新人スタジオエンジニアのリアルなお仕事(3)| 最終的にはフルオーケストラの録音をやれるようになるのが僕の目標ですね。

アーティストやミュージシャンのレコーディング現場で、音響機器やDAWを駆使して最高の音を録音するレコーディングエンジニア。音楽がまさに生み出されていく現場に関わることは非常に刺激的であり、大きなやりがいのある仕事だといえるでしょう。 そんなレコーディングエンジニアたちのリアルに迫るべく、都内3箇所にプロユースのレコーディングスタジオを構え、さらにはライブハウスの運営も行う Studio A-tone(スタジオアートーン。運営会社:株式会社フリーマーケット)に関わるプロフェッショナルたちにお話しを伺います。

asu
2023-09-2210min read

第1弾となる本記事は、スタジオ入社3年目の澤畑 慧(さわはた けい)さんにお話を伺っています。

前回の記事では、澤畑さんが音楽業界を目指すようになった音楽体験や、就職活動から研修を経て入社をするまでについて伺いました。

最終回となる今回の記事では、入社してから新人エンジニアとしてのこれまでと、これからの目標など、"未来"に繋がるお話しをお聞きします。

新人の苦労

澤畑さん Studio A-tone Aスタジオコントロールルームにて

−若手ならではの仕事をお聞かせください。

やっぱり入社1年目というのは、どうしても技術的に分からないことがあります。自分で理解していた気になっても、実際は分かっていなくて「じゃあこういうパターンの時どうするの」という時に、応用が効かないことが1年目ではよく出てくるんですけど。僕は、例えば機材のトラブルシューティングにも、対応が遅くなっちゃったりする場面があって、現場が10分ぐらい滞っちゃったのは、すごく悔しかったですね。

先輩も手が離せなくて、誰にも聞けない時があるので、日頃から常に学ぶ意識というか、仕事じゃない部分で勉強しておいたり、知識を身につけておいたりすることが大事なんだって、本当に痛感しています。

−「仕事を覚える」と一言で言っても、もちろん1年目は機材の種類を覚えることであったり、現場での動き方を覚えなきゃいけなかったり、色々な種類があると思いますが、どういったことをしましたか。

もう、全部ですよね。

機材のこともそうですし、アシスタントはレコーディングで使用する音楽ソフトの操作をメインで回して、現場を円滑に進めるのが役割なので、そういったソフトの操作も覚えなきゃいけないんです。

そしてもちろん、1番大事な人と人とのやり取りを見て学ぶ、というのが身に着けるのにとても時間がかかります。まだ今でも精進中、勉強中ではあるんですけど。

それらを覚えなきゃって思いながら、1か所に集中すると、他ができないというのがはっきりと出ちゃって、反省することがあったりします。なので、1個覚えればできるとか、この操作ができるからすごいというわけではないというのを、1年目は本当に叩き込まれました。

−例えば、アシスタントは収録が始まる前からも、機材のセッティングなどを準備しておくようなイメージがあるのですが。

そうですね。お客様が来た時には「もうこっちは準備できてますよ、録る準備OKですよ」という状態を作っておかないといけないんです。

僕は割と心配性なので、お客さんや先輩が来る4時間前くらいにはスタジオに入っています。アシスタントがやらないといけない掃除から始めて、機材のセッティングをして、ということがあります。多分、他の方より何時間も前にスタジオに入っていましたね。朝早く、7時にはもうスタジオにいるようなこともありました。もちろん早いに越したことはないんですけど、目的はそこではなくて、万全な状態で用意をしておく、ということです。それを常に心がけています。

−アーティストも気持ちよくレコーディングができそうですね。他に、機材のセッティングで意識していることはありますか

「気遣い」ですね。例えば、このマイクの高さを見てもらえると分かると思うのですが、低くないですか?この後にいらっしゃる演者さんの身長はこれくらい(その時のマイクよりも15センチほど高い)なのですが、必ずマイクをセッティングする時には演者さんよりも低い位置にする、というのを先輩に教えてもらいました。これはちょっと日本的なのですが、自分が演者さんとしてマイクの高さを調整する時に、自分が使うよりも上の位置にあるマイクを下に下げてアシスタントにセッティングされるよりも、自分の口元よりも下の位置にあるマイクを上に上げて高さを調整される方が、気持ちが良いというか(笑)。

技術的なことももちろん重要なのですが、現場はそうした細かい気遣いの連続だったりします。演者さんの気持ち一つで声や音の印象がガラッと変わっちゃうものなので、いかにストレスがない状態でやっていただけるかが大切だと意識しています。

