コンプレッサーとは?
コンプレッサーとは、ダイナミクス系のエフェクター(※1)の一種です。
コンプレッサー(英:compressor )を日本語訳すると「圧縮機」と言う意味で、音響機器におけるコンプレッサーは、音を圧縮させる役割を担います。
コンプレッサーは、設定した閾値(しきいち)を超えた音量を任意の割合で圧縮してくれます。
(※1)音量に関わるエフェクトのことを「ダイナミクス系エフェクト」と呼びます。
コンプレッサーの効果って?なぜ圧縮するの?
音量のバラツキを揃える(音が前に聞こえる)
「圧縮することで何がいいの?」と疑問を抱えている方も多いのではないでしょうか。
音が圧縮されることにより、音量のばらつきが整えられるため、リスナーが快適に音楽を聴くことができることが挙げられます。
例えば、ボーカルを録音すると、特定の箇所だけ音量が小さくなって聞き取りづらかったりします。このような音量差があると、耳が疲れてしまいまったり、歌詞が聞き取りづらくなったりする原因となります。
音源にばらつきがある時、コンプレッサーを使用することは有効です。
また、音量差が少なくなった結果として、全体的な音量レベルを上げる余地ができるため、音に迫力が出ることも効果の一つです。
音に変化を与える
コンプレッサーは、次章でご説明する設定項目を利用することで、音のグルーブ感に変化をつけることもできます。
さらに、アナログのコンプレッサーは、コンプレッションせずに音を通すだけでも音色に変化があると言われています。
これは、音から変換された信号がコンプレッサーを通過する際にアナログ回路で処理を行うため、その機器特有のサウンド特性が加わるからです。そのため、機器特有の音の変化を求めてコンプレッサーを通す人も多いです。
また、最近ではデジタルコンプレッサーにも、アナログ回路をモデリングしたプラグインがあります。
そのようなプラグインでは、アナログ機器同様、コンプレッションせずとも音の違いを出すことができます。
コンプレッサーの設定項目(パラメーター)
コンプレッサーを使う時は、音を圧縮し始める音量や、コンプレッサーがかかり始めるまでの時間など、時間軸上のコンプレッサーのかかり具合を調整する設定が可能です。
パラメーターの値を変えることによって、音に変化をつけることができます。
この章では、具体的なコンプレッサーの設定項目(パラメーター)をご紹介します。
Threshold(スレッショルド)
Threshold(スレッショルド)とは、コンプレッサーが動作し始める音量の閾値(しきいち)を示す項目です。
スレッショルドを下回る音はコンプレッサーの影響を受けませんが、スレッショルドを超えた音に対してコンプレッサーが作動します。
つまり、スレッショルドを低い値に設定すると、圧縮される対象の音が多くなります。
Ratio(レシオ)
レシオは、スレッショルドを超えた音をどれだけ圧縮するかの割合です。
例えば、レシオを2:1で設定した場合、スレッショルドで設定した値から4db 超えた際に、超えた分の音量の1/2で圧縮されるので、結果として2db 減音されます。
つまり、レシオが高ければ高いほど、音が圧縮されます。
Attack Time(アタックタイム)
アタックタイムとは、設定したスレッショルドを音が超えてから、コンプレッサーがかかり始めるまでの時間です。
アタックタイムが長いほど、コンプレッサーが作動するまでに時間がかかり、短いほどすぐに作動します。
Release Time(リリースタイム)
リリースタイムとは、音量がスレッショルドを下回った後にコンプレッサーが圧縮を解除するまでの時間です。
リリースタイムを短くすれば、音がスレッショルドを下回った際、すぐに元の音源の音量に戻ります。
反対にリリースタイムを長く設定すると、スレッショルドを下回った音に対しても圧縮がすぐには解除されず、ゆっくりとコンプレッサーが外れていきます。
Knee(ニー)
ニーは、スレッショルドを超えた音に対して、どれくらいの穏やかさで圧縮するかを設定する項目です。
スレッショルドを超えた音に対して、急激に圧縮をすることをハードニー( Hard Knee )と呼び、緩やかな圧縮をすることをソフトニー( Soft Knee )と呼びます。
ハードニーは、主に音を押さえ込む場面や、音源が急激な変化を示す場合に使用されます。
ソフトニーは、自然なダイナミクスの変化が求められる場合に使用することが多いです。
ニーの設定は、こちら側で調節できるものと、機材やプラグインによっては元から値が決まっている場合もあります。
その他
Make-up Gain(メイクアップゲイン)
メイクアップゲインは、全体の音量を増幅するためのパラメーターです。
コンプレッサーを使用することで、スレッショルドを超えた音が圧縮されますが、その分全体の音量を持ち上げる余裕ができます。
リダクションメーター
リダクションメーターは、コンプレッサーをかけたことによってどれくらい元の音から減音されているかを視覚的に確認できるメーターです。
コンプレッサーをどれくらいかけるかの判断に役立ちます。
コンプレッサーをかけるポイント
この章では、コンプレッサーをかける際のポイントをお伝えします。
仕上げたい音のイメージを持つ
どれくらいコンプレッサーの掛け方は、自分が表現したい音によって異なります。
まずはどのような音にしたいかのイメージを持ち、その音に近づけるよう調整していくのが良いでしょう。
元の音と同じ音量で比較しながら調整
人間の耳は、音量が大きいほど良い音と判断する特性があります。
コンプレッサーをかけると、圧縮した分音量が小さくなります。
そのため、元の音源からどのような音の変化があったかを正確に把握するために、元の音源と、コンプレッション後の音量を合わせて確認をすると良いでしょう。
かけすぎに注意!
