音声ディレクターのお仕事とは?! | (後編)ラジオ録音で「音声」ディレクションをしてもらったら…?!

「ディレクター」という言葉を聞いたとき、どんなイメージが湧きますか? 一般的に「ディレクター」と聞くと、テレビや映画の制作現場で指揮を執る人や、監督と共に制作をする人が思い浮かぶかもしれません。 音楽制作の現場にも「音楽ディレクター」がいます。しかし、その具体的な仕事内容や役割は、あまり知られていないのではないでしょうか。 今回は、都内で活躍する音楽ディレクター、坂口和代さんにディレクションをしていただく体験を通じて、音楽ディレクターの仕事に光を当て、その魅力と奥深さを探ります。音楽の舞台裏に隠れた世界へ一緒に足を踏み入れてみましょう。

asu
2023-12-158min read

前回の記事では、「あいみょん / 裸の心」ワンコーラスをディレクター・坂口和代さんに導いていただくディレクション体験記をお送りしました。

今回の題材は、「ラジオ番組収録」です。全く同じスタジオで、同じ機材ですが、言うまでもなく歌唱と「喋り」は別物。ディレクター・坂口さんはどのようなディレクションを行うのでしょうか?「音楽」ディレクターとは少し異なる、「音声」ディレクターのお仕事に迫りましょう!

ラジオ番組収録

前回記事の歌唱編から、立て続けにラジオ番組収録を行います。

ここで前提を整理すると、「音楽ディレクター」と「音声ディレクター」は、全く別のお仕事です。

音楽ディレクターは、前回の記事でご紹介した通り、アーティストの「音楽」についての舵取りを行います。一方で「音声」ディレクターは、声優や、ナレーターの、演技や台本読みなど、「音声コンテンツ」について舵取りを行います。声優、ナレーターと、クライアントなどの関係者の間に入り、音声コンテンツの雰囲気やイメージをディレクションする重要な役割です。キャラクターの演技や、台本への深い理解が必要になるなど、音楽ディレクターとはまた異なる難しさがあります。

実は坂口さん、音楽ディレクターの他に、この「音声」ディレクターとしても活躍中なのです!!しかも、音楽ディレクターと音声ディレクターの両方をやっている方は、なかなかいらっしゃいません。

今回は、ご厚意で「音声」ディレクションも合わせて体験させていただくことになりました。では、実際のディレクションを通じ、知られざる音声ディレクターのお仕事に迫りましょう!

体験する人

体験するのは、私 Asu です。普段から、ナレーションやラジオ番組を担当しています。しかし、自宅でのレコーディングが多く「プロの耳にはどう響くのか」を知りたいと思って臨みました。

普段、私は自宅で録音する際に番組のBGMをイヤホンで(マイクには乗らないように)聞きながらレコーディングします。しかし、今回はBGMは聞かずに、マイクに乗った自分の音声のみ(マイクの返しのみ)聞いて、台本に集中する形で進めました。

体験前に準備したもの

事前に用意したものは印刷した原稿2部(ディレクター用、自分用)で、内容は実際にラジオ番組で読んでいるものです。当日に坂口さんへ直接手渡しで共有しました。今回は特に、ディレクションの前後でどのような変化が生まれるのかを探るため、あえて普段のラジオ番組の空気感やテンポ感などは坂口さんに伝えずにスタートしました。

坂口さんと Asu Studio A-tone C スタジオコントロールルームにて レコーディングブースに入る前に軽く台本チェック

番組構成(10分の番組)

  • オープニング
  • コーナー1
  • コーナー2
  • エンディング

レコーディングスタート!

