マイクプリアンプとは?
マイクプリアンプは、マイクから送られてくる音声信号を増幅する機材です。
マイクで拾った音声信号は、そのままでは十分な信号レベルに達しておらず、マイクプリアンプでその信号を増幅することで、やっと使用可能な信号レベルになります。そのため、マイクプリアンプはマイクの後に接続して使用されます。
このように、マイクプリアンプは録音に必要不可欠な存在です。
①オーディオインターフェイスに内蔵されているマイクプリアンプ
自宅録音をしている多くの方は、マイクを直接オーディオインターフェイスに接続しているのではないでしょうか。
ほとんどのオーディオインターフェイスにはマイクプリアンプが内蔵されており、別途マイクプリアンプを購入しなくても録音が可能です。
マイクプリアンプは音質に重要な影響を与えるため、内蔵のマイクプリアンプを売りにしているオーディオインターフェイスも少なくありません。
例えば、Focusrite 社のオーディオインターフェイスが挙げられます。
この会社は、後述するマイクプリアンプの老舗である Neve(ニーヴ)の創設者、Rupert Neve(ルパート・ニーブ)によって設立されました。
そのため、Focusrite(フォーカスライト)社はマイクプリアンプの品質に定評があり、同社のオーディオインターフェイス Clarett+ では、Focusrite 社の伝説的な機材である ISA 110 の回路を取り入れています。
②アウトボードのマイクプリアンプ
前章ではオーディオインターフェイスに内蔵されるマイクプリアンプについて紹介しましたが、一方でマイクプリアンプ単体の機材も存在します。
マイクプリアンプに限らず、外付けで繋ぐ機材のことをアウトボードと呼びます。
アウトボードのマイクプリアンプは比較的オーディオインターフェイスに内蔵されているものよりも性能が良く、高価です。
そのため、プロのアーティストがレコーディングする音楽スタジオや個人スタジオで導入されていることが多く、プロ品質の機材ともいえるでしょう。
また、アウトボードのマイクプリアンプを使用する大きな目的の1つが、そのサウンドです。
アウトボードのマイクプリアンプは製品によって特徴的なサウンドを付加してくれるため、この音色の変化を目当てにアウトボードを購入する方が多いです。
③ソフトマイクプリアンプ
前章では、マイクプリアンプが特有のサウンドを付加するという目的でも使われることをお伝えしました。
マイクプリアンプの回路をソフトウェアで模倣し、そのサウンド感をプラグインで再現するといった、ソフトウェアのマイクプリアンプも存在します。
オーディオインターフェイスにもマイクプリアンプは搭載されているので、このソフトマイクプリアンプはマイクプリアンプの本来の目的である、音声信号を増幅するという意味よりも、その特有のサウンドを再現するために使われることが多いです。
ソフトウェアのマイクプリアンプは、アウトボードのマイクプリアンプに比べてコストが低く、アウトボードのマイクプリアンプを使った場合に得られるサウンドをソフトウェアでシミュレーションすることができます。
番外編:ミキシングコンソールとマイクプリアンプ
マイクプリアンプは、一昔前までミキシングコンソールに内蔵されてるものを使用することが主流でした。
ミキシングコンソールとは、レコーディングした音を音量調整したり、その音にコンプレッサーや EQ などといったエフェクトをかけることができる機械です。
レコーディングスタジオに置いてある大きい機材としてイメージする方も多いのではないでしょうか。
ミキシングコンソールにはマイクプリアンプや EQ、コンプレッサーなど、さまざまな機能が内蔵されています。
次章でご紹介をする各メーカーのマイクプリアンプも、元々はミキシングコンソールに内蔵されていたものから始まっており、各メーカーは現在でもミキシングコンソールの老舗としても知られています。
時が経つにつれて、マイクプリアンプをはじめとする各機能が独立した製品としても流通し始めました。
これにより、自分のスタジオや録音環境に合わせて、特定の機能だけを選んで導入できるようになりました。
今日では、ミキシングコンソールに内蔵されるマイクプリアンプと、独立したマイクプリアンプの両方が広く使用されています。
定番メーカー
マイクプリアンプは様々なメーカーから販売されていますが、今回は特に知っておきたいメーカーとして Neve 社、API 社、SSL 社をご紹介します。
Neve
Neve は、マイクプリアンプで有名なイギリスのメーカーです。
Neve の最初の会社である Neve Electronics は Rupert Neve によって創設され、その後財政的理由から買収され AMS Neve という社名に変わっています。
さらに、AMS Neve に変わったタイミングで Rupert Neve は会社を離れており、その後新たに Focusrite や Rupert Neve Designs を立ち上げました。
このような歴史から Neve 系譜のメーカーや、さらには Neve からインスパイアを受けたクローン機など他社メーカーが作成した派生製品が様々あり、これらは Neve 系と括られることが多いです。
もちろん製品によってサウンドの特徴は異なりますが、Neve 系のサウンドは「シルキー」と表現されることが多く、高音域が滑らかになるという特徴があります。
<代表的な製品>
- NEVE 1073
- WARM AUDIO / WA73-EQ
- RUPERT NEVE DESIGNS Portico 511
