

パッチベイとは?
マイクプリアンプや EQ などのアウトボードをお持ちの方や、ギターのエフェクターを使用している方、さらにはハードウェアのシンセサイザーをお持ちの方など... このようなハードウェア機材を複数お持ちの方は、レコーディング時に様々な選択肢がありますよね。様々なパターンを試そうとした時や、前回のルーティングから変更する時など、ケーブルの抜き差しが手間に感じている方も多いのではないでしょうか? パッチベイは多くのアウトボードを使用する音楽スタジオや、ライブハウスなどで目にする機会が多いと思います。ですが、自宅スタジオや、宅録でもおすすめです。 この記事では、パッチベイについて解説していきます。

パッチベイとは?
パッチベイは、ルーティング(※)の切り替えを簡単に行えるようにする装置です。
たとえば、曲によってギターの音作りを変えたい時や、歌い手によって使用するアウトボードを切り替えたい時、あるいは使用するハードウェアのシンセを変更したい時など、接続を都度変更する必要があります。
しかし毎回ケーブルを抜き差しするのは手間がかかります。さらに、多くの機材では接続端子が背面にあるため、作業がより億劫になりがちです。
こうした状況で活躍するのがパッチベイです。
背面にあらかじめ各音響機器を接続しておくことで、パッチベイは“音響機器のハブ”のような役割を果たします。
各機材の入出力は前面のフォンジャックに集約されるので、ルーティングの切り替えは「パッチケーブル」と呼ばれる専用ケーブルを差し替えるだけです。これにより、機材の入出力を手軽に切り替えることが可能になります。
また、パッチベイを使うことでハードウェア本体側のケーブルの抜き差しが減るため、接続部分の劣化を防ぎ、機材の長持ちにも繋がります。
(※)ルーティングとは、音の信号が流れる経路のことです。例えば以下のような接続の順番です。
マイク → プリアンプ → コンプレッサー → インターフェース
パッチベイの構造
基本的なパッチベイは、前面と背面それぞれに、フォンジャックが縦に2段ずつ並んだ構造になっています。
この2段は、それぞれ「A(上段)」と「B(下段)」に分かれており、前後がセットで機能します。また、各セットごとに、次章でご紹介するモードの切り替えが可能です。
前面
背面
モード(信号の流れ)の種類
パッチベイの接続には、3種類の接続モードがあります。使用方法によってモードを切り替えることによって、色んな使い方を実現することが可能です。
どのモードでもパッチベイの上段は出力、下段は入力を担います。
・フルノーマル
フルノーマルモードでは、前面にパッチを接続していない状態だと、信号が背面上段から下段に流れるようになっています。
前面にパッチを接続すると、上下の信号は切り離されます。
そのため、背面上段に接続された信号は、前面の上段に信号が流れます。

・ハーフノーマル
ハーフノーマルモードでは、前面にパッチを接続していないと、信号が背面上段から下段に流れるようになっています。
前面上部にパッチを接続すると、背面下段に流れるものと、前面上段に流れるものとで信号が2つに分かれます。
また、前面下部にパッチを接続すると、上下の信号は切り離されます。

・スルー(ストレート)
ストレートモードは、パッチを接続していない状態でも上段と下段で信号が切り離されているモードです。
このモードは各機材の入力、出力を前面で操作しやすくするために利用されることが多いです。

パッチベイ使用例
パッチベイの使用方法は無限大ですが、基本的な使用例を一部ご紹介します。実際にどのようにパッチベイを活用できるかのイメージが深まるでしょう。
ボーカルレコーディング時のルーティング
レコーディング時、マイクに接続するアウトボードを柔軟に切り替えることができます。
例えば、通常はいつも使用しているオーディオインターフェース(以下O/I)のマイクプリアンプを使いたい、でも時々外部アウトボードのマイクプリを使用したいという方。
2の背面上段にマイクを接続し、2の背面下段に O/I を接続した状態でフルノーマルモードに設定しておけば、パッチングを行わずに O/I内蔵のマイクプリアンプを使用することができます。

一方で、外部アウトボードのマイクプリアンプを使用したい場合は、前面からパッチングを行うことで、
マイク → 外部マイクプリアンプ → O/I というルーティングに切り替えることが可能です。

エフェクターの切り替え
スルーモードを使用すれば、シンセサイザーやギターに接続するエフェクターの切り替えもスムーズに行えます。
以下の図は2の背面上段にシンセ1を接続し、5の背面上段にアナログディレイを接続。さらに前面からシンセ1→ アナログディレイ → O/I とパッチングしています。

ディレイの後に別のエフェクトを追加したい場合、例えば9の背面上段にリバーブや歪み系エフェクターなど任意のエフェクターを背面につなげておくことで、必要に応じてルーティングを簡単に入れ替えることができます。

LINE録音の楽器の切り替え
複数のシンセサイザーやギターなどをお持ちの場合、それぞれをパッチベイの背面に常時接続しておくことで、前面の差し替えだけで簡単に LINE録音用の入力切り替えが可能になります。こちらもスルーモードで実現できます。
このセッティングは、INPUT数が少ないオーディオインターフェイスを使用している場合、特に有効です。
以下の図は2の背面上段にシンセ1を繋げた図です。

例えば、4の背面上段にシンセ2を接続しておき、前面からパッチングを行うことで、シンセ1とシンセ2を簡単に切り替えて使用することができます。

デジタル制御によるパッチベイでさらに簡単に
今回はパッチケーブルで接続を切り替えるパッチベイをご紹介しましたが、100%デジタル制御のパッチベイも存在します。
Flock Audio The Patch は、デジタル制御のパッチベイ で、PC 上でルーティングの切り替えが可能です。つまり、パッチケーブルによる抜き差しすら不要なのです。
少々お値段は張りますが、プロの制作現場でも取り入れられており、作業をより効率的にできるでしょう。
まとめ
以上、今回はパッチベイについてご紹介しました。
ケーブルの抜き差しは、どうしても手間がかかりますよね。
「セッティングが面倒だな……」と感じている方にとって、パッチベイはきっと心強い味方になってくれるはずです。
アナログのパッチベイ だと、安いものであれば2万円以内で購入することも可能です。
レコーディングや音作りの手間を最小限に抑えるためにも、導入を検討してみてはいかがでしょうか。

東京出身の音楽クリエイター。 幼少期から音楽に触れ、高校時代ではボーカルを始める。その後弾き語りやバンドなど音楽活動を続けるうちに、自然の流れで楽曲制作をするように。 多様な音楽スタイルを聴くのが好きで、ジャンルレスな音楽感覚が強み。 現在は、ボーカル、DTM講師の傍ら音楽制作を行なっている。 今後、音楽制作やボーカルの依頼を増やし、さらに活動の幅を広げることを目指している。