コンプレッサーのかけ過ぎには注意が必要です。
コンプレッサーを過剰に掛けてしまった場合、大きい音と小さい音の差が極端に少なくなってしまい、音の表現を豊かにするダイナミクス(音の強弱による表現)が少なくなってしまいます。
その結果として、全ての音が似たような音量になってしまい、楽曲全体が平坦に聞こえてしまう可能性があります。
コンプレッサーはどれくらいかければ良いの?
ここまで読んでくださった方たちは、コンプレッサーの基本的な使い方や概念を理解されたと思います。
しかし、実際に使用する場合は、何を基準に、どのように、そしてどれくらいかければ良いの?と頭を抱えている方も多いのではないでしょうか。
コンプレッサーをどれくらいかければ良いか判断するには、表現したい音のビジョンを持ち、コンプレッサーをかける目的を明確にすることが大切です。
なぜなら、目的や表現したい音によって、設定のアプローチが異なるからです。
そのため、一概に「ボーカルに対する設定はこの数値だ!」のような決まったものがある訳ではありません。
例えば、「ボーカルの音のばらつきを馴染ませたい!」という場合は、アタックタイム、リリースタイムは短くします。また、A の部分にもコンプレッションをかけたい場合は、A の音量に引っかかるスレッショルドに設定しておく必要があります。
一方、B の部分のみにかけたい場合は、B 部分の音量からコンプレッションがかかるようにスレッショルドの値を設定します。
一方、「ピアノの打鍵感を強めたい!」といったトランジェントを調整する場合は、アタック感を出すために、スレッショルドは波形のリリース部分にコンプレッションがかかるように設定しつつ、アタックタイムとリリースタイムを長く設定します。
このことにより、コンプレッションが始まるまでに時間がややかかるので、アタックの音は保ちつつ、リリースの音はコンプレッションされるので、ピアノを強く演奏した際のアタック感を演出できます。
元の音源
コンプレッション後
このように、実際にコンプレッサーをかけてみて、どこをどのように設定すれば音が変化するかを理解することが大切です。
また、音は相対的なものなので、歌や楽器など、他の楽器との兼ね合いによっても異なります。上記の例はあくまでざっくりとした一つの参考例となります。
かけ具合は、一番の理想は耳で判断していくことですが、必要に応じてリダクションメーターでどれくらいコンプレッションされているかを確認しながら行うと良いでしょう。
最近では多くの人が YouTube 上で、自分のトラックデータを公開しながら解説しています。
動画を参考にしたり、また自分で実際に試してみて、音作りを学んでいくことが可能です。
このように経験を重ねていくと、自分の中で目的別にだんだんと設定の仕方が確立されていくでしょう。
例:Mixing Dua Lipa's vocals with Josh Gudwin
まとめ
以上、今回はコンプレッサーについてご紹介しました。
コンプレッサーの基本的な使い方を知り、自分の楽曲に使用することで、表現できる幅が増えます。
はじめは DAW に標準搭載されているコンプレッサーを使用してみるところから始めてみると良いでしょう。
また、コンプレッサーの概念を知っておくことは、その他の様々なプラグインの役割を理解することの手助けにもなります。
例えば、リミッターやマキシマイザーの仕組みはコンプレッサーとよく似ているので、それぞれの役割をより把握しやすくなります。
リミッターに関しては、以下の記事で詳しくご紹介しているので、合わせてご覧下さい。
東京出身の音楽クリエイター。 幼少期から音楽に触れ、高校時代ではボーカルを始める。その後弾き語りやバンドなど音楽活動を続けるうちに、自然の流れで楽曲制作をするように。 多様な音楽スタイルを聴くのが好きで、ジャンルレスな音楽感覚が強み。 現在は、ボーカル、DTM講師の傍ら音楽制作を行なっている。 今後、音楽制作やボーカルの依頼を増やし、さらに活動の幅を広げることを目指している。