澤畑さん Studio A-tone Aスタジオ Booth にて

−エンジニアとしての得意分野はありますか

まだ、あまり自分の中で得意ですというのを、見つけられてはいなくて、挙げるのが難しいですね。

好きなことで言うと、最近はゲーム音声収録などが好きですし、得意にもしていきたいとは思っています。

ただ、僕のトータル的な目標としては、バイオリンなどの生楽器は劇伴(※1)で使われていたりもするので、 もっと楽器に対しての理解を深めていきたいな、とは思います。機材もそうですけど、やっぱり楽器に対しての理解というのは、身につけていきたいと思います。

ピアノをやっていた時は、楽器の特徴を見つけるのがすごく好きでした。スタジオにあるピアノなども、個人的にこっそり弾いて聞いたりしてて「あ、こういう特徴があるんだな」といったことを、 探るのが好きです。そういう理解も深めつつ、 いわゆるテクニカルなところを磨いていけたらと思いますね。

(※1)「劇伴(げきばん、「げきはん」とはあまり言わない)は、映画やテレビドラマ、演劇、アニメ等の視覚作品に合わせて流される音楽であり、転じて音楽ジャンルのひとつ。」{Wikipedia, 劇伴(2004年9月10日),[https://ja.wikipedia.org/wiki/劇伴],(最終検索日:2023年8月18日)}

今後の夢と目標

澤畑さん Studio A-tone Aスタジオコントロールルームにて

−現在取り組まれていることをはっきり意識されているんですね。では、今後の目標やキャリアについて教えていただけますか。

今後の目標として、劇伴、いわゆるアニメのサウンドトラックだったり、映画のサウンドトラックだったりをメインのエンジニアとしてやるというのが、僕の目標です。

劇伴の作業でうちのエンジニアを使うクライアント様も結構いらっしゃるので、そういう仕事をしている先輩の下について、できればあと3年以内に自分を指名してもらえるようなチャンスを探せたらなとは思ってますね。なんとなく僕の中で期限をつけないと、永遠にズルズルやっちゃいそうなので、僕が25歳になるぐらいには、 1個でもそんなチャンスを探せるようにはしたいなと思っています。

そして、フルオーケストラの録音にも携わりたいです。

フルオーケストラの録音というのはかなり大ベテランの方たちがやってらっしゃるので、何年かかってでもいいと思っています。でも、食らいついて、最終的にはそういうフルオーケストラの録音をやれるようになるのが僕の目標ですね。

−オーケストラの録音、大変そうですね。

本当に大変です。出張録音みたいなのでホールに行って、オーケストラの録音のお手伝いをさせてもらう機会があったりするんですけど、とてもバタバタします。演奏人数も多いですし、どういった進行で録っていくかという段取りや、どういう風にマイクを立てるか、などのセットアップも非常に複雑ですし。

ただそれ以上に、すごく良い音です。ホールごとにも違いますし、録るエンジニアさんによっても違うので、そういう音源を聞いていて、やはり面白いなと思いますね。

普段のレコーディングもとても面白いんですけど、やはりホール録音というのはとても興味がある分野です。

−先日、貴社のサウンドバレイに伺ったんですけど、そこでもかなり大きいものが録れそうですね(※2)。

6型という、ファーストバイオリン6人、セカンドバイオリン4人、ビオラ4人、チェロ4人、コントラバス1人、という編成は入る箱なんですね。なので、劇伴と言われている作業も入ることが多いんです。

このフリーマーケットに入社する前に、事前にスタジオの情報は調べてはいたんですけど、実際にはどういう仕事が多いのか、アーティストのバンド、レコーディングが多いスタジオなのかどうか、といったことは、特に知りませんでした。そこで、いざ入社してみたら、アニメの劇伴の作業も多かったので、僕のやりたいことにマッチしてたというのに入ってから気づきました(笑)。

(※2)サウンドバレイ(Sound Valley)。Studio A-tone と同じく、株式会社フリーマーケットが運営する四谷のスタジオ。

Sound Valley Aスタジオ スタジオ部分

−音楽制作を通じて、届けたいことは何ですか

最近の若い方ってYouTube とか、そういうストリーミングサービスで音楽を聞いたりするイメージが僕の中であって、割と音質にこだわってないというか。

僕のちっちゃい頃とかは結構 CD で聞いてたんですけど、CD で楽曲の音質というものを知らずにきてる世代って、もういっぱいいると思うんですよ。その中でも、「どの媒体で聞いても、これはいい音だな」と思えるような 音作りをしていきたいし、そういう風にアーティストの支えになれたらな、というのが僕の目標でもあります。