マイクチェック

まずはオープニング部分でマイクチェックです。普段の宅録と同じように台本を読み上げました。

それを受けた坂口さんからの指示は以下の通り。

  • リップノイズ(※)防止のため、水を飲む
  • 口を縦に開く意識を持つ
  • 目の前に聞いている人がいるというイメージで
  • 台本に、息継ぎのタイミングや「一拍置く」タイミングを記入する
  • 「一拍置く」タイミングは、イベント名の前後などで強調したいとき
  • 一度に少しずつ録音して進める(この番組の場合は4−5行、250字くらいずつ)
  • 一方で、全体を通しで録音するスタイルは、統一感が出るというメリットもある

一部、Namiの歌唱ディレクションと同じ部分がありました。歌詞や台本といったジャンルに関わらず、「伝える」ことの大切さを感じます。また、台本を読む上で役に立つ方法を、具体的に教えていただきながら「他のナレーターさんもこうしてるよ」といった、現場で実際に使われているテクニックを教えていただけるのも非常に安心感がありました。

1テイク目

全部で10行ほどのオープニングでしたが、2ブロックに分けて録音をしていきます。

1ブロックが終わったところで、以下のようなもう少し細かい指示が出ました。

  • 文章の一文字目をはっきりと言う
  • 固有名詞は特に聞き取りやすく発音する
  • 例)番組タイトル、人物名、場所の名前など

以前から、一文字目がフワッとしてしまうクセがあったので「見抜かれた〜」といった感じでした(笑)。

台本の中で当てはまる箇所に記号を書き込んでいくと、1行に3−4箇所ほど。割と多いですね。台本へのマークの書き込みなしでは読むのに集中できないと思われます。

2テイク目

そして、いざ2テイク目!!

録音した音声を聴くと、明らかな違いが出ました。自分の声が、明るく、楽しそうになっています。さらに、坂口さんからたくさん褒めていただいて、より乗り気で声が出せるようになっていました。

この調子で、番組全体を少しずつ区切って録音しました。

すぐに指示通り出来た箇所もありながら、そうでなかった部分は都度話し合いながら修正版を録音していただきました。

その他のポイントをまとめるとこちらの内容です。

  • 紹介するイベント名などにはイメージをこめる
    • 例)「ハッピーフェスタ」→「楽しい」お祭り、のイメージで明るく!!
  • 読み間違いに注意
    • 例)「促進(そくしん)」と「推進(すいしん)」
  • 台本を意味が変わらない程度に読みやすく・聞きやすく修正
    • 「書いた」時と「読んだ」時では印象が異なったりするので都度チェック!
    • 1文が長くなったら、分けて聞きやすくする
      • 例)「A高校を卒業後、B大学を経由し、C企業に就職しました」→「A高校を卒業後、B大学を経由。C企業に就職しました」
    • 同じ格助詞が連続するところなどは違和感がないように修正

開始から、およそ30分ちょっとで完了しました。

普段1人で宅録する際は、1カットで全体を録音することを合計2回行うのですが、集中に入るまで長くかかるなどして1時間以上になることがざらにあります。そのため、確認を含めて30分で終わったことは衝撃的でした。

さらに、普段と比較して一番驚きだったのが「自分が思っているよりも読む力があった」ことです。おそらく、宅録では「録音機材のチェック」、「音が録れているか」、「聞こえ方はどうか」、「正確に読めているか」、など「読む」以外にもかなり意識を使っているのだと思います。そうした役割を、今回ディレクターの坂口さんが担って、より良い方向に導いてくださいました。そのため、今まで噛む回数が多かったり、淡白に聞こえていたりした内容が、実感として「ちゃんと読めている」という手応えに繋がったのだと思います。

方向性を示してもらいながら「読む」ことに集中できるのは本当に楽でしたし、シンプルにラジオが楽しかったです。そして何より、録音した音声のクオリティが、普段と比較して格段に上がりました。プロフェッショナルと仕事をすることの重要性を感じます。

ビフォーアフターの音源

台本の内容を鑑みて、音声の公開が難しいという結論に至りました、、、ごめんなさい!