以下の動画では、NEVE 1073 の実機と、Waves Scheps 73 と Waves VEQ3 の音を聴き比べる検証を行っています。
Solid State Logic(ソリッド・ステート・ロジック)
Solid State Logi は、イギリスのメーカーです。
1970 年代に設立され、現在もプロ御用達のブランドとして知られています。
SSL のサウンドはクリーンで透明感があり、多くのエンジニアやプロデューサーから高く評価されています。
また、SSL の製品はその多様性と柔軟性も特徴です。500シリーズモジュールは、様々な組み合わせで使用でき、多くのプロフェッショナルが愛用しています。
SSL のマイクプリアンプは、その透明感のあるサウンドと正確なレスポンスで、様々なジャンルの録音に適しています。
<代表的な製品>
- PURE DRIVE QUAD
- Pure Drive Octo
- 500 Series SiX Channel
以下の動画では、SSL のサウンドを確認することができます。
API: Automated Processes, Inc.(エーピーアイ)
API: Automated Processes, Inc.、通称 API 社は、アメリカのオーディオ機器メーカーです。
上位2つのメーカーがイギリス発祥であるのに対し、アメリカのメーカーである API の製品は「アメリカン・サウンド」として親しまれています。
API のマイクプリアンプは、抜けが良く、存在感のあるサウンドが特徴です。
特にロックミュージックで使用されることが多く、その音質は多くのエンジニアやミュージシャンに愛用されています。
API の製品はディスクリートという設計が特徴で、各部品が独立して配置されています。
特に、音の増幅を担うオペアンプという部品には、「API2520」と呼ばれるモデルが使用されています。
この API2520 は API 製品の象徴ともいえる存在で、API のサウンドを支えています。
<代表的な製品>
- API 3124V
- API 512V
以下の動画では、API 3124V とそのクローン機である Warm Audio WA-412 の音を聴き比べる検証を行っています。
アウトボードマイクプリアンプの必要性
アウトボードのマイクプリアンプをわざわざ購入する必要があるのでしょうか?
その答えは、求める音質や状況によって異なります。
現在、オーディオインターフェースには多くの場合、内蔵のマイクプリアンプが搭載されています。
このため、アウトボードのマイクプリアンプがなくても、基本的な録音や音の処理は可能です。
オーディオインターフェースの内蔵プリアンプでも十分な音質が得られる場合も多く、特に自宅録音や初心者の方にとっての必要性は低いと言えるでしょう。
しかし、アウトボードのマイクプリアンプには独自のサウンド特性があり、プロの現場でも頻繁に使用されているのもまた事実です。
さらに、マイクプリアンプには前述したサウンドに味付けを加えてくれることだけではなく、ファンタム電源をマイクに送るという重要な役割もあります。
ファンタム電源とは、コンデンサーマイクを使用する際に必要となる電源のことです。
このファンタム電源はオーディオインターフェイスからコンデンサーマイクに送れる製品もありますが、基本的にはマイクプリアンプに搭載されているもののファンタム電源の方が品質が高いです。
また、安価なオーディオインターフェイスに搭載されているマイクプリアンプよりも、アウトボードのマイクプリアンプの方が性能が高いため、音質をプロクオリティにしていくためには、いずれは必要になってくる機材ともいえるでしょう。
プロは何を使っているの?
オーディオインターフェイスに内蔵されているマイクプリアンプ、ソフトウェアのマイクプリアンプ、アウトボードのマイクプリアンプ...ここまで様々な形のマイクプリアンプがあることをご紹介しました。
では、実際のプロの現場ではどのようなものを使用しているのでしょうか?
ONLIVE Studio では、第一線で活躍するプロフェッショナルに定期的にインタビューを実施しています。
以下の記事では、ベテランエンジニアであるサカタコスケさんと、注目のアーティストである碧海祐人さんにレコーディングについてインタビュー。
マイクプリアンプを含めた、録音時に使用した機材についてもお聞きしており、その機材を使用した楽曲も確認できます。
合わせてご参考にしてください。
まとめ
以上、今回はマイクプリアンプについての基礎知識をご紹介しました。
マイクプリアンプそれぞれの音に特徴があり、マイクとの相性も機材によって異なるのだとか。
アウトボードのプリアンプはなかなかアウトボードを宅録で使用するにはハードルが高いと思いますが、一度その違いを体感してみたいですよね。
マイクプリアンプは、ハイエンドのモデルだと数十万円〜数百万円とかなり高価です。
まずはプラグインでシミュレーションしてみたり、お目当てのマイクプリアンプが置いてあるレコーディングスタジオでレコーディングをして機材のサウンドを体感してみてはいかがでしょうか。
東京出身の音楽クリエイター。 幼少期から音楽に触れ、高校時代ではボーカルを始める。その後弾き語りやバンドなど音楽活動を続けるうちに、自然の流れで楽曲制作をするように。 多様な音楽スタイルを聴くのが好きで、ジャンルレスな音楽感覚が強み。 現在は、ボーカル、DTM講師の傍ら音楽制作を行なっている。 今後、音楽制作やボーカルの依頼を増やし、さらに活動の幅を広げることを目指している。