

1900年代に入ると真空管が発明されます。電気信号の増幅や制御を容易にした真空管は、楽器にも応用され、1920年にはロシアでテルミン、1920年代後半にはフランスでオンド・マルトノ、さらに1930年半ばにはハモンド・オルガンといった初期の電子楽器が誕生しました。

1800年代後半から1900年代初頭は、それまでのアコースティック楽器の時代から、楽器に「電気」という新しい概念が加わった、まさに電子楽器の黎明期と言えます。

シンセサイザー形成期 (1930年代〜1950年代)

時代が進むにつれ、数多くの技術者や研究者によって新たな電子楽器が開発され、現代につながるシンセサイザーの基本構造が形成されていきます。1930年代後半には、複数の音を同時に鳴らせるポリフォニック・シンセサイザー(注1)の先駆けや、現代のシンセサイザーでも主流である減算方式(注2)を用いた試作機、さらに現代のロボット・ボイスのルーツとしても知られる「ヴォコーダー」の基礎技術が登場しました。

そして1950年代後半、電子楽器の歴史における大きな転換点が訪れます。コロンビア大学とプリンストン大学の共同研究によって開発された巨大システム「 RCA Mark II Electronic Music Synthesizer 」の登場です。この画期的な音響合成装置の誕生によって、音楽の現場において初めて正式にシンセサイザーという言葉が使われるようになりました。(注3)なお、この「 RCA Mark II 」は、現代のキーボード型のシンセサイザーとは全く異なり、なんと部屋を一室を占領するほど巨大な音響実験設備でした。

引用:Columbia University 

(注1)ポリフォニック・シンセサイザー:「poly(複数の)」という言葉の通り、同時に複数の音(和音)を鳴らせる仕様のことです。対して、一度に1音(単音)しか出せないものをモノフォニックと呼びます。ポピュラー音楽向けに実用的なポリフォニック・シンセサイザーが普及するのは1970年代後半になります。

(注2)減算合成(減算方式):倍音を多く含む豊かな波形(鋸波や矩形波など)から、フィルターを使って不要な周波数成分を削り取ることで音色を作る、最も代表的な音作りの手法です。

(注3)シンセサイザーの語源について:本パート以前に紹介した初期の電子楽器にも便宜上「シンセサイザー」という表現を用いていますが、楽器分野で公式にこの名称が適宜され定着したきっかけが、この「RCA MARK II」となります。

楽器としての確立と普及(1960年代〜)

1960年代に入ると、現在私たちがイメージする「シンセサイザー」という電子楽器の形が確立され始めます。その第一歩となったのが、のちのシンセサイザーの基礎を築いた二大巨塔、Buchla(ブックラ)と Moog(モーグ)によるモジュラー・シンセサイザーの登場です。

1960年代初頭にドナルド・ブックラによって開発された Buchla 100 series は、今日のモジュラー・シンセサイザーの先駆けとして誕生しました。
ほぼ同時期、ロバート・モーグ博士によって開発されたMoog Synthesizer(1964年発表・1967年商業発売)は、鍵盤で演奏できるスタイルを確立し、世界中に大きな衝撃を与えます。

1968年には Wendy Carlos (ウェンディ・カルロス)が Moog シンセサイザーのみでバッハの楽曲を演奏・多重録音したアルバム『Switched-On Bach (スイッチト・オン・バッハ)』を発売。クラシック界・音楽界で大ヒットを記録し、ポピュラー音楽における実用的な楽器として、シンセサイザーが広く認知される決定的なきっかけとなりました。

さらに、The Beatles(ビートルズ)も、1969年発売の名盤『Abbey Road(アビー・ロード)』で、巨大な Moog Synthesizer IIIp を導入。「Because」や「Here Comes the Sun」など計4曲で印象的なシンセ・サウンドを取り入れるなど、世界のトップ・アーティストたちが相次いで楽曲制作に導入し始めました。

<Moog 社のシンセサイザーを取り入れた楽曲>

『 Here comes the sun / The Beatles 』(1969年)

参考:Beatles Use Moog Synthesizer On Abbey Road Sessions|Moog Music

この頃、日本における電子楽器のパイオニアである冨田勲氏も、個人で Moog Synthesizer IIIp を購入・輸入していました。関税等も含めると当時の価格で約1000万円以上という非常に高額な買い物だったと語られています(当時は1ドル約360円)。

参考:冨田勲×宇川直宏対談|音楽ナタリー

1969年には、イギリスで EMS 社( Electronic Music Studios )が設立され、Moog とは異なる独自のアプローチで電磁楽器の開発を進めます。