坂口さん Studio A-tone C スタジオコントロールルームにて 編集作業中

坂口さんのディレクション解説 〜ラジオ番組収録編〜

−ラジオ番組のディレクションはどのようなポイントがありましたか

歌唱とラジオ番組などのセリフは、ディレクションの持っていき方が違うんですよね。

そしてもし、歌唱が本番でCDにするクオリティなんだとしたら、多分もっと突っ込んでたと思います。一方で、ナレーションは今回はこれが放送されるもので、いきなり本番だったので、「だったらもう最低限ここまで持ってかなきゃ」っていうところまで、今日出来る範囲内でディレクションをしました。もしラジオも練習だったら、もっと違っていたと思います。

−Nami の歌唱ディレクションと、私のラジオ番組収録に共通していることはどんなことでしょうか

2人とも共通しているのは、元々持ってるものがあるので、そこは崩さないように意識しました。普段からラジオを聞いてくださってる方もいらっしゃるだろうし、「急に変わったよね」とリスナーに思わせてしまっても困っちゃうし。

なので、ラジオだったらこうしたいよねっていう、ああしたいよね、ではなくて、「こういうラジオを聞きたいな」っていうリスナーの立場で考えるところ。歌も同じで、こういう歌を聞きたいな、こういう風にしてるのを聞いてみたいな、この人の歌で、というところをディレクションで引っ張ります。目的は一緒なんですよね。

目的の場所に導くために、こう言ってみようかな、ああ言ってみようかな、と考えてやってみるだけなんです。そうして試行錯誤しています。

とにかく、今回は2人とも共通していえるのは、 1回目に言ったことをストレートにやってくれるので、非常に早かった。良かったと思います。

−そう言っていただけて安心しました(笑)。今後に向けて、アドバイスをお願いします。

2人に共通して言えることでもあるんだけど、口は縦に開きましょう、かな(笑)。

口を縦に開いただけでね、こんなに聞こえ方が変わるんだ、というのは体感していただいたと思います。

今後も、ラジオ収録の時などに「縦に口を開く」というのを意識すれば、これから先もそんなに変わりなく収録できるんじゃないかな、と思います。

まとめ&感想

実際のレコーディングを通じて、知られざる音楽・音声ディレクターのお仕事に迫りました。客観的に聞いて導いてくれる存在がいると、楽曲や番組のクオリティを大きく左右するのかと驚きです。

さらに、現場を通じてプロフェッショナルの耳には自分たちの声がどのように聞こえるのか、を知る経験になりました。プロフェッショナルと共に作品を作り上げることは、楽曲や音声コンテンツそのものの完成度が上がることはもちろん、アーティストにとってもレベルアップをする最短距離になるのだと思います。1人で楽曲と向き合うことも重要ですが、経験豊富なプロに聞いてもらうことも大切です。

今回、音楽・音声ディレクターの坂口和代さんには、お忙しい合間を縫って特別に取材にご協力いただきました。音楽・音声ディレクターのお仕事を分かってもらえるなら、音楽について発信しているなら、というご厚意でお受けいただきました。作品への情熱と愛情が溢れるディレクションをしてくださり、誠にありがとうございました。

あなたも次回のリリースで、音楽ディレクターと共に楽曲を制作してみてはいかがでしょうか?

きっと素敵な方向に導いてくれます。


プロフィールご紹介

坂口 和代(さかぐち かずよ)さん

都内で活躍する音楽・音声ディレクター。25年レコーディングエンジニアとしてキャリアを積み、その経験を活かして現在はフリーランスで音楽・音声ディレクターとしても活動の幅を広げている。自身の音楽経験から「女の子の声を可愛く録る」ことを使命とし、実際に女性ボーカル、女性声優からも厚い信頼を得ている。

Studio A-tone(スタジオアートーン)

WEBサイト:https://www.studio-a-tone.com
Studio A-tone 東麻布
  住所:東京都港区東麻布1-8-3 エスビルディング
Studio A-tone 四谷
  住所:東京都新宿区四谷三栄町14-5 名倉堂ビルB2
SoundValley
  住所:東京都新宿区四谷本塩町15-12 カーサ四谷 羽毛田ビル B1,B2

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Written by
asu

5歳の頃にピアノを始め、鍵盤や打楽器に触れる。 学生時代はヒットチャートを中心に音楽を聴いてきたが、 高校生の頃にラジオ番組を聴くのが習慣になり、 次第にジャンルを問わず音楽への興味を持つようになる。 野外フェスや音楽イベントへ通い、ライブの持つパワーや生音の素晴らしさを実感。 現在はピアノと合わせてウクレレを練習している。 弾き語りが出来るようになるのが目下の目標。

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