なんというか、音楽離れしないでほしいですね。最近の人って音楽聞かないみたいな話も聞いたりするので、音楽ってすごいんだぞというのをどんな些細なきっかけでも知ってもらえるようなクオリティで出していくことはやっていきたいです。どんなのでも聞いてもいいですけど、いいものをちゃんと、聞いてほしいというか、いいものを知ってほしいというか。

−音楽業界を目指す方へのメッセージ

専門学校とか音楽学校って、レコーディングスタジオに関して言えば、就職するきっかけとしては大事な入り口だと思うんですよ。なので、 結構グイグイ行くというか、率先して動くことが大事だと思います。僕も、専門学校時代に知り合ったエンジニアさんに紹介してもらって、大げさかなって思うぐらいに「自分やります」、「自分行きます」と行動していました。割となんでもやっちゃうスタンスが最終的には好まれるという印象を受けますね。

もちろん、専門学校で学ぶ音楽的な用語や、音楽的な知識、機材の知識だったり、現場の雰囲気というのを学ぶことも大事なんですけど、僕の場合は入ってからじゃないと分からないことが70%以上ありました。

僕は専門学校で割と成績は良かったんですけど、機材などを覚えた気になっても実際に就職してみたら、「あれ?よくわかんないな」ということが山のように出てきて。専門学校の知識も、本当に最初の最初の地盤を固めるための土台だった、というぐらいでした。実際に本格的な勉強をするのは、スタジオに入ってからなんだ、というのをとても痛感しました。

僕、高校の頃はそんなにグイグイ行くことが出来なかったんです。小心者というか、遠慮しちゃうというか、ビビりがちだったんです。だけど専門学校に行ってからは人との繋がりが大事だ、というのは聞いてたので「きっかけになるんだったら、俺はなんでもやってやる!」ぐらいの勢いで声をかけたのは実際ありますね。なので「まず入り口に立つためには、なんでもやる!」ぐらいの勢いでいた方がいいと思います。

澤畑さん Studio A-tone Aスタジオコントロールルームにて

以上、3回に渡って澤畑さんのインタビューをお送りしてきました。

浮かび上がってきたのは、音楽業界で働く新人エンジニアのリアルな声。夢と目標を持って積極的にお仕事に取り組む姿勢は、良い楽曲を生み出すことはもちろん、その音を聴くみなさんにもポジティブなエネルギーを与えているはずです。

あなたはどのように音楽と関わっていきたいですか。「 ONLIVE Studio blog 」では、音楽に関わる様々な業種の方のインタビューを発信し、「サウンドメイキングに新たな発見を」読者に届けるため、楽曲制作に関する記事を公開していきます。

以前の記事はこちら!

新人スタジオエンジニアのリアルなお仕事(1)|1番やらなければいけないのは、『周りを見ること』。 | ONLIVE Studio
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プロフィールご紹介

澤畑 慧 氏

名前:澤畑 慧(さわはた けい)
所属:Studio A-tone(株式会社フリーマーケット)
所属年数:2021年〜
生年月日:2001年2月9日
出身:神奈川県横浜市
出身校:日本工学院専門学校音響芸術科 八王子校
趣味:オンラインゲーム、アニメ、ライトノベル鑑賞
音楽以外での目標:綺麗な景色を見る旅がしたい

Studio A-tone(スタジオアートーン)

Studio A-tone 東麻布
  住所:東京都港区東麻布1-8-3 エスビルディング
Studio A-tone 四谷
  住所:東京都新宿区四谷三栄町14-5 名倉堂ビルB2
Sound Valley
  住所:東京都新宿区四谷本塩町15-12 カーサ四谷 羽毛田ビル B1,B2
WEBサイト:https://www.studio-a-tone.com
E-mail:info@studio-a-tone.com

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Written by
asu

5歳の頃にピアノを始め、鍵盤や打楽器に触れる。 学生時代はヒットチャートを中心に音楽を聴いてきたが、 高校生の頃にラジオ番組を聴くのが習慣になり、 次第にジャンルを問わず音楽への興味を持つようになる。 野外フェスや音楽イベントへ通い、ライブの持つパワーや生音の素晴らしさを実感。 現在はピアノと合わせてウクレレを練習している。 弾き語りが出来るようになるのが目下の目標。

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