EMS 社が発売した VCS3 というモジュラー・シンセは、パッチコードではなくマトリックス・ボード(ピンを差し込む方式)を採用した画期的なポータブル・モデルでした。Pink Floyd (ピンク・フロイド)の名盤『The Dark Side of the Moon(邦題:狂気)』などで多用され、幻想的なサウンドで強烈なインパクトを与えました。

<EMS VCS3演奏動画>

Electronic Music Studios|The Products

EMS VCS3 のオリジナル機は現在生産を終了しています。なお、近年では音響機器メーカーの Behringer(べリンガー)が復刻クローン・モデルの開発を発表し、大きな話題を呼びました。

参考:Behringer VCS3 | EMS VCS3クローンのプロトタイプを公開!|Digiland

このように最先端の楽曲で取り入れられ始めたシンセサイザーでしたが、当時の音作りには膨大な時間と専門知識を要しました。そして一般人には手の届かない高額な機材であったことから、ライブ・パフォーマンスで実用的に使うにはまだまだ程遠い代物でした。

Photo by Ismael Paramo / Unsplash

より扱いやすく!ポータブル化とライブへの浸透 (1970年代〜)

1970年代に入ると、シンセサイザーをより軽量に、操作をわかりやすく、低価格にしようとする動きが始まります。これにより、スタジオでの楽曲制作だけでなく、ステージでのライブ・パフォーマンスにもシンセサイザーが積極的に導入されるようになりました。

大きな分岐点となった歴史的名機が、1970年に Moog 社から登場した Minimoog です。複雑なパッチングを不要にし、鍵盤と主要なコントローラーをコンパクトな筐体に一体化させた Minimoog の誕生により、実用的なシンセサイザーの開発競争が一気に加速していきました。

< Minimoog を使用した楽曲>

『Autobahn』Kraftwerk (1974年)

『Are 'Friends' Electric?』Gary Numan (1979年)

< KORG Minimoog Model D 演奏動画(復刻機)>

Minimoog Model D

Moog社の強力なライバルとして歴史に名を刻んだのが、1969年に設立されたARP Instruments(アープ)社です。、1970年に ARP 2500 というモノフォニック・モジュラー・シンセサイザーを発表した同社は、翌1971年に、セミモジュラー式で持ち運びが可能な ARP 2600 を開発。その独特で力強いサウンドは、Stivie Wonder(スティービー・ワンダー)や The Who(ザ・フー)などのアーティストたちを魅了しました。

参考:ABOUT | ARP

さらに1972年には、 Minimoog に対抗すべくよりコンパクトでポータブルな Odyssey を発売。2音同時発音(デュオフォニック)に対応した表現力の高さから、当時の音楽シーンを席巻する大ヒット作となりました。

< ARP Odyssey 演奏動画>

ARP ODYSSEY - DUOPHONIC SYNTHESIZER - Korg|Korg

参考:SOUNDS: Music by ARPOdyssey|ARP

この時期、日本の楽器メーカーからも革新的なシンセサイザーが相次いで誕生し、世界的なシンセサイザーの普及に大きく貢献します。
1973年に KORG 社から miniKORG700と、Roland 社から SH-1000。1974年に YAMAHA 社から SY-1 が発売。

各メーカーの試行錯誤によって、誰もが扱える楽器となったシンセサイザーは、1970年代のプログレッシブ・ロックやディスコ・ミュージックなど、新たな音楽ジャンルの形成と発展において決定的な役割を果たしました。

< KORG miniKORG演奏動画>

miniKORG 700FS - SYNTHESIZER|Korg

デジタル・シンセサイザーの誕生(1980年代〜)

1980年代に入ると、従来の回路による音作りから、コンピューター演算を利用した「デジタル・シンセサイザー」の時代へと突入します。

この時代の象徴となった最大の名機は、1983年にヤマハが発売した DX7 です。「FM音源」を採用したDX7 は、従来のアナログ・シンセでは再現が難しかったエレピ(電気ピアノ)やきらびやかな金物(ベル系・ブラス系)サウンドを生成可能で、80年代のポップス・シーンを席巻しました。

< YAMAHA DX7を使った曲>

『 Take On Me / a-ha 』 (1985年)

< YAMAHA DX7演奏動画>

DX7 - シンセサイザー - 概要|ヤマハ

また、デジタル時代への過渡期であった1981年には、ローランドからアナログ・シンセサイザーの最高峰として知られる JUPITER-8 が登場。8音ポリフォニックの豊かなサウンドは、全世界のトップ・アーティストに愛用されました。

< Roland JUPITER-8 演奏動画>

Roland - JUPITER-8 | Software Synthesizer|Roland

デジタル・シンセサイザーの更なる可能性

1980年代前半(1983年発表)、現代の音楽制作でも不可欠となっている世界共通規格 MIDI が策定されます。演奏データをデジタル数値としてやり取りできる MIDI の誕生により、異なるメーカー同士の機器接続や、シーケンサーによる自動演奏・楽曲制作が飛躍的に容易になりました。

このMIDI技術とリアルな実音サンプリング(PCM音源)を融合させ、音楽制作のあり方を一変させたのが、1988年に KORG 社から発売された M1 です。M1 は、高品位な PCM 音源に加え、マルチトラック・シーケンサーやエフェクターを1台に凝縮。「これ1台で楽曲を完成させられる」というミュージック・ワークステーションの概念を世界に決定付け、当時のシンセサイザー史上最高レベルの世界的ヒットを記録しました。

< KORG M1演奏動画>

M1 V2 for Mac/Win - MUSIC WORKSTATION - Korg|Korg

1980年代は、これらの技術革新によって、ディスコから派生したテクノやハウス、ニュージャック・スウィングなど、シンセサイザーを主役にした新たな音楽ジャンルが次々と花開いた時代でした。

更なるバリエーションとバーチャル・アナログの誕生 (1990年代〜)

1990年代に入ると、デジタル技術とコンピューター性能の飛躍的な向上に伴い、シンセサイザーは新たな時代を迎えます。

1995年に発売された KORG TRINITY は、タッチ・パネルをシンセサイザーとして世界で初めて搭載。直感的な操作性とPCMサウンドを両立し、のちの大ヒット機「TRITON」へとつながるワークステーションの金字塔となりました。

< KORG TRINITY 演奏動画>

History | TRITON / TRITON Extreme for Mac/Win|Korg

また同年、スウェーデンの Clavia 社が発売した Nord Lead1は、バーチャル・アナログという画期的な概念を世界に提示しました。これは、最新のDSP技術を用いて、1970年代の電子回路が持つ温かみや独特の歪み、パラメータ操作の応答性をデジタル上でリアルタイムに計算・再現(モデリング)する手法です。アナログならではのウォームで豊かなサウンドと、デジタルの安定性と操作性を兼ね備えた、まさにいいとこ取りのシンセサイザーとして大ヒットを記録しました。

ソフトウェア・シンセサイザーの普及 (1990年代〜)

パソコン上で動作するソフトウェア・シンセサイザー(通称ソフトシンセ)のルーツは、1950年代のコンピューター音響研究にまで遡ります。一般的に普及し始めたのは、パソコンの処理能力が高まった1990年後半からになります。

1990年代末にSteinberg(スタインバーグ)社が策定したプラグイン規格「VST」などの登場により、パソコン(DAWソフト)内で複数のシンセサイザーを同時起動し、そのまま楽曲制作を行える環境が完成。ハードウェアの実機を持たなくても手軽に高度な音作りができる時代へと突入していきました。


まとめ

今回は、音楽史を彩ってきた代表的な名機とともに、シンセサイザーの誕生から進化の歴史を振り返りました。本記事で紹介した名機たちの多くは、オリジナルの実機生産が終了しており、現在ではビンテージ楽器として高値で取引されています。

しかし、当時のサウンドを音楽制作に取り入れたい場合は、メーカー自らが名機の回路や音色を現代の技術で再現した復刻モデルや後続機、DSP技術やAIを駆使して音色を再現したプラグイン(ソフトシンセ)など、誰もが手軽に憧れの名機サウンドを手に入れられる環境が整っています。

現在はハードウェア・ソフトウェアを問わず、さまざまなシンセサイザーの選択肢がそろっているからこそ、各名機が歩んできた歴史や背景を知ることは、音作りのアイディアや表現力を大きく広げる鍵となります。ぜひこの記事をきっかけに、時代を超えて受け継がれるシンセサイザーを、あなたのサウンドメイクに生かしてみてください。

Nami
Written by
Nami

東京出身の音楽クリエイター。 幼少期から音楽に触れ、高校時代ではボーカルを始める。その後弾き語りやバンドなど音楽活動を続けるうちに、自然の流れで楽曲制作をするように。 多様な音楽スタイルを聴くのが好きで、ジャンルレスな音楽感覚が強み。 現在は、ボーカル、DTM講師の傍ら音楽制作を行なっている。 今後、音楽制作やボーカルの依頼を増やし、さらに活動の幅を広げることを目指